第32話 執事姿と二大美少女
時は流れて遂に文化祭の日がやって来た。
俺達生徒は最終準備のため、いつもより1時間ほど早めに来ており、現在9時。
開幕が9時半なので、あと30分ほどで完璧に準備を終えなければならないのだが———
「ヤバい……ガチで緊張する……」
「それな。普通に部活の大会よりも緊張するんだが……」
「…………(死)」
チャラい矢上雅人が姿に似合わず表情を強張らせ、秋原翔平はムキムキな身体を軽く震わせていた。
ん、俺?
俺は勿論客にどんな目で見られるのかが不安で不安で死にそうです。
と言うかもう既に現時点で半分死んでいるかもしれん。
「あはは……大丈夫だよ皆。俺と一緒に頑張ったじゃないか」
「いや、練習と本番は———」
「違わないよ? 練習でできたんだから、本番でも余裕だよね?」
「「「———あれ? 一気に緊張やら何やらが解けたなぁ! さぁいっちょやってやりますか!!」」」
朝陽が練習の時を思い出す様な言葉を言った途端、一瞬でハモってしまうほどに同タイミングで俺達の緊張が解ける。
解けたと言うか、練習を思い出して怖くなっただけなのだが……カッコ悪いので言わないでおこう。
俺達執事担当の4人は、執事服に身を包んで扉の前でいつでもお客様が来てもいい様にスタンバイしておく。
厨房となった教室の一角では、料理自慢の奴らが俺主導の下一緒に考えたメニューの反芻をしていた。
何でアイツらが緊張してんだよ……俺が細かいレシピ渡したろ……。
因みに俺達のカフェはコーヒーやジュースなどの飲み物から、ケーキ、クッキーなどの軽めの食事、ナポリタンなどの満足する食事まで、幅広く取り揃えている。
勿論殆ど全て俺の案で、7割方俺のオリジナルと変わらないが、それ以外は食品係が自ら考えたレシピだ。
「そう言えば……女子にあんまり文句言われなかったなぁ」
俺がレシピを渡した時は寧ろ少し尊敬の色が混じっていた様な気がする。
まぁ主犯格の西園寺とは仲の良くない女子達だからなのかもしれないが、クラスの女子全員が敵でないことが確認できて嬉しい限りだ。
俺がそんなことを考えていると———開始を知らせる放送が聞こえて来た。
《それでは———第27回文化祭の開催です!!》
「「「お帰りなさいませお嬢様」」」
「きゃぁあああ!! イケメンばっかりよ! こんなに顔面偏差値高い執事カフェなんて都内にも少ないわ……!」
「あぁ……朝陽君の御尊顔で私の目が生き返る……!」
「あの筋肉……じゅるり……」
3人の女性達はそれぞれの執事を指定して席に付いた。
それから3人の女性はキャッキャッと黄色い悲鳴を上げながら楽しそうに執事と話している。
———俺以外の執事と。
「…………いや分かってたけどさ、流石にこれはキツいわ……」
しかも、指定されないだけじゃなくて数合わせで俺が担当したら露骨にガッカリとした顔をされるんだぞ?
こちとら2人以上に頑張って礼儀作法の訓練したのに。
「…………やっぱ顔か」
やっぱ顔なんだろ!
くそッ……この世のイケメン全員死んでしまえ!!
ついでに俺を傷付けた慰謝料でも払いやがれってんだ。
もう普通に辞めたくなったし、何なら『くっころ』状態である。
その証拠に、俺はただひたすら無心に部屋の隅の暗い所で蹲っているだけだ。
誰にも話しかけられないし、見向きもされない。
「……ねぇ、泣いてもいいかな? いいよね? 流石にこれは泣いてもいいよね?」
俺がそう言ってみるも、誰にも届くことなく虚しく消えていく。
あー悲しみ。
俺が結構マジで萎えていると、新たなお嬢様が来た。
どうせまたあの3人の誰かだろ、と半ば投げやりに思っていた時———とても聞き覚えのある声が執事カフェにこだまする。
「———ん、えーたを指名する」
「私も瑛太君に接客して貰いたいですっ!」
———柚と姫野……芽衣である。
2人はやはり他とは圧倒的に隔絶したオーラを纏っており、群を抜いて美しい。
更に今日はクラT(クラスTシャツ)なので、いつもより少しラフで可愛らしい雰囲気に仕上がっていた。
そんな2人に、俺はその内の1人が例えこうなった元凶であっても嬉しかった。
思わず気合十分に本気で接客してしまうほどに。
「お帰りなさいませ、柚お嬢様、芽衣お嬢様。御二方の御席は此方です」
完璧な俺の口調と所作に、2人は圧倒されて言葉が出ない様だった。
「……ん、別人」
「そうですね……とても執事っぽいです! 本物は見たことありませんが!」
あんたら最高だよ。
俺は心の底から2人に感謝した。
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