表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

14 器


「元に戻れてよかったわね」


 ブラックスーツに身を包んだ、金髪女が微笑んだ。


 そのくせ、サングラスの奥で輝く大きな瞳は、少しも笑っていない。





 今ここに、夏菜はいない。


 女の『郷探偵事務所公設第一秘書』という肩書きを聞いて、何かを思い出したらしく、部屋の中に走っていった。


「……何のことだか分かりません。身に覚えも有りません。

 ですから、帰ってください 」


 兎に角、嫌な感じがした。


 女は、扉の前で腕を組んだまま、微動打にしない。

 小馬鹿にしたように、微笑んでさえいる。


 俺は、押し出そうと近づいた。





「こっちに、いらっしゃぁ~い」


 女が囁いた。


 その甘ったるい声音に、背筋がぞくりとする。

 耳の奥で、女の喘ぎ声が木霊し始めた。





「……くんっ」


「……イくんっ!」


「……カイくんっ! 大丈夫ぶっ?

 顔が真っ青だよっ!? 」


 夏菜が、俺を抱きしめるように、覗き込んでいた。


「……ああ」


 全然、大丈夫ではなかった。

 夏菜がいなければ、倒れていたかもしれない。


 ……まず、この女が誰だか分からない。

 しかし、今のフラッシュバックで王室の関係者であることは、間違いないと確信した。


 そう言えば、王宮のメイドも金髪碧眼じゃなかったか?


 色々と知っている俺を消しに来た?

 俺の記憶の中に、何か不都合な事実でも隠されているのか?


「……何が狙いだ? 」


 女を睨みつける。


「狙いなんて、ないわ。ただ、貴方のお迎えにあがっただけよ。ホームズ先生のご命令に従って、ね」


 女が手を広げながら言った。


「あっ、そうだ。これ」


 夏菜が、名刺を差し出してきた。


「異世界探偵、シャーロット・郷・ホームズ……って、これは、なんだ? 」


「ほら、さっき話したでしょう。今朝、変な男の人がやって来たって。

 その人から渡された名刺」


「彼が、貴方を呼んでるの。準備をして頂戴。私が案内するわ 」


「えっ!? でも、カイくんは、まだ、体調が……」


「大丈夫よ。

 カイくんが倒れたら、アタシが優しく介抱してあげる」


「な゛っ!?」


 色っぽく微笑む女を、夏菜が睨みつけた。


「俺なら大丈夫だ。ナツは、家で待っといてくれ」


 これ以上、巻き込みたくない。


「カイくんまでっ!! まさか、その人と……」


「ぅんなわけ、ないだろっ!! 」


「ふふっ、そうよ。私にとってカイくんは、愛しい愛しい、ム・ス・コ♡ 」


「ふざけるなっ!! 」


「あら? お気に召さなかったかしら?

 目的は貴方ではなかったけれど、美味しくいただいたのも事実だし……」


「だーーーーーっ!! 」


 俺は、女の腕をとる。


「ナツは、俺の部屋でまってろっ!! 」


 女を引きずりながら、廊下を駆け抜けた。


「ちょっと、まっ──」


 扉の向こうから、夏菜の叫び声がきこえた。



 ……すまん。

 でも、これ以上は……キケンだ。




「ふふっ、可愛い彼女。

 ……立派に育ったわね 」


 背後で女が、呟いた。

不思議と嫌な感じはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ