第28話 推しとゲームすることになった
「……柚よ……考え直すんだ」
「ん、考えた。一緒にやる」
「いや、確定で炎上しちゃうよ!? 有名な活動者なら男でも大丈夫だろうけど……『柚木愛羅』は男性配信者とコラボしたことないよな!?」
「ん、ない」
「炎上しちゃうってぇええええええ!!」
俺は悲痛の叫びを上げて地面に膝をつき、頭を抱える。
ダメだ!
流石に俺自らの手で推しを炎上させるわけにはいかない……!
「ごめんマジでこれだけは勘弁して下さい! マジで洒落じゃなくて炎上するから! その他は何でもするから!」
俺は誠心誠意の篭った土下座を繰り出す。
今回はいつものふざけたものではなく、ガチで本気の土下座だ。
オタクは推しを穢してはならない!
「———ん、ダメ」
「何でだよこの分からず屋!! 俺はお前のためを思ってだな……」
「ん、余計なお世話。それに、約束した」
「……っ」
柚は俺の言葉に一切耳を貸さず、『約束』と言う痛い所を突かれ口籠る俺を他所に、配信の準備を始めていた。
「これ、配信用のヘッドホン。昔の私のだけど、我慢して」
「いや、別にそれは全く気にしないんだが……と言うか寧ろ推しが使ってたヘッドホンなら嬉しい事しかないんだけど……俺、やらないよ? 他のことなら何でもするからさ?」
「ダメ。えーたは、私と配信する」
柚はPCを起動してマジで配信の準備を始めやがった。
その姿を見て、俺は焦りに焦り散らす。
あぁ……やばい……マジで炎上確定だぞ。
しかもただのコラボじゃなくて、同じ空間でコラボするオフコラボ。
男性配信者と女性配信者の間では、禁忌とされ、間違いなく炎上するだろう。
「……ごめんなさい全ての『柚木愛羅』ファンの皆さん本当に申し訳ありません絶対に2度と起きない様にしますなのでどうか炎上させるなら俺だけにして下さいお願いします」
「ん、始まる———んんっ! 友達の皆ーこんゆずー! 皆の友達系Vtuberの柚木愛莉だよー! 実はね……今日は特別ゲストがいるんだよー!」
《こんゆずー》
《こんゆずー!》
《こんゆずー》
《特別ゲストってマ?》
《マジで!?》
《誰だ?》
《この前コラボしたアルファさんかな?》
《いや、今アルファさんは配信してる》
《じゃあ誰だろ?》
柚はいつもの様な抑揚のない口調から、俺が良く知る元気で感情豊かな『柚木愛羅』に変わった。
PCのディスプレイには、金髪金眼の可愛らしい美少女の立ち絵が映っており、柚の表情や動きに合わせて立ち絵の美少女が動く。
それに、まだ開始1分も経っていないのに、既に同接5000人を突破している。
……リアルを知っていると、流石に此処までの変化には驚くよな。
「あ、皆知らないと思うよー? だって私みたいなVtuberでもストリーマー配信者でもないからねー。ただ、男とだけは言っておくよー!」
《男!?》
《マジかよ……》
《え、じゃあ一般人の男?》
《ヤバくない?》
《うーん……》
《てか一般人で男とコラボして大丈夫なん?》
「一般人って言っても私の従兄弟だけどねー」
《従兄弟か……》
《従兄弟羨ましい……!!》
《俺も愛羅ちゃんの従兄弟でありたかった……!》
《従兄弟マ?》
ああ……既に同接10000人突破してる……と言うかサムネのせいでめっちゃ人くるじゃないか。
何だよ『特別ゲストとゲームする』って。
《よく従兄弟も一緒にゲームするの許可したな》
《それな。俺なら無理だわ》
《まぁ愛莉ちゃんの配信って必ず10000人は来るもんな》
《早く従兄弟プリーズ》
《俺が愛莉ちゃんとゲームするに相応しいか見極めてやる》
《従兄弟ってゲーム上手いの?》
「うん! 私の従兄弟、めっちゃゲーム上手いんだよー! あ、いい加減皆気になるだろうし登場して貰いましょー! 私の従兄弟のえーたでーす!」
俺はマイクをオンにして、震えながら声を出した。
そっとマイクから離れながら。
「え、えー……こんにちは柚木愛羅のリスナーの皆様」
俺は不思議そうに此方を見る柚を無視し、地面に手を付く。
そして———
「紹介に預かりましたえーたと申します。この度は———」男の身である俺がコラボしてしまい、誠に申し訳ございません!! どうか、柚木愛羅を炎上させる様なことだけはおやめください!! この通りです!!」
俺は地面に頭をぶつけながら、ディスプレイに全身全霊、誠心誠意の完璧な土下座姿を映した。
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