2.あなたはこんな格好をしている仲間を許せますか?
仲間の正体が明らかになります。
吹き飛ばしたユリサは街の外に落ちたでしょうか。私は彼女に対して、悪かったとは思っていません。
ただ、あなたには、仲間を平気で蹴るような女だとは誤解されたくないです。
広場では、周囲の人達が私のほうに注目していました。それはそうです。広場で人が一人吹き飛ばされるなんて、滅多にないことなのですから。
「なんてことをするんだティブ!」
仲間想いなデオは当然怒ります。私の……いえ、私達の、策略通りでした。
「……私が本気だというのが、デオにも伝わってくれましたか?」
極めて真剣な雰囲気を込めて、私は慎重に述べました。
「そうだとしても、ユリサにあんなことしなくたっていいだろうッ?」
「じゃあデオは素直に追放されてくれるんですかっ!」
私は全速力でデオを殴ろうとしましたが、簡単にかわされました。私の右手は空振りです。
やはり私程度の実力では、最強の剣士デオ=ティーゴには、まるで敵いませんでした。
「ボクを攻撃したって無駄だ。諦めてくれ」
デオにどう言われようが、私の意志は固かったのです。
「――ここでデオの『秘密』を明かしたとしても、ですか?」
私が脅すと、デオは動揺しました。
あなたには真実を語りましょう。この時の私はただ、はったりを言っただけです。
それなのに、思っていた以上にデオが焦ってしまっていたので、私のほうも驚きました。
「なッ……、なんでバレたんだ?」
私がこれまで、そんな嘘をついたりしなかったことが、功を奏したのでしょうか。私の言葉には、かなりの説得力があったのでした。
それにしても、彼の動揺は不自然に見えました。
「私が明かすのも無粋でしょうね。デオに機会を差し上げます。あなた自ら、秘密を明かすのがいいでしょう」
秘密など全く知らなかった私は、思わせ振りに彼へと自供を迫りました。
「分かったよ……」
デオは観念したように言うと、彼の体の全てが、透き通った液体へと変化します。そのまま、原形を留めることなく地面に落ちました。
彼から変化した多量の液体の中には、グリッターという、きらきらとした細かい銀の粒子が入っています。
地面に輝きを放つ透明の水溜まりが出来た後、それが丸っこいまとまりへと、さらに変化しました。
今、私が見下ろしている、まるでおまんじゅうのような物体。
正面には、二つの大きな青い瞳がついています。
「ボクはスライムなんだ」
「……えっ?」
私は彼の予想外の告白に、ただただ、びっくりしていました。
透明なスライムの大きい瞳は、まるで女の子のお目々のようにかわいらしかったです。体の感触も気持ち良さそうで、こんな状況でなければ、私は思わず抱きついていたに違いありません。
そして、さらに衝撃は続きます。
スライムは上部に広がるようにして形を変え、再び人型になりました。ですが、それはデオではありません。私よりも小柄な、スライムとは別の意味でかわいらしい姿でした。
「……すまない。ボクの性別は、メスだ」
まさかの秘密二段構えだったのです!
彼……いや、彼女ですか。――とにかくデオは、疑いようのない美少女でした。
銀色の髪は一気に長くなり、大きな瞳は青くなりました。透明のスライムだった面影はどこにもありません。
肌は白く、大胆な黒いビキニを着ています。背は小さいのに、胸部は私よりもありました。……羨ましい。
周囲の人々は、私が大声を上げていても大して気にも留めていなかったくせに、今や全員が美少女に注目していました。そう言えば少し前も、美少女のユリサを吹き飛ばした時だけは、私も注目されていましたね。
あなたには嘆いてほしいと思います。私の目立たない容姿なんかは、完全に空気だったのですから。
「なんてかわいいのですか、あなたは。――ふざけるんじゃないですッ!」
本当にふざけるなという気持ちでいっぱいでした。
凄腕の剣士で、長身のイケメンで、しかも女になっても私どころかユリサよりもかわいいのです。神様はなぜデオにばかり超人間的資質を与えるのか。この事実に、私は明確な答えを未だに用意出来ていません。
「ふざけてなんかいない。……ボクの正体を君にずっと隠していたことは謝る。だから、クビの件は考え直してほしい」
当然のように、声まで美少女にふさわしくなっています。声質は似ているので、男の時は声を低く作っていたのかもしれません。
「ますます考え直す気がなくなりました! 今まで私をだましてきたやつなんか言語道断です! 当然クビ! 絶対クビにします!」
個人的な怒りが入ってしまいましたが、元々は個人の都合で追放するつもりだったので、構わないでしょう。
「ですがその前に――」
私はずっと困惑していたヴェリアを視界に入れました。防御魔法で強化された長袖メイド服姿でいる彼女は、あいかわらず静かでした。
「ヴェリアはデオのこと、知っていたのですか?」
「……全然知りませんでした。すごく驚いています」
そう聞けて、私は安堵しました。
もし、デオが実はスライムでビキニ美少女だったと知らないのが私だけでしたら、あまりにも鈍感過ぎますよね。長いこと一緒にいて、淡い恋心まで抱いていたデオの正体に気づけなかった自分が、非常に恨めしいです。
「となると、ヴェリアも私と同じようにだまされていた被害者ということですか」
「被害者だなんて言わないでほしい! ボクはだますつもりじゃなかったんだっ!」
「ああそうですか、犯人はいつもそう述べるのです。黒い水着姿で言われても、説得力なんかありませんよ、デオ」
私は無礼な棒読みでデオに返し、ヴェリアのほうを向きました。
一本の私と違って、三つ編みを左右の二本にしているヴェリア。彼女は、自分の番が来たのだと、悟ったことでしょう。
「ヴェリアは分かってくれるでしょうが……あなたも、クビにさせてもらいます」
「……分かりました」
ヴェリアは昔、私が助けた少女です。私のお願いを簡単に受け入れてくれました。
「それでいいのかヴェリア! 君はティブのこと、すごく尊敬してたじゃないか! そんなにあっさりと承諾するなんて信じられない!」
「ヴェリアはあなたと違って物分かりが良かった。それだけのことです。――いよいよ、デオで最後ですね。私に従ってくれるのでしたら、私をずっとだまし続けていたことを、水に流してやってもいいです」
「……本当だな?」
「私のリーダーとしての、最後の約束となるでしょうね」
「分かったよ、ティブ。……ボクも辞めよう」
こうして、私以外の全員がパーティーを抜ける運びとなりました。予定通りです。だからこそ、私は笑みさえも浮かべてしまうのです。
その笑みがデオやヴェリアの前では出来るだけ嫌味になるよう、苦心しました。
この作品は、TSものです。主人公が女性で、相棒が変化する作品は少ないかもしれません。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。