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1話 スレイ

「起きなさい!朝食の時間だよ!」


 聞き慣れた怒鳴り声で目が覚めると、体を大きく伸ばしながら欠伸をした。


「ふぁああ・・・うるさいなあ。あの婆さん」


 この声が可愛い女の子だったら、どんなに良かったことだろう。

 もし、そんなことがあったら、朝にめっぽう弱い俺でも飛び跳ねてしまうくらい軽快に起き上がれる自信がある。


 しかし、生憎とそんな存在は身近に居ない。

 毎朝布団からひっぺがしてくれる幼なじみ、毎日ご飯を作ってくれる近所のお姉さん、こっそり農作業をサボってると口うるさく叱ってくる委員長的存在などいないのだ。

 俺は至って普通の平凡を極めた村人なのである。


「クソっ・・・なんで、可愛い女の子が周りにいないんだ」


 そんな、くだらんことをボヤきながら階段を下りる。

 髪は散らかり放題で、顔面は珍獣みたいになっているが、全くもって問題ない。

 だって、この家には祖母しかいないから。

 悲しいことに、祖母以外の異性は身近には居ないのだ・・・!!!


「スレイ、やっと起きたのかい」

「うん・・・今日の朝飯は野菜スープか」

「そうだよ。なんか文句あんのか?」

「なんで、そんな喧嘩腰なんだよ・・・」

「アタシに喧嘩売ってるような顔面してんのが悪いさね」

「ぶっ飛ばすぞ!?」


 相変わらず、めちゃくちゃ口の悪い婆さん。

 人の容姿をバカにしちゃダメだってママから教わらなかったのだろうか。

 小さい頃に聞いた話だと、()()()()の婆ちゃんも口が悪かったそうだ。

 それが受け継がれたのだろう。


「祖母に対して、その口調はなんだい?シバくぞクソガキ」

「んだとゴラァ!」

「ふんっ!!」

「ぶへらっ!?」


 そのヨレヨレな細腕のどこに、そんな力があるのか。

 俺は軽々と吹き飛ばされてしまい、ギャグ漫画の登場人物のように綺麗な円を描いて窓から飛んでいった。


「うげっ」


 最後には地面とキス。

 これが、毎朝の日課である。


「いてて・・・あんのババア、少しは手加減しろよ」

「あぁん?なんか言ったかい?」

「いえ、なんも言ってないです」


 窓から顔を出して、人を殺しそうなほど鋭い目付きを向けてくる祖母。

 どう考えても孫に向けるものではない。


「・・・まあ、いいさね。あんた今日は暇だろ?」

「暇だけど・・・それが何?」


 ああ、嫌な予感がする。

 今日は一日中、家でゴロゴロするって決めてたのに・・・


「っていうか、いつも暇だったね」

「うるせえ!!いいから要件を早く言えよ!クソババア!」

「あぁん!誰がクソババアだって!?まだ、アタシはピチピチの150歳だよ!」

「10人聞いたら10人からババアって言われるレベルの歳だわ!てか、長生きしすぎだろ!これからも、元気に長生きしろよクソババア!」

「ありがとよクソガキ!」


 口は悪いが、すぐに仲直りする。

 それが俺たちの日常会話であり、関係性である。


「とりあえず、さっさと行ってきな」

「どこに?」

「んだよ。わかんないのかい?」

「わかるわけねえだろ!」


 どこに何をしに行って欲しいか言わないとわかるわけねえだろ。

 言葉足らずで口が悪いとか最悪じゃんか。

 俺は、そんな大人にはならんぞ。

 丁寧な言葉遣いをする優しい男になるんだ。


-----


「あーだりい」


 人を殴り飛ばしといて謝罪の一つもせずにボアの狩りを頼むとか、どんな脳ミソしてやがんだ。

 あのババア、人使いが荒いったらありゃしねえ。


「てか、俺みたいな雑魚スキル持ちに頼むなよ」


 俺が13歳の頃に神殿で授かった力は、通常スキル"スラッシュ"である。

 子供の頃から剣を握ってたやつなら、誰でも持っている能力であり、攻撃スキルの中で三本の指に入るほど威力の弱い代物だ。

 つまり、外れスキルである。


「おや、スレイ坊じゃないか。」

「こんちゃ、ウォルフのおっちゃん」


 木材で作られたボロボロの椅子から頑張って立ち上がり、一生懸命手を振っている老人。

 俺ん家の向かいに住んでいるご近所さんで、小さい頃から何かと世話になっている人だ。


「また、婆さんから無理難題を吹っ掛けられたのかね?大変だねえ」

「まあ、いつものことだよ。慣れたもんさ」

「偉いねえ」


 ううぅ・・・おっちゃんの優しさが心に染みるぜ。

 いつもいつも、ババアからのワガママに付き合っていると死ぬほど疲れるけど、こういう慈愛のこもった言葉をかけられると少し体が軽くなる。


「ありがとよお、おっちゃん」

「ん?なんのことか分からんが・・・どういたしまして」

「おう」


 森に向かって進むと、たくさんの村人たちから話しかけられた。

 主に話しかけてくるのは御年配の方々。

 同年代の友達はいないが、しわくちゃの爺ちゃん婆ちゃんからはモテモテである。


「気をつけて行ってくるんだよ」

「はいよー」


 お年寄りたちからかけられる優しい言葉に癒されながら、俺は魔物ひしめく森へと入るのだった。

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