第26話 約束(ゲーム機)
夕方上げる。
「———えーた、ゲーム渡す」
「お、おう……急にどしたん? いや物凄くタイミングいいんだけどさ」
俺が別室にて神山朝陽に執事としての振る舞いなどを教えてもらっていた時———柚が突然尋ねて来た。
何でも少し前に約束したゲームを格安で売ってくれるとのこと。
因みに執事は俺を含め全員で4人なのだが、黒髪のくせにやたらチャラそうな雰囲気と口調の矢上雅人と、制服越しにも筋肉が隆起しているのが分かる程ムキムキな秋原翔平は、俺と同じで当たり前だが執事としての経験がないのか、一緒に神山朝陽の執事講座を受講している。
しかし、現在は神山朝陽以外は、思った以上に厳しい上に姿勢や口調、動きを維持するのが辛く、完全に疲労困憊だったので、俺的には柚の到来はマジで感謝しかない。
「よし、本当によくやった。じゃあ俺はこれで帰るわ」
「うん。家でも練習しててね」
「了解」
「お〜〜い! 俺たち置いて逃げるんかぁ〜? それは少し卑怯なんじゃね?」
「そうだぞ! 俺達だけ練習とか———」
「何か文句あるの?」
「「ないです」」
2人は逃げる俺に文句を言うが、神山朝陽の爽やかながら圧の篭った笑みに撃沈した。
そして2人とも地面に突っ伏して絶望の表情を浮かべている。
まぁどうせ執事カフェの時に彼女とイチャイチャするんだろうから、これくらいの罰はないとな。
こちとら俺なんて、ほぼ全員の生徒の恨みを買いながら、一切やりたくない執事をわざわざしないといけないんだぞ。
どうやっても黒歴史確定だわ。
「……行こ」
「ほんとどしたん? 何でそんなにご機嫌斜めなん?」
俺が心の中で毒付いていると、柚が何故か急かす様に俺の袖を引っ張りながらズンズンと先へと歩き出した。
しかもいつも以上に無表情で明らかに不機嫌……と言うよりは、何かに戸惑っている様に見える。
柚はそのまま下駄箱まで移動した所で、初めて足を止め、俺の袖から手を離すと……不思議そうに首を傾げた。
「……治った。何故……?」
「治った? 何が治ったんだ? と言うか怪我でもしてたのか?」
俺がそう聞くと、ふるふると否定する様に首を振る。
「違う。ただ……何でもない」
「何でもない!? まさかの1番気になるそこで切る!? ちょ、ちょっと柚……教えてくれよ。気になって気になり過ぎるだろ……」
俺がそう言うと———
「———ふっ……やだ。えーたはずっと私を考えてればいい」
そう言って悪戯っぽく小さく笑った。
「…………美少女はほんとズルいなぁ……」
俺はその笑顔にこれ以上柚に何も訊くことが出来ず、ただただ……ついて行くことしか出来なかった。
「……そう言えば、俺に会ってくれるゲームは持って来ているのか?」
いつも別れる所で俺がふと疑問に思ったことを訊く。
そうは訊いたものの、柚は普通の通学鞄しか持っておらず、とてもではないが、P◯5などの大きなゲームを持っているはずがない。
……何故かこの次に柚が言って来そうなことが手に取るように分かる気がする。
流石に……ないよな……?
幾ら柚でもそんな非常識というか、特に何もしないが世間一般に置いて破廉恥と見做されそうなことはしないよな……?」
俺が内心で焦り散らかしていると———柚はなんてことないことの様に言った。
「ん、えーたには、私の家に来て貰う」
「やっぱりそうだと思ったよ! これでも一応俺って異性なんだよね。少しは恥じらいというものを……」
「なら、要らないの?」
「いります」
「じゃあついて来て」
「……うす」
俺はコイツに常識を求めるのを諦めた。
そして今度姫野さんと共に色々と教えてやろうと心に誓った。
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