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後編

大変長らくお待たせしました。

今回は殿下視点(+α)です。

表情をあまり動かさず、社交界では冬に咲く孤独で美しい一輪の花とも言われている婚約者のエミィ。

初めて顔合わせをしたあの幼い時から、俺は彼女を愛していた。

そして、年を重ねるごとに彼女がどれほど美しく、同年代の男たちが彼女を狙っていたのかを知っていき、焦り始める。

どうにかして彼女を他の男から引き離し、俺の手から離さないようにしなければ。

焦るあまり、『監禁』などという物騒な思考に至っていた。そして、自分でその思考回路の異常さに震えた。

純粋で気高い彼女に監禁などという、そんな穢れた言葉は相応しくない。

しかし、彼女の愛らしい姿を見るとその言葉が脳内をチラついてしまう。

悩みに悩んで、父である皇帝に相談してみると、父は眉間を揉んで深くため息をついた。


「子は親に似てしまう,とこんなところで証明されてしまうとはな」


母を深く愛している父は自らの経験談を語り、このまま彼女と近い距離にいるのは危険だとアドバイスをした。


「私の経験だが、学院に入学し、男たちが多くいる中、自分の最愛の人が男と同じ空気の中にいることに耐えられなくなり、監禁に走ってしまう。だから、距離を取りなさい。そして、友人を作り、婚約者とではなく友人と一緒にいるようにしなさい」


男爵家の令嬢であった母は、学生時代に父に監禁され、一時期『男爵家令嬢誘拐事件』が世の中を賑わせていたという。無論、当時皇帝であった父の父、つまり俺から見て祖父はその事実を隠蔽し、あぶれものの無計画事件だったと発表して、その事件は幕を下ろした。

しかし、一部の高位貴族は事実をふとした拍子に知ってしまい、過去にあった事件と照らし合わせ、皇族の異常さに触れている。

実は、皇族の男は嫉妬深く、皆自分の愛した人を監禁しがちなのだ。

何百年も前の皇帝は自分の最愛の人を敵国の皇太子に取られ、敵国を滅ぼしてしまったというほどの執着。

俺は父のアドバイスを受け入れた。


学院に入り、友人を作ろうとするも、自分の地位が邪魔をしてずけずけ物を言ってくれる真の友人には出会えず、中庭でため息を吐いている時、彼女に出会った。


「なんでこの国の皇太子ともあろうお方がボッチなんですか。口下手なんですか」


あけすけとした物言いの少女は子爵家の令嬢であり、エミィの大ファンだという。

凛とした佇まいに、誰とも連まない孤高さ、そして俺を立てながらも影が薄くならず、主張をしている感じに惚れたのだという。

だから、そんな敬愛するエミィの婚約者である俺がエミィに相応しいか直々に判断してやろうと、目撃情報を収集しながら俺を探していたのだと。


「それなのに、どうしてこんなところでうじうじと。なら、お一人で食事をしておられるエミリア様をお誘いすれば良いものを」


そうすれば私もエミリア様と食事できたのに、と愚痴る令嬢。

普通であれば不敬だ、と言って然るべき場面だというのに、何故か虚しくなって自分の胸の内をこの令嬢にぶちまけてしまった。

どれだけ彼女を愛しているのか、午後の授業をサボって熱弁した俺に令嬢はとても冷たい視線を送っていた。


「なら、エミリア様本人に言えば良いじゃないですか。あの方はきちんとその言葉を受け止めて丁寧に自分の心のうちを話して下さいますよ」


それから、毎日エミィへ言いたいことやエミィの可愛らしい行動などを昼の時間にこの令嬢に話すようになった。

友人とまではいかないかもしれない、ただエミィを違う角度からではあるが愛する人間の昼の話し合いのような時間がとても楽しかった。

あの日のあれはふと思ったことだった。


「そろそろエミリア様をお誘いして一緒に昼食を取ってはどうですか」


令嬢は俺にランチボックスを投げて寄越しながらつっけんどんに言った。


「だから、エミィを見ると監禁してまで一緒にいたくなるんだ」


「でも、それは男とエミリア様が一緒にいた場合でしょう。私は一応女です。殿下とエミリア様、そして私であれば同じ空間にいる男は殿下のみ。なんら支障はないのでは」


令嬢はエミィを敬愛していたが、まさか俺のことをエミィが愛していたなどと思わなかった。勿論、俺もそんな事は思っていなかったので令嬢の言った通り従者に言付けてエミィを呼んだ。


そして、エミィの知っての通りだ。


俺はエミィに全て話してしまった。そして俺の後を追ってやってきた令嬢もエミィの隣に座って深く頷いている。


エミィの働いているカフェは臨時休業の札を出し、俺とエミィの話し合いの場を作ってくれた。途中乱入してきた令嬢は言葉巧みに経営者夫婦を丸め込んでしまったがこの場には当事者しかいない。


「そうです、何故私がエミリア様以外の方を敬愛しなければならないのでしょうか」


「ええと」


初めは怒りの色を顔に浮かべていたエミィだが、俺と令嬢が代わる代わる話す内容、そして嫌々ながら令嬢が懐から出した書状を見て困惑している。


『皇族の執着について』


そう書かれた書状は母が書かれたもので、どれだけ愛が重いのかが赤裸々に綴られていた。

思わぬところから援護射撃を得た俺はびっくりして令嬢を見た。


「エミリア様が殿下を深く愛していらっしゃったので、誤解を解くために。皇后様ともなるお方の言葉であればきっと信用に足る証拠となるでしょうし」


令嬢はエミィが手渡した装飾品を綺麗に折り畳んだハンカチから取り出し、立ち上がってエミィにつけた。


「私はエミリア様目的で殿下に近づきました。これは嘘偽りのない事実です。どうか、信用できないのであればこの場でこの首を切り落として頂いて構いません」


エミィは口をはくはくさせて言葉を探している。


「もし、エミリア様の心にまだ殿下がおられるのなら」


そこで言葉を切り、俺の方を向いて盛大に舌打ちをした。


「もう一度チャンスを与えてやってください。ヘタレなばかりにエミリア様に気苦労をかけた殿下など地に落ちれば良いと思っていますが」


エミィはあまりの展開に頭がついていっていなかったようだが、一つ小さく頷いてくれた。





「そうか、エミリア嬢は頷いてしまったか」


皇帝の母は首をゆるゆると振り、窓の外をぼんやりと見た。

彼女もまた皇族の執着に囚われてしまった一人であり、自分の過去に辿った道と同じ経路を行くエミリアを深く心配していた。

彼女の夫は美丈夫であり、歳を重ねた今もその美しさは濁ることなく逆に磨きがかかっている。

そんな彼は皇帝の座から退くと最愛の妻を伴って皇国の離宮に籠り、彼女の世話を自身でして愛で、遠目であっても彼女を見た男を粛清するという物騒な生活を送っていた。

自分を愛してくれていない、他の女と一緒にいたからと婚約破棄を切り出し、彼から逃げて見つかり、真実を話され、ならチャンスをと生きて、現在。

自身に自由はない。

皇后からの手紙を閉じ、息を吐いてメイドにレターセットを持ってくるように指示した。

二通、同じ内容を認め、メイドへ宛先を告げる。

一通は皇后に、もう一通は皇族の執着の餌食となってしまったエミリアに。


「きっと、エミリア嬢にはこれからのことを話しておいた方が良いでしょうからね」

これにて完結とさせて頂きます。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。



※追記

誤字脱字報告ありがとうございます。誤字部分、修正致しました。とても助かります。

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