11.インヴィンシブル
征服されざる者。かっこいい言い回しです。
あなたもきっと、お分かりでしょうね。お手洗いに現れた謎の液体の正体は、スライムのデオでした。私はデオに操られて、外に運ばれたようです。
気を失って倒れていた私が目を覚ますと、デオとユリサの顔が映ります。
「良かったぁティブちゃん! 助かったんだねーっ!」
涙目だったユリサに、私は抱きつかれました。
デオも、ほっとしたような顔を向けています。この時の見た目は、私の見慣れたイケメン姿でした。
公園の芝生の上で横になっていた私は、慎重に右手を上げます。肌は元通りに戻っていましたが、下半身の違和感に気づきます。
何かと思って私が下を見ると、呪術師のグイさんが私のおなかに唇をつけているではありませんか。どうも、彼女が呪いを口で吸い取っていたようなのです。
意識が正常になると、下着姿でいるのが恥ずかしくてたまらなくなってきました。下着越しに小さな胸部を私は隠すものの、グイさんが私の下半身に跨がるような形で吸収作業をしており、下のほうは全く隠せずにいるのが嫌でした。
デオとユリサは恥ずかしがる私に気を遣ってくれて、私から離れて目を逸らします。
「はい、終わりましたよぉ~」
グイさんが顔を上げます。彼女の頬には、殴られたような痕がありました。
「……あの、怪我していませんか?」
「そこのデオって男に殴られたんっすよ」
睨みながら指差して、グイさんが答えます。
「お前がいけないんだろうっ!」
デオが反論しました。あまり聞かないデオの怒鳴り声でしたが、懐かしく思えるデオの声を久々に聞けて、私は安心します。
「デオ。女性の顔を殴ったりするなんて、いけないですよ」
「……君のためじゃないか」
デオはふてくされた顔をしていました。
グイさんが立ち上がった際、横になっていた私の位置からは、見るつもりはなかったのですが、グイさんのスカートの中が見えてしまいました。
そのことに気づかれると、グイさんは何を思ったのか、茶色いミニスカートをひらひらと両手で動かします。
「私だけセティーブさんの白い下着を眺めていたのも不公平っすからねぇ、これでおあいこっすよ」
ちなみにグイさんは黒いブルマを穿いていました。下着姿をずっと晒されていた私からすれば、公平とは思えませんでした。
私が近くにあった自分の服を着終えたら、ヴェリアが涙を流しながら寄って来ます。頭を大きく下げました。
「すみませんでしたセティーブ様っ!」
「何を謝るんですか、ヴェリア。あなたは悪いことなんてしていませんよ」
泣きついてくるヴェリアに腕を回して、私は彼女をあやすように頭を撫でました。この時の私も、事情を知ってからの私も、彼女に謝られることは全くないと思っています。
ヴェリアを撫でている最中に、後ろから柔らかい感触がして、私は驚きました。なぜかユリサも抱きついて来たのです。
あなたは巨乳を好みますか? 同性の私からしても、ユリサの豊満な胸部はとても魅力的で、優しくも感じられるのです。
「ボクもまぜてくれ」
デオのほうから私に抱きついて来るなんて、私も驚きました。デオは普段、そのようなことをしないのですから。
あなたには白状しますが、私は三人の中で、デオのことを特に意識していました。
ヴェリアに、ユリサに、デオ。
みんなから心配されていたようですが、みんなに心配されていることを知れたのが、私にとってはこの上ない収穫でした。
「もう呪いは消えたんだ。今からギルドに行って、もう一度、ボクらを仲間に加えてくれないか?」
全員が私から離れた後、デオが提案しました。
「いいんですか? 私は自分の都合で、みんなを追放したのですよ」
こんなことを言いながらも、私はみんなが戻ってくれるのを望んでいました。
許されるのであれば、私はもう一度、四人で一人の、征服されざる者になりたい。
「ティブが自分一人で背負い込むような性格だってことは、昔から知っている。それでも、今回ぐらいは相談してほしかったよ」
「すみません、みんなに迷惑をかけたくなかったので……」
「そうじゃないでしょ。ティブちゃんが呪いで死んじゃったほうが、もっと迷惑だよ!」
「……ごめんなさい」
私はユリサに叱られました。
叱った当人は、すぐに笑顔になります。
「でももうそんなのどうでもいいよ、ティブちゃんが無事だったんだからね! ギルドの営業時間に間に合わなくなっちゃうから、早く行こっ、ティブちゃん! ヴェリアちゃん! デオ君!」
私とヴェリアはユリサに引っ張られ、全員で冒険者ギルドに向かいました。到着後、すぐに私はみんなをパーティーに再加入させます。担当のラユーケさんは、自分のことのように喜んでくれていました。
意外だったのは、グイさんも私達インヴィンシブルへの加入を頼んできたことです。
グイさんはモコシエの手下でした。あの男に命令されたため、私の仲間でもあるヴェリアを通して、私が地下ダンジョンで罠にかかるように仕向けたそうなのです。私の呪いを解除したのが知られたら報復されてしまうので守ってほしい、とのことでした。
自分を殺そうとした男の共犯をパーティーに入れるなんて、あなたはおかしいと思うでしょうか? デオはいい顔をしませんでしたが、私としては、最終的には呪いを無料で解いてもらえましたし、デオに暴力を振るわせた後ろめたさもあったので、グイさんも加入させました。
と、言いたかったところでしたが、実際は、ギルド内でグイさんが私を押し倒して太ももで挟み、
「やめてほしかったら私も入れなさいっすぅ~ッ!」
なんて大声で叫ばれたからですね。床についた私の三つ編みも引っ張られました。もし私がユリサのように胸部が大きかったら、きっといじくり回されていたでしょうね。ちょっと残念です。
私の危機をデオが救ってくれたのですが、やりかたが強引でした。グイさんを私から力任せに引っぺがし、非情にも壁へと投げつけました。
グイさんはまた、痛い目に遭ってしまったのです。私とユリサは急いで回復魔法を使い、彼女は大事にはいたらずに済みました。
グイさんのパーティー登録をし終えた後、私はデオにこう聞きました。
「デオはグイさんに厳しくありませんか?」
「ティブがそいつに甘過ぎるんだ。ボクだって、君に甘やかされたい」
しかたなく、私はデオを甘やかそうと思いましたが、具体的に何をすればいいのか分からないでいました。
すると突然、デオが黒いビキニの美少女姿に変化するのです。知らなかったグイさんや他の冒険者さん達がびっくりします。
「この姿なら、きっと甘やかしてもらえるだろう。ヴェリアみたいに頭を撫でてほしいな」
私は恥ずかしく思いながらも、小柄になった彼……彼女の美しい銀髪を撫でました。
デオには私の追放を受け入れてもらいましたし、この日は命さえも助けられました。そもそも、私はデオに好意を持っています。拒絶する理由はどこにもありません。
そんなに撫でられるのが嬉しかったのか、彼女は微笑んでいました。全く容姿は異なるのに、彼だった頃の面影を、少しだけ、けれど確かに、私は感じました。
私がパーティーに征服されざる者と名づけたのは、誰にも征服されないような、強く立派な人間を目指すため、です。
それなのに、この日の私はいつもと同じように、デオという尊くて大切な存在に征服されてしまっていたのでした。
グイの加入で、征服されざる者は五人パーティーになりました。
今回も読んで下さり、ありがとうございます。




