15 謎解きは激務の後で
「あの……」
『只今っ、ちょうど只今っ!! 天王陛下をお乗せした柩が、エドゥサイユ宮殿から運びだされましたっ!
ゆっくり、ゆっくりと、待機中の霊柩車へと── 』
俺の声は、テレビのリポーターの声でかき消された。
「あーーのぉぉっ!! 聞こえていますかぁぁあーーっ!! 」
奥の事務机でキーボードを、恐ろしい速さで打ちつけている男に、俺は叫び掛けた。
……が、此方を見向きもしない。
金髪女を連れ出した俺は、女の運転する車で、寂れた事務所へと連れてこられた。
1階が喫茶店で、2階が事務所という、よく見る造りのビルヂングだ。
通りに面した窓には、『郷探偵事務所』というウインドサインが、これでもかと貼り付けられている。
「こっちよ」
女が建物の右隣に設えられた階段を登っていき、奥へと消えていった。
慌てて追いかけた結果、俺は──放置された。
女は居ないし、男は無視する。それはもう、まるで、俺の存在など無いかのような振る舞いだった。
最初はソファーで、大人しく我慢もした。
しかし、それも限界だ。遂に、俺は男の指を止めるべく、立ち上がった。
ガチャッ。
正にその時だった。右奥の扉が開いたのは。
「いらっしゃい」
女がドレスの端をもち、優雅に挨拶をする。狭さなど微塵も感じさせなかった。
「ほっ、 ホンモノっ!! 」
俺は叫んでいた。
女は女でも、俺が知っている女ではない。
いや、逆によく知っている女……女性とも、言えた。テレビではよく見ることがあったし、実物とも、一度謁見を果たしている。
オシャレに結われた艶やかな黒髪と、猫を思わせる大きな黒い瞳。すーっと、通った鼻梁に、ぷっくりとピンク色の小さな唇。
誰がどう見ても、第一王姫その人だった。
「えっ…… 」
その後ろを着いてきた巨漢をみて、さらに言葉を失った。
キラキラと輝くオールバック風の長い銀髪。
切れ長の目は日本刀のように鋭く、鼻はエベ レスト級に高い。
そして、薄い唇に、細面の輪郭。
頭部に角が無いことと、肌の色が肌色であることを除けば、鏡の中で見たハーフ男その者だった。何時ぞや見た、カーキのチノパンにシロTというスタイルだ。
「……これで、役者はそろった、か。
2人は空いている所に、座ってくれ。
お忙しいところ、お集まり頂き──っと、忘れるところだった。」
やっと視線をこちらに向けた男が、徐に、デスクの引き出しを探る。
「よっっと」
「俺様をこんな目にあわせて、デスポザ様が復活された暁、なっ、何をする──ぎゃーーーっ!!」
わーわー騒ぐ何かが飛んでくる。
ぽふんっ、と音を立て、俺の隣のソファに頭から突っ込んだ。
胴体を紐でぐるぐる巻きにされた、小さいピエロだった。目を白黒させ、頭の上に星を浮かべている。
「──それでは、謎ときを始めるとしよう」
顔の前で手を組み直した男が、ニヤリと口角を釣り上げ、不敵に笑った。