第66話 決勝大会
決勝大会当日、俺達【ゴッド・エイト・ブレス】は順調に勝ち抜いていく。
これは、紫乃が想像以上に腕を上げ、紬以上のエースパイロットとなったのが大きい。
これなら本気で優勝を狙える。
一方桜子先生率いる【クッキー・マジシャンズ】も、あっさりと勝ち抜いた。
やはり、4人全員マスクをかぶっており、正体を明かしていない。
「あんなマスクを被って、よく戦えるよな」
どう見ても、視界が狭まっているように見える。
それでも勝てるということなのだろう。たいした奴等だ。
「ひまりちゃん、ちゃんと見ててくれていますかね?」
「もちろん。食い入るように見ているさ」
この会場には一般客は入れない。
あらかじめ許可を貰った業界関係者のみしか、直接観戦できないのだ。
そのため、ひまりは家でお留守番し、ネット中継で観戦している。
【クッキー・マジシャンズ】の準決勝が始まった。
「お! やっと、エースが出てきたぞ!」
「クーゲルシュライバーですね。両手ショットガンに両肩ロケットですか。面白いですね」
桜子先生以上の腕前と言われるエースパイロットだ。
先生と同じく、近距離戦闘を好むのだが、刀は使わない。
超至近距離からのショットガンとロケットの乱射という、先生とは別のタイプのロマンがある戦い方をする。
「んー……今日はあんまりキレがないな」
「そうですね。あれくらいなら私でも勝てそうです」
調子が悪いのだろうか? だが、こちらとしては好都合だ。
「兄上ー! 紫乃嬢ー! そろそろ出陣でございますですー!」
紬が、ほら貝を吹く。
やはりあの音を聞くと、血がたぎってくるな!
「よし、行こう紫乃!」
「はい!」
意外に苦戦して準決勝を抜けた【クッキー・マジシャンズ】とは対照的に、俺達は、誰も撃破されずに決勝戦へと突き進んだ。
流れは俺達に来ているかもしれない。
『それでは今から【黒鉄の武士】世界大会決勝戦を開始します! 【ゴッド・エイト・ブレス】と【クッキー・マジシャンズ】の代表選手3名は、コックピットに御着席ください!』
決勝大会は、アーケード用の筐体を使っておこなわれる。
つまり、プレイターミナル4だけで練習しても駄目で、ゲーセンに通う必要があるのだ。
これをプレゼントしてくれた座間のオッサンには、本当に感謝である。
俺は役員席に座る、座間のオッサンを見る。
オッサンは俺を見るとニカッと笑い、親指を立てた。
俺も景気よくサムズアップで返す。
俺達はコックピットに座る前に、会場中心へと進む。
先生たち4人も集まって来た。
試合開始前の挨拶をおこなうのだ。
さて、ここは挑戦者である俺達から挨拶させてもらおう。
「リーダー、八神颯真。搭乗機、プリヴィディエーニイ(幽霊)」
「八神紬です! 搭乗機はアシェンブレーデル(シンデレラ)です!」
「瑠璃川紫乃です。搭乗機はリベルテ(自由)ですよ」
リスマスクが一歩前に出る。
「これまでの戦いぶり見せてもらった。――八神君、紬ちゃん、紫乃、見事な腕前ね。とてもじゃないけど、マスクを被ったままでは勝てない。本気を出させてもらう」
リスマスクが後ろに振り返ると、3人はこくりとうなずいた。
【クッキー・マジシャンズ】の4人がマスクを脱ぐ。
会場は一瞬静かになると、急に大盛り上がりを見せた。
それはそうだろう。
チャンピオンのチーム全員が、若くて可憐な女子なのだから。
「リーダー、瑠璃川桜子。搭乗機、キルシュブリューテ(桜)」
「北原紗耶香ー。搭乗機はー、マスタースナイペル」
「小松玲奈。搭乗機は、ガチガチ君な」
そして最後……黒髪ロングの美少女。
「るりかわひまり……とうじょうきは、くーげるしゅらいばー(ボールペン)」
まさか彼女たちだったとはな……。
一人が車いすであることは、結構気にはなっていたが、それがひまりだなんてまったく思いもしなかったよ……。
紫乃と紬も同じ感想のようで、口をポカンと開けたまま、固まってしまっている。
「もう、どこから突っ込んでいいのか分からないな……えーと……じゃあ、まず何で秘密にしていたのかから聞きましょうか」
「それがチームのルールだから。別に騙したい訳ではなかった」
正体を明かしてはならないってことか。
だからひまりは、初心者の振りをしていたんだな。
「ひまりのメモに書いてあった『【黒鉄の武士】の世界大会に●●と出場して、優勝する!』と言うのは……?」
「“一緒のチームで戦う”とは書いてない。きっと、八神君に勝って優勝したいって意味なんだと思う」
確かに……。同じチームで戦うものだと決めつけていたが、先生の言うとおりなのかもしれない。
「そういうことだったんだな、ひまり」
「だとおもいます。あたしは、あなたとたたかうために、めざめたきがしたので」
ひまりの目つきが一気に鋭くなる。
「……でももう、ゆうしょうなんてどうでもいいです! あたしは、やがみさんをとめるためにたたかいます!」
先生がひまりの頭を撫でる。
「八神ー。てめえ、ひまりん置いてくなんて許さねえからなー!」
「フルボッコにしてやんよ! ……まあ、次はあーし出ねえけど」
「八神君。――覚悟してね」
「えーすのじつりょく、みせてあげます!」
「妹ちゃん、私達の力で先輩をアメリカに送りましょう!」
「もちろんでありますです! 紫乃嬢!」
「俺の覚悟、受け取ってください」
俺達は握手した後、それぞれのコックピットに着座し、シートベルトをする。
データカードを挿入し、ジェネレーターを起動した。
『代表選手の皆様、準備は整いましたでしょうか?』
俺達は親指を立てて、発進準備完了の合図をおこなう。
『それでは、【ゴッド・エイト・ブレス】VS【クッキー・マジシャンズ】決勝戦始め!!』
【クッキー・マジシャンズ】のエースはひまりでした。
クッキーが好きだったり、ロボットアニメに詳しかったりと、それを臭わすシーンがあります。
あと、第35話「姉妹バトル」のタイトルの意味は、冒頭のひまりと紫乃の口喧嘩だけでなく、【黒鉄の武士】での、ひまりと桜子の対戦の意味も含まれています。




