3 殉職と昇格
『もしもし、もしも~し』
「あっ、たっ、助けてくださいっ! 救急車をっ! 救急車を呼んでくださいっ! 」
男が、縋るように叫んだ。
『落ち着いてください。 何がありました? 』
「だっ、大学生が血を流して倒れていますっ! いっ、急いで来てくださいッ!! 」
『状況は? 』
「扉の前で仰向けに倒れてて、しっ、心臓には黄金の剣が突き刺さっていますっ! 早く、救急車をっ! 」
『きゅーきゅーしゃ? 』
「怪我人が倒れているんですっ! 運ぶ人を派遣してくださいっ! 」
男が苛立たげに叫ぶ。
『ああ、なるほど。それでは、馬車を派遣します。場所は、どちらです? 』
「えぇっ!? ばしゃっ? 」
『はい。馬車です』
「とっ、 とにかくっ!! 俺を病院まで連れて行ってくださいっ! 北区〇〇3-4-✕三角ハイツ408ですっ! 」
『ふむふむ、えっ!? うーん、あっ! なるほど』
電話の向こうで、ポンっと音がする。
『わかりました。
残念ながら、“びょーいん” とやらは分かりませんが……。
あの、落ち着いて聞いてください』
電話の相手が声を潜めた。
『その大学生は…………、、魔王ですね。そして、貴方が、その魔王を倒した勇者様です 』
「……」
勇者が、固まった。
「……大学生が、魔王。 ……オレが、倒した勇者様」
そして、告げられた新事実に、スマホに向かって静かに復唱していた。
◇◆◇◆
「勇者様に、お怪我が無いようで良かった。魔王を倒されたとお聞したときは心配しましたよ」
司祭服に身を包んだ恰幅のいい男が、柔和に微笑みながらいう。
「倒したなんて、俺は一言も…… 」
勇者が答える。
その間も、聖職者と思われる者達に、全身を隈無くぺたぺた触られ、怪我の有無を調べられていた。
視線の先では、魔王が運ばれていく。厳つい西洋風の甲冑に身を包んだ、屈強な男達が、担架の両サイドを抱えて階段を降りていった。
「あの、あちらの方々は?」
「聖騎士団です」
「せいきしだんっ!? 救急車はっ? 」
「ああ。下に馬車が止めてあります」
「馬車ってなんですか? 怪我人を運ぶ救急車は? 」
「下に馬車が止めてあります」
「あーっ!! もうっ、なんなんだよっ!! 」
勇者が長い銀色の長髪をわしゃわしゃと掻き回した。
「えっ!? 」
そして、飛び上がる。
天に向かって伸びる2本の角を握りしめていた。
「素晴らしく、ご立派です」
大司祭が、微笑みながら頷いた。
「……。
あの死た……、大学生の体はどうするんですか? 」
何かを悟ったのか、はたまた、諦めたのか、勇者がごくりと生唾を飲み込み、司祭に問う。
相変わらず、角は握りしめられたままだった。
「やはり、気になさいますか。
見たところ、心臓に刺さったエクスカリバーが、魔王の魔力を閉じ込めているようです」
「……えくす、、かりばー」
「はい。エクスカリバー。
魔王の処理については、今、検討中なのですが……。
また、いつ目を覚ますかわかりません。エクスカリバーはそのままに、全身に封印の刺青を施し、封印布で縛り上げたあと、……」
「ぜっ、全身にっ、たっ、たとぅーっ!? しっ、しばりあげるっ!? 」
勇者が声を裏返しながら、再び、飛び上がった。今度は、両手で股間を握りしめている。
「ええっ。
そして、教会最下層の封印牢に閉じ込めておく予定です」
「何も、そこまでしなくても……」
「勇者様は、いとも容易く魔王を滅されましたから、そうお思いなのでしょうが、あの魔王はそれ程までに邪悪な存在なのです」
「ただの大学生ですよっ!! 」
「勇者様は、いとも容易く魔王をめっ……」
大司祭が、にこにこしながら繰り返す。
「そっ、その体は、腐ったりしないのですか? 」
勇者が、話を遮った。
「おおっ、流石は勇者様っ! 魔王のアンデッド化を危惧されているのですねっ! 」
「いや、えーっと…………はい」
「ご安心ください。我らの刺青には聖なる力が込められており対魔の効力を有しております。ですから、アンデッド化も、致しません」
ドヤ顔で、ぴしゃりと宣う大司祭。
「……あっ、あの。その、たとぅ処理というのは何時頃から始めます? 」
「身体を調査したあと、出来るだけ早く着手したいと考えています。遅くとも、二、三日中には」
「……火葬したりは、しませんよね? 」
「そうですね。何が起こるかわかりませんから」
テトタ、トロラ、トゥリンッ!
テトタ、トロラ、トゥリンッ!
スマホがなった。
「すっ、すみませんっ、あっ!? 」
スマホの画面を見た勇者が声を上げた。
「すみません。電話にでます」
そう断わりを入れ、その場を離れた。
「後ほど、お迎えに上がります。皇王陛下との謁見が予定されていますので」
背後で大司祭が言う。勇者は、もう何も答えなかった。
テトタ、トロラ、トゥリンッ!
テトタ、トロラ、トゥリンッ!
『夏菜』
スマホの液晶画面を再確認しながら、勇者が、おそるおそる指をスライドさせた。




