第36話 大切にしたい(柚side)
———私は、初めて友達と文化祭を周ると言うことで、少し舞い上がり過ぎていた様だ。
「———ねぇ、君この学校の生徒だよね」
「俺達と一緒に周らない?」
「絶対楽しいよ?」
「ん、絶対嫌」
私が唐揚げを買って戻ろうとした所で、一目で遊んでいると判断できるチャラ男3人組に絡まれてしまった。
ただ、自身の見目が他よりも圧倒的に整っているのは勿論理解している。
なので、休日に遊びに行けばほぼ確定でこうしてナンパをされるのだ。
しかしその分ナンパの対処法もある程度は知っている。
チャラ男達が薄っぺらい笑みを浮かべて誘って来るが……勿論速攻で断る。
こうして全く興味が無いと言う態度を取れば、大抵のナンパ野郎は去っていく。
しかし———学校の男子生徒達や普通のナンパ野郎と違って諦めが悪かった。
「えぇ〜〜ノリ悪いなぁー! 良いじゃんちょっとだけだって!」
「あの子供より大人と遊んだ方が絶対楽しいって!」
大学生にしか見えないけど、一体何処が大人なのだろうか?
こんなくだらないことをする奴らより、気遣い出来て誰かの為に動けるえーたの方がよっぽど大人に見える。
「ん、嫌。あまりしつこいと警備員呼ぶ」
私は面倒になって来たので、男達と少しずつ距離を取りながらそう言うと、途端に3人の動きが止まる。
どうやら警備員という言葉が効いた様だ。
私が少し安心して戻ろうとすると———男が少し怒った様な表情をしながら先回りしてきた。
「———こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって……女は黙って男の言う事を聞いていれば良いんだよッ!」
3人の中でもリーダー格っぽい男が明らかな男女差別的言葉を発し、自身の男を見る目がより冷たくなっているのを自覚する。
その言葉に残りの2人は少し焦った様な表情を見せた。
「お、おい……流石に学校内ではマズイって……!」
「ガチで追い出されるぞ……」
どうやら2人はこのリーダー格の屑男よりはまだマシな部類に入るらしい。
それでも私の中での評価は最低だが。
と言うか、頻繁に学校でえーたを屑男呼ばわりする奴らが居るが、本当の屑はこう言った奴らのことを指すのだと思う。
えーたを屑呼ばわりする学校の奴らは、きっと本当の屑に会ったことがない筈だ。
「……何? 戻るから退けて」
「あまり調子に乗るなよ? お前みたいなJKくらい、一瞬で拘束出来るんだからな?」
そう言って男が眉間に皺を寄せながら顔を赤くして私の手首を容赦なく強く握った。
それはあまり力の強く無い私にとっては十分で———初めて少し男に恐怖した。
「……っ、痛い……! やめて……!」
私が少し表情を崩して声を荒げると、男は余裕が無くなってきた私を見て笑みを深める。
「はっ誰が止める———」
男がそう言っている途中で、後ろからとても聞き覚えがあり頼りになる声が聞こえた。
「———おいクソ陽キャ共!! 人の数少ない友達に手ぇ出してんじゃねぇぞ!!」
「———グハッ!?」
えーたの放った飛び蹴りに驚いた男が、私の手首を離した瞬間に飛び蹴りが直撃し、数メートル噴き飛ばした。
しかしえーたは男に目もくれず、私の元に駆け寄る。
「大丈夫か柚!?」
そう言うえーたは———いつもと違い、本気で私を心配している表情だった。
いつもとはかけ離れたえーたの行動と表情に、一瞬私の心臓が突然大きく脈打つ。
…………?
私は突然の自身の不思議な体の異常に内心首を傾げながらも、何とか返事をした。
それでも尚、えーたは私の事を頻りに心配してくれる。
嬉しかった。
助けてくれたことも。
心配してくれることも。
さっき男に飛び蹴りを喰らわせる直前に『大切な友達』と言ってくれたことも。
その全てがとても新鮮で、嬉しくて、心が温かくなる。
「ん、えーたのせいじゃない。私が不注意だっただけ。寧ろえーたが助けてくれて嬉しかった。ありがと」
私は何とか今の気持ちを伝えようとするが……案の定あまり上手くいかない。
やはり、私は気持ちを伝えるのが苦手だ。
どうしても言葉にすると平坦になるし、顔にも殆ど現れてくれない。
こんな自分が少し嫌になる。
でも———こんな私を大切な友達と言ってくれたえーたを、私は大切にしていきたいと思う。
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