『バウムクーヘン』・『失恋』・『所有欲』
・お題の『バウムクーヘン』さんの霊圧が消えている。
・ハッピーエンドではないです。
今日、私の世界で一番好きな人が私以外を選んだ。
バウムクーヘンエンドなんて言葉がある。とても仲の良かった相手の結婚式が終わった後、引き出物のバウムクーヘンを食べながら恋心を自覚して終わる話。
解釈は色々あるらしいが、要は失恋で終わる物語のことだ。
ずっと彼女の隣にいれるんだ。と、何も考えずに信じていた私にぴったりの終わりじゃないか。友人代表のスピーチをして、優しそうな旦那さんと微笑み合うあの子を見て、幸せなキスに胸を痛めて、ブーケトスを私へ投げ渡そうとするあなたに見捨てられたような気分になって、ようやくあなたへの気持ちを理解した私にぴったりの終わりだ。
二次会の記憶はほとんどない。泣かないように無理矢理に笑顔を作っていた記憶しか。
大して酔ってもないのにふらふらとした足取りで、実家へと戻る。あの子の結婚式の為に久しぶりに戻った自室はあの子との思い出が多すぎて、料金なんて気にせずにタクシーを使って借りているアパートへと戻りたくなった。
化粧もドレスもそのままにベッドへと倒れ込む。この日の為に母が干していてくれたのだろう布団はお日様の匂いがして、あの子との思い出が消えてしまったようでそれはそれで辛くなる自分の情緒がもう何も分からなくなる。
「あ……そうだ、引き出物」
放り出した紙袋が倒れ、ガサリと音を立てて私はその存在を思い出した。
「中身、なんだろ……」
のろのろと起き上がり、紙袋の中身を取り出す。カタログや皿にしては軽いから、お菓子か何かだろうか。
「バウムクーヘンなら、ぴったりの気分なんだけど」
自分の言葉に笑いが漏れる。あの子は私のことは何でも分かっていたから、この気分にぴったりのお菓子を用意してくれているかも、なんて。
「……ははっ」
そう思った、私がバカだった。
「ふざけないでよ」
取り出した中身はチョコレートだった。私の今の気分にぴったりの真っ黒で大きなハートの形をしていた。
「ふざけないでよ」
愛を確かめ合う日に結ばれたいから、とあの子が言うから寒い思いをしてコートの下にドレスを着て結婚式場に向かった、今日はバレンタインデーで。
「ふざけないでよ」
みんなカタログで何選んだ、と今日、式へ参加したみんなからメッセージが飛び交う中、私だけ明らかに手作りのチョコレートで。
「あんたはどこまで分かってやってんのよ」
私の熱で溶けていくチョコレートが、にじんでぼやけていく。
「これじゃあ、消化できないじゃない」
私にどうしろって言うのよ。
「ふざけないでよ」
深夜のカロリーなんて気にせずに、日付が変わる前に噛み砕いて飲み込んで。
全部なくしてしまいたいのに。
「胸が苦しい」
きっとこれは私の血肉となって消えたりはしないんだろう。
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