4 人質
『ドンッ!ガチャ、ガチャ……ちょっと、やめてっ、きゃーーっ! 』
「おっ、おいっ! ナツかっ? どうしたっ? 」
『カイくんっ、カイくんなのっ? 助けっ…プツッ……ツー、ツー、ツー』
「ナツっ! おい、ナツっ、聞こえるかっ!! 」
つー、つー、つー。
通話時間、ほんの十数秒。
それでも、勇者が全てを悟るのには十分だった。
廊下では、まだ、聖騎士団が実況見分を行っている。
数瞬、動きを止めた勇者が、二三歩後ろへと下がった。そして、駆け出す。コンクリート製の手摺に手をかけ、ヒラリと飛び越えた。
「なっ!? なんということをっ!? 」
それに気付いた大司祭が、青ざめた顔で手摺に駆け寄る。
ここは四階だ。例え勇者であっても、飛び降りて無事な筈はない。
「きっ、きえたっ!? 」
身を乗り出した大司祭が、狐に摘まれたかのような顔をして、そう叫んだ。
「……なんちゃって。くふふっ。
やぁった、やった、お祝いだっ! 」
◆◇◆◇
ふ~~ん、ふ、ふ~ん、ふ~~ん♪
ほっかほっかのお風呂上がり、私は美顔ローラーで顔をコロコロとしながら、ベッドの上でテレビを見ていた。
金9のエンディングが流れ出す。
今夜、カイくんは飲み会だと言っていた。そろそろ、家路に着く頃だろうか。
スマホを取り出し、ココアトークを起動する。
『飲み会は、おわっ 』
フリックし終わらないうちに、廊下で音がした。
「えっ? 」
私のマンションは、オートロック式の3階。帰宅時に鍵をかけた記憶もある。
「気の所為よね? 」
たまにある、家が軋む音、だ。
バタンッ!
視線を落とした瞬間、廊下と繋がるドアが勢いよく開け放たれた。
咄嗟に通話ボタンを押した。甲冑姿の男達がなだれ込んでくる。
110番を選ぶ余裕さえ無かった。
テトタ、トロラ、トゥリンッ!
テトタ、トロラ、トゥリンッ!
(早く出てっ! )
祈ること、6コール目。
男達に囲まれ、スマホを持つ手を掴まれた。
「ちょっと、やめてっ、きゃーーっ! 」
『おっ、おいっ! ナツかっ? どうしたっ? 』
スマホの向こう側で、カイくんの声がした。
「カイくんっ、カイくんなのっ? 助けてっ! 」
叫んだのも束の間、甲冑男にスマホを奪われる。
クシャ
「うっ、嘘でしょう」
そのまま、握り潰された。
「きゃ、もう、やめてっ! はなしてっ!! 」
後ろ手に拘束される。
周りの男達が、クローゼットや収納ケースを乱暴に物色し始める。
どうやって、入ってきたのか。
何が目的なのか。
何処へ連れていかれるのか。
何故、そんな格好をしているのか。
どうして、そんなに馬鹿力なのか。
何もかもが、不気味以外の何者でもなかった。