5 救出と拒絶
歪んだ暗闇の中を、勇者は駆け抜ける。
我武者羅に、迷いなく。
キランッ!
その暗闇の中を一瞬流れる、縦一筋の橙光。勇者は、その一瞬を見逃さなかった。
一目散に駆け寄り、狭間に両手を差し込んだ。
ふんぬっ!
そして、力任せにこじ開けると、巨体を滑り込ませた。
「うーんっ! ふー、うーーんっ!! 」
猿轡を噛まされ、後ろでに縛られた女の子が、自動ドアから押し出されてきた。
手入れの行き届いた艶やかな長い黒髪や、薄ピンクと白のふわふわもこもこストライプ柄の、可愛いパジャマが、状況の歪さを物語っている。
暗闇を温かく包み込むような橙色の街灯とは対照的に、マンション前には、厳つい馬車が複数台停められ、聖騎士団が物々しく張り込んでいた。
「何奴っ!? うっ、うぐっ」
「おいっ、どうしたっ!? うわーっ!!」
「えっ!? 」「おわっ!? 」「ぎゃーーっ!? 」
突如として、聖騎士が次々と伸され始めた。
人間ドミノは、拘束された女の子の下へと一直線に進んでいく。
「──これはこれは。
如何に勇者様といえど、この様な暴挙に出られては、困りますなぁ」
勇者の向かった先、女の子との間に割ってはいるように、一際厳つい甲冑に身を包んだ筋骨隆々の大男が立ちはだかった。聖騎士団の師団長のようだ。
「余、の前に立ちはだかるとは、片腹痛い」
勇者は一切速度を緩めず、拳を師団長の顔面に叩き込む。
「ふっ」
師団長が、これまた大きな掌で勇者の拳を包み込んだ。
余裕綽々の笑まで浮かべている。
「ぐあっ」
が、一瞬にして歪む、その笑顔。
反比例するように勇者の口角が釣り上がった。
師団長の極太い腕が波打つ。
その波動は、巨漢の隅々にまで伝わっていった。
ゴッ!
体が浮いた。
ドッカーーーーンッ!
轟音と共に、植え込みへと激突する。
まるで計算し尽くされていたかのように、女の子は避け、周囲の騎士達のみを巻き込みながら吹き飛ばされていった。
「……あがっ」
師団長は、そう、弱々しく呻くと、動かなくなった。
──っ!?
周囲に緊張が走る。
先程までヘラヘラと笑っていた者も、師団長が軽く吹き飛ばされたことにより、青ざめていた。
「その女……の、子を、離せ」
勇者の言葉に、女の子の両サイドを囲んでい騎士が、後ろの男に視線を送る。男が緩く首をふった。
女の子が解放される。
勇者が両手を広げ、抱擁の体制に入った。
「ナツ。もう、大じょ……」
「きゃーーーーっ! 甲冑男の次は何っ? 魔人っ? もうっ、なんなのっ! 触らないでーーーーっ!! 」
女の子は、目をぎゅっと瞑り耳を塞ぐと、絶叫しながらしゃがみ込んだ。
対する勇者は、一人寂びしくホールドを張ったまま、呆然と佇んでいた。