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7.元勇者との因縁の始まり

モコシエは、M、C、C、エイトをつなげて名づけました。洋菓子職人のパティシエとは無関係です。

 今になって思うと、私にも原因がありました。地下ダンジョンに(もぐ)る少し前に、私があの男……モコシエの怒りに触れたせいで、呪いを受けてしまったに違いありません。


 あの日……、冒険者ギルドの会合で、パーティーのリーダーが一堂に集まりました。その会合の終了後、待合室で待っていたユリサのところに向かうと、モコシエはユリサに手を出そうとしていました。


 現元帥(げんすい)で金髪長身でもあるモコシエの見てくれは、デオと並ぶくらいにイケメンだと、あなたにお知らせします。ですが、性格は最低です。


 濃い緑、黒、焦げ茶色で三色迷彩柄になったスーツを、いつもモコシエは着用しています。この男は壁の端でユリサに手を回し、口説こうとしているようでした。明らかにユリサは嫌がっています。


 モコシエは非常に強引で、私が止めようと近寄った時には、ユリサの胸部にまで手を押していました。


「何をされているのでしょうか? モコシエ様」


 私あいつへと、極めて礼儀正しく声を掛けました。


「見て分からないのかい? 最高に美しい女性を、最良のデートに誘っているのさ」


「それにしてはやり過ぎだと思うのですが」


「やり過ぎというのなら、彼女とその巨乳が魅力的過ぎるからだろうね」


「ああそうですか。行きましょう、ユリサ」


 私はユリサの腕をつかみます。


「邪魔をしないでもらいたいな」


「邪魔をしているのはそちらのほうでは?」


「なら、彼女に聞こうじゃないか」


 公正な判断だと言いたげな提案をしますが、この男は女神様のご加護を自由に行使出来る元勇者です。ほとんど脅しに等しいものでした。


 それでも、ユリサは頑張ります。


「私は……リーダーと帰りますので」


 ユリサの答えに対し、モコシエは露骨に嫌な顔をします。


「ああ、そうかい。この俺とデートをしたくはないのか。最高に素晴らしくて豪華な時間をタダで過ごさせてやると言っているのに、つまらん巨乳だ」


貴方(あなた)にタダで接待することのほうが高くつきますよ。時間の無駄とは、このことを言うのでしょうね」


 頭に来ていた私は、つい余計なことを言ってしまいました。


「なんだと? この貧乳が」


「そんなに巨乳がお好きなのでしたら、お(ひと)りで砂浜にでも行って、大きなボール二つでご自分のお顔を挟んでいればよろしいんじゃありませんか? 野蛮な貴方にはお似合いでしょうし、他人に迷惑をかけることもないでしょう」


「お前……この俺をバカにしてるのか?」


「馬鹿にはしていませんよ、偉大なる元勇者さま。貴方を馬鹿にしたら、近いうちに消されてしまいますからね。貴方(あなた)に女神様のご加護がなければ、こぞって国民全員が貴方を……、いえ、これ以上は言わないことにしておきましょう。ごきげんよう、モコシエ様」


 私はユリサの手を引いて、逃げるようにその場を去りました。


 あの男は、背後から私を(にら)んでいたでしょうね。それも、私が呪われる事態にならなければ、全然気にしなかったのですが。

元勇者のモコシエ。こんなのとデートなんてしたくないです。


今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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