9 消えゆくカイト
「すーっ、はーーっ、すーっ、はーーっ」
俺は、皇宮──巫山戯たことに、エドゥサイユ宮殿と呼ばれているらしい──来客の間入口で、深呼吸をしている。
目の前には、豪華な木彫りの扉が、どっしりと鎮座していた。
「宜しいでしょうか? 」
案内役の聖騎士が、俺に問う。
俺は、ゆっくりと、頷き返した。
コンコンコンっ。
「勇者様をお連れしましたっ! 」
中からも聖騎士が応対する声が聞こえ、扉が開かれた。
ヒソヒソと何か、やり取りを始める。
俺は構わず、中へと入った。
というか、構っている余裕はなかった。
「ナツっ! 父さんっ、母さんっ!
3人と無事かっ? 」
叫びながら、飛び込んでいた。
3人は、応接テーブルに備え付けられたソファに腰掛けていた。革張りの高級そうなヤツだ。
飛び込んできた俺に、3人が少し驚いた様な顔をした。
そうだ。まず、俺が俺であることを、伝えなければ……。
バッ!!
夏菜が立ち上がる。
「私、雰囲気で気付いたの。カイくん、でしょ?
さっきはごめんなさい。気が動転していて」
俺と熱い抱擁を交わす。
母さんも涙ぐみつつ駆け寄ってきて、俺たちを包み込む。
そんな俺たちを、父さんは始終暖かい視線で見守る一方、聖騎士団達に対する怒りは隠そうともしない──
──という、俺の妄想は、早々に打ち砕かれ……
「まぁっ! 勇者様っ!
皇宮に保護された上、かの有名な勇者様にまで、お会い出来るなんてっ!」
夏菜が、勢いよく立ち上がる。
両手を胸の前で合わせ、目をキラキラと輝かせながら叫んだ。
「……ナツ」
呆然と呟いてしまった。
「勇者様ったら。
いくら勇者様でも、初対面での愛称呼びは……」
夏菜が、頬をぽっと赤く染めた。
「嘘だろっ!
おいっ、ナツっ!しっかりしろっ! 」
「きゃっ! 」
衝動的に夏菜の両肩を掴み、揺すっていた。
「おい君っ!
夏菜ちゃんが怖がっているじゃないかっ! 」
はっ!?
手首をギュッと掴まれたことで、正気に戻れた。父さんが、俺の右手を掴んでいる。
「……ごめん。
父さん、ありが……」
「君のお義父さんになった覚えはないが? 」
「え……。何言ってるんだよ。俺だよ、カイトだよ」
「かいと? 誰だそれは」
「そんな……。
こっ、ここには如何して来たんだ? 」
「親切な大司祭様が、魔王が暴れて危ないからと、連れてきてくれたんだ。勇者様が倒して下さったときいたが? 」
「……」
絶句した。
心はパニックだったが、義父さんのお陰で、頭は鮮明だ。
夏菜は、俺を忘れている──というか、知らないようだ。そして、父さんも……。
「それより、君。
そろそろ、夏菜ちゃんの肩から両手を離したまえ」
「え。あっ。
あははっ、すみません。
何か、部屋を間違っちゃったみたいだ……」
俺は、ゆっくりと手を外し、そのまま後ずさる。そして、一目散に部屋から駆け出した。
「あっ!? 勇者様っ! 」
「夏菜ちゃん、君が気にする事はない」
「そうよ。勇者様といえど、どんな、男だか分かったものじゃないわ。」
「でも……」
……。




