異世界に行って帰ってきた息子
私は主婦、そう何処にでもいる、ほうれい線が目立ち始めた50代の主婦である。
朝、お花の水やりをしようと庭に出ていると、玄関の方に人が歩いていくのが見えた。何やら見慣れぬ異国情緒溢れるカラフルな服装をしている。不法侵入しようとしているにしてはあまりに目立つ服装だが、私は恐る恐る話しかけた。
「あの、何か御用ですか?」
私がそう聞くと、訪問者はこちらを振り返った。
その顔には私は見覚えがあった。
「タ、タカシ?」
「久しぶり、そうだよ母さん、僕だよ、タカシだよ。」
タカシというのは私の息子であるのだが、ここに居る筈がない。タカシは5年前に買い物に出ている最中、トラックの玉突き事故に巻き込まれて死んだのだ。
「母さん、ただいま。」
「えぇ・・・なんか怖いわ。世にも奇妙な物語的な世界に紛れ込んだのかしら?」
久しぶりの親子の対面だが、タカシと私の間には結構な温度差があった。
とりあえず家に上がらせて、居間で話をすることにした。
タカシだなぁ、これはどっからどう見てもタカシだわ。
「タカシ、とりあえず質問していいかしら?」
「どうぞ、僕も何から話していいか分からないから、疑問に思ったことを質問してよ。そこを取っ掛かりにして話をしていくからね。」
そしたら遠慮なく説明しようかしら。
「アナタ死んだわよね。遺体も火葬したものね。」
「そう、僕は死んで、そして女神様の計らいで別の世界に異世界転生したんだ。勇者としてね。」
・・・分からん、突然何を言い出したよ。
異世界?勇者?私の息子は一体何を言っている。
「あー、異世界とか分からないかな?母さん、映画のネバーエンディングストーリーとか分かる?」
「それなら知ってるわ。ファルコンってのが出るやつね。」
「そう、そのネバーエンディングストーリーみたいな世界に俺が行ったの。」
「ええっ!!マジで!?ファルコンに乗ったの?」
「うーん、ファルコンは居ないけど、それっぽい龍なら乗ったね。移動用でね。」
凄いわ。転生ってのはよく分からないけど、タカシがネバエの世界みたいな所に行くとわねぇ。人生分からないもんだわ。
「その世界で俺は仲間と一緒に魔王・・・魔王分かる?」
「知らない、知らない。」
「そっか、うーん・・・物凄い悪くて強い奴。その物凄く悪くて強い奴を仲間と一緒に戦って倒して俺は世界を救ったんだ。分かった?」
「あら、喧嘩したの?物騒ねぇ。」
「そっか分からないか・・・じゃあ、それはいいや。とりあえず凄く良い事を俺はした。」
「はぁ、そうなのね。良い事をしたのね。」
全く意味分からんけど、良いことしたなら親として鼻が高いわ。
「それでね、母さんと父さんに報告しないといけないことがあってね。聞いてくれる?」
何か急にモジモジし始めた息子。何かしら?我が息子ながら少しキモいわね。
「聞くわ。聞くから早く言いなさいな。」
「とりあえず、論より証拠。見てもらおうか。」
パチンとタカシが指パッチンすると、居間に何か人が通れそうなぐらい大きな渦巻きが現れて、私はビックリし過ぎて逆に落ち着いてしまった。もう、ことの成り行きを見守ろう。
「入ってきて良いよ。靴脱いで入って来てね。」
「わ、分かった。」
渦巻きの中から女の人の声がした。凄いわね、何これ?
しかも渦巻きの中から白い髪の褐色碧眼の耳の尖った白いワンピースを着た美人の女の人が出てきて、その後を同じく白い髪の褐色碧眼の耳の尖った5歳児ぐらいのオーバーオールを着た女の子が付いて歩いてきた。
この子ら誰よ?外人さん。
外人さん(仮)は私に向かって深々とお辞儀をして、こんなことを言ってきた。
「初めましてお母様。私はダークエルフの里の長、ミカエル・フリュードリヒの第二子のシャルル・フリュードリヒです。特技は弓と剣、趣味は掃除です。」
・・・うーん、情報量多すぎて頭パンク寸前。頭痛くなってきた。
「私はミミだよ♪おばさん誰♪」
子供の方も名前言ってきたけど、これぐらいなら頭に優しいわ。あとメチャクチャ可愛らしいわねぇ♪タカシにもこんな頃があったわ♪
「コラッ、ミミ。この方はお前の祖母に当たる人だ。失礼なことを言うんじゃない。メッ。」
祖母?祖母って何よ?タカシ説明求む。
「か、母さん落ち着いて聞いてほしいんだけどね。向こうの世界で俺は結婚して、子供が居るんだ。そんでそちらに居るのが嫁さんと俺の子供。」
「へっ?」
衝撃の発言に耳を疑ったが、何か美人さんも否定しないし、どうやら本当に嫁と子供らしい。
これには驚きよりも喜びが勝った。
「二十歳過ぎても童貞だったアンタが、嫁さんと子供連れて帰ってくるとはねぇ。グスッ、ヤバい泣けてきたわ。」
「ちょっと母さん!!余計なこと言わないで!!その情報はシャルル知らないから!!」
本当に部屋のゴミ箱にティッシュばかり積み上げる息子だったのに、こんなお嫁さん連れてくるなんてレベルアップし過ぎだわ。
「で、ですがタカシさんは、初めてとは思えない手付きで私の服を脱がせ・・・」
「ちょいちょい!!シャルルも余計なこと言わないで!!初セックスの話を実母に話さないで良いから!!」
プッ、練習だけは沢山してたのね。無駄な時間だけはあったものね。
そこから一時間ぐらい居間にて四人で談笑。ミミちゃんも私に懐いてくれたし、向こうの世界のことで話も弾んだ。
シャルルさんがまさかの300歳で私より年上なのは驚いたけど、良い化粧水をくれたので使うのが楽しみである。
「さて、そろそろ帰るよ。」
「あら、ゆっくりして行きなさいよ。」
「いや、向こうで魔王の残党退治の仕事とか残ってるから、それが落ち着いてから改めて来るよ。父さんによろしくね。」
「いやぁ、アンタ居ないと、とてもじゃないけど説明しきらないわ。父さんも絶対信じないし。」
「そ、それもそうだね。じゃあ今度来たときに、俺が改めて説明するよ。」
そう言うと、タカシは再びパチンと指を鳴らし、再び渦巻きを作った。どういう仕組みなのか全く分からないわねぇ。
「それではお母様、またお会いする日を心待ちにしています。さよなら。」
「ばぁば、じゃあね♪」
「はい、シャルルさんもミミちゃんもまたね♪」
シャルルさんとミミちゃんは、こちらに手を振りながら渦巻きの中に入って行った。今度は会うときは色々準備しとかないとね。
「じゃあ、母さん。俺も行くよ。またね。」
そう言って渦巻きの中に入ろうとする息子。だが私にはまだ聞いておかないといけないことがあったのである。
「アンタが集めてたエロ本とかエロゲーとかAVとか持って行きなさいよ。掃除するとき邪魔なんだから。」
「頼むからそれはそっちで処分してよ!!」




