第40話 写真
次は18時くらいに上げます。
———10分後。
「ふぅ……直ぐに先生が来てくれて助かったぜ……嫉妬に狂った奴らは何するか分からんからな……」
「ん、嫉妬は怖い」
「た、確かに怖かったですね……」
俺達は写真屋の前で全員顔を少し青くしながら肩で息をしていた。
先程も俺が言った通り、追いかけられて数分後に騒ぎを聞いた先生が急いで駆けつけて、追いかけていた男子生徒達は仲良く生徒指導室へとご案内された。
ふっ……ざまぁねぇな。
わざわざ人の多い所で追いかけるからだ。
俺が心の中で勝ち誇っていると———ふと芽衣も柚も顔が少し赤くなっていることに気が付いた。
それと同時に、今の俺達の姿を思い出す。
———2人の手首を掴んで走っていた事を。
「あ……わ、悪い……あの時は夢中で……」
俺はそっと2人の手首———もうほぼ手を繋いでいた———を離した。
2人はほぼ同時に俺が掴んでいた手首を反対の手で触る。
「あ、あの……マジでごめん。急に握ったし、逃げるのに夢中で力強かったかも……」
「ん……大丈夫。私は気にしない」
「わ、私も大丈夫ですっ! そ、それにお友達と手を繋ぐくらい普通ですっ」
柚はいつも通りの顔で何ともない風に言い、芽衣は未だ頬の赤みは抜けきれていないものの、どうやら俺を許してくれる模様。
2人は、普通なら叩かれても文句も言えない事をしたのに、許してくれるらしい。
2人とも……こんな俺を許してくれてマジでありがとう……!
でもな、芽衣———1つだけ言わせてくれ。
俺は心の中で叫んだ。
幾ら友達でも異性と手を繋ぐなんてシチュエーションは創作でもないんよ。
小学生ならまだしも、高校で手を繋ぐ奴はもうカップルしかいないんよ。
心の中でそう言いながら、自分の行いについて唐突に猛烈に恥ずかしくなった。
ほんと何やってんだよ俺……学年でも特に有名な美少女2人と手を繋いで走るとか。
こんなの側から見れば、完璧に二股をしていたのがバレて追いかけられていた屑野郎じゃないか……また噂増えるよな。
ただ———これ以上悪い事を考えても仕方がない。
起こったことを無くすことなど出来ないのだから。
「…………よし、未来のことは未来の俺に任せて、取り敢えず今は楽しむか」
「ん、賛成」
「はいっ。文化祭は楽しむものですしね!」
俺達は現実逃避とばかりにこの文化祭を楽しむことにした。
「それでは撮ります! はい、チーズ!」
『カシャッ』と言うシャッター音が、静かな3年4組の教室に鳴り響く。
現在俺達は当初の目的である写真撮影を行っており、写真屋の出し物をしていたのが3年4組だったのだ。
当初はデジカメで素人が撮るのかなと思っていたのだが———正直俺達は文化祭ラストの3年生を舐めていた様だ。
写真屋では、よく修学旅行とかで着いてくる写真業者の人達が持っている様なデカい一眼レフをそれぞれ数人の店番の生徒が持っており、撮り方も普通にレベチだった。
何なら全員写真部、又は写真部に鍛えられた生徒達しかおらず、俺達を撮っている男子生徒は全国高校写真コンテストの様な大会で最優秀賞を受賞した人らしい。
「はい、少し待ってて下さいね。これから写真にしますので」
「あ、はい」
そう言って男子生徒が何やらパソコンを操作しているのだが……パソコンも普通に良さげで、更にコンビニにある様な専用のコピー機まで持っていて、出て来るプリントされた写真の画素も高い。
因みに写真は、冴えない執事の両隣りを超絶美少女なメイドさんが取り囲む様な構図で、正直自分でも『真ん中の男邪魔だな』と思ってしまうほどの出来栄えだった。
こんなの誰にも見せられない。
結局俺達は終始圧倒されっぱなしだった。
「はい、これで完成です。———後輩達、楽しくて甘酸っぱい青春を過ごすんだよ。これはオマケだ」
男子生徒の店員にニヤニヤと笑われながら写真とお化け屋敷の特別チケットを貰い、俺達は写真屋を出る。
出てから数秒俺達は固まった後、呟いた。
「…………3年えぐっ……」
「れ、レベルが違いますね……」
「ん、お金の賭け方が、尋常じゃ、ない」
そして俺達は手元の3枚のチケットに視線を移し……同時に言った。
「誰かにあげよう」
「「一緒に行きましょう」」
「「……えーた(瑛太君)?」」
「ひゅ、ひゅーひゅー……」
2人の視線が集中する。
どうやら俺以外の2人はお化け屋敷に行きたいらしい。
だが———俺はホラー系は大嫌いなのだ。
しかもお化け屋敷をしているのは3年5組。
先程の写真屋のクオリティーからして、間違いなく子供騙しなんかではなく、ガチのお化け屋敷を忠実に再現しているだろう。
「ん、行こ」
「はいそうですね。折角貰ったのですし」
「…………嫌だ」
俺は後退りして2人から距離を取ろうとするが———ガッシリと手を掴まれた。
「———ふ、2人とも?」
「ん、えーたが逃げるから、捕まえておく」
「私も同じくです。折角なんですから3人で行きましょう?」
オタク男子1人の力では、当然の如く女子2人の力に敵う訳もなく———
「い、嫌だぁあああああああ———ッ!!」
———強制連行された。




