12 覚醒勇者vs異世界探偵
『私は勇者デスポザであるっ!』
「私はっ、勇者デスポザであるっ! 」
『私は魔王イチノセカイトを滅ぼした! はいっ! 』
「ワタシハッ、マオウイチノセカイトヲホロボシタッ! 」
建物内に、響き渡る声音。
…………。
…………。
…………。
暫くすると、今度は、打って変わって静寂に包み込まれた。
「始まったようね」
「ええ。復活なさるのも時間の問題でしょう」
廊下で二つ影が囁き合う。
「ん? 」
「どうかなさいましたか? 」
「階下が騒がしいわ。見てくる。アナタは、かの方のお傍にいてあげて」
「は」
影が、消えた。
「止まりなさいっ! 」
女性職員が、階上から叫んだ。
一人の男が、階段の中腹あたりを登ってこようとしている。
「きゃっ!? 」
「前世は……淫魔。その記憶を引き継いでいる、と……」
一瞬にして駆け登った男が、呟く。左手で職員の顎を持ち上げ、拡大鏡越しに、顔を覗き込んでいた。
「無礼者っ! ! 手を離しっ、なっ!? 」
振りほどこうとして、職員が絶句する。
男が、既に、背後の十数メートル先を走っていたためだ。
『止まりなさいっ! それ以上先は関係者以外立ち入り禁止っ、きゃぁっ!? 』
慌てて追い掛ける職員の首元を、虹色に輝く何かが掠めた。
ドカーンッ!
ギュルギュルギュルギュルギュルッ!
背後で破壊音が鳴り響く。
「……サッカーボール」
振り返った職員が、壁に埋め込まれたソレを見て、呆然と呟いた。
遥か彼方先では、華麗に着地を決めた男が、チェック柄のコートを翻しつつ、奥の部屋へと消えていった。
「貴様、何奴だ? 」
勇者デスポザが、問う。
「シャーロット・郷・ホームズ、異世界を股に掛ける……探偵さ」
ベレー帽を目深に被り、トレンチコートを羽織った男が、やれやれといった感じで答えた。
ギロッ
途端に、勇者デスポザの目が鋭くなった。
同時に、手に漆黒の闇が収束をはじめる。
「ふっ」
──が、気を取り直したように、ふっと、表情を緩めた。
「今日は、善き日だ。
即刻、消し炭にしてやろうとも、思ったが……」
空間の狭間に右腕を突っ込む。
「余、直々に、手を合わせてやろう」
バリバリバリバリバリッ!
狭間が裂け、濃紫色の禍々しい大剣が鞘走る。
「ほぉ。魔剣カルトヴルッフ……か」
拡大鏡越しに、呟くホームズ。
ゴッ!
剣身に絡みつくように刻み込まれた、二対の大蛇が実体化し襲いかかった。
パン、パーーンっ!!
拡大した拡大鏡で、ホームズが、大蛇を弾き返した。
「面白い。
かのフェンリルですら、一睨みで居竦めると言われる大蛇を、容易く弾き返すとは。
……余が、完全復活する前であれば、ソナタにも勝機があっただろう」
デスポザがニヤリと笑った。
一気に間合いをつめ、カルトヴルッフを振り下ろす。
「真剣白羽……刺っ!」
キーーーーーンッ!
「なっ!? 」
デスポザの額から、汗が流れ落ちた。 耳障りな高音が、鼓膜を震わせる。
全力で振り抜いた筈の大剣は、ぴくりとも動かせない。
その剣身は、ホームズにより、両人差し指で指し留められていた。
ドゴッ!
「ぐッ、ぐはっ」
ホームズの蹴りが、デスポザの鳩尾に襲いかかる。
巨体が浮き上がり、周囲を巻き込みながら、後方の壁に激突した。
口から白光りする何かが吐き出され、ホームズの元へも向かっていく。
そっと大剣を懐へと仕舞ったホームズが、それを、硝子の小瓶で受け止めた。コルクで蓋をする。
「はぁ。
一世界の勇者如きから、尻尾を巻いて逃げた魔王に、異世界を股に掛ける迷探偵が、負けるはずがないだろうが」
ぼそっと、呟いた。
ゆっくりと、デスポザに近づいていく。
コツコツと、床を鳴らすお洒落な革靴は、淡い虹色の輝きを放っていた。




