第61話 ひまり救出作戦
だが、ひとまず冷静になれ颯真。
怒りのままに突撃しては、蜂の巣にされて終わるだけだ。
まずは現在の状況を分析しよう。
武装集団の人数は不明だが、少なくとも2チームに分かれている。
1チームは展望台、もう1チームは1階だ。おそらく警備室に居るのではないのだろうか?
そこに、エレベーターやシャッターの操作盤があると思われるからだ。
エレベーターが止まり、階段前のシャッターが下ろされ、展望台へのアクセスは不可能。
ひまりの元へ行くには、これ等を復旧させる必要がある。
つまり1階を制圧しなくてはならないということだ。
1階のチームは最低4人。
ホテルの規模を考えると、それ以上いると想定しておくべきだろう。
敵の戦闘経験は不明。だが、それなりの訓練を受けている可能性は高い。
たとえ1対1でも、正面から戦うのは絶対に避けるべきだ。
以上の点から踏まえて、一人ずつ不意打ちで各個撃破していくのが理想だが、この状況で単独行動するような馬鹿ではないだろう。
敵を上手くおびきだす必要がある。
俺は警備室を探そうと、天井裏を静かに移動した。
しかしまさか、服部先輩から習った「忍び足」が役に立つ日が来るとは……。
下から女性のすすり泣く声が聞こえてくる。――ここに人質が囚われているのだろうか?
俺はゆっくりゆっくり、点検口を少しだけ開け、隙間から部屋の中をのぞく。
服部先輩直伝、「屋根裏から悪代官をのぞく術」だ。
手をテープで縛られ、口を塞がれている人たちが、倉庫の片側に集められていた。
そこには、俺のクレープメーカーを探しに行ってくれていたフロントの2人もいる。
おそらくあの2人は、裏口から侵入した武装集団と鉢合わせになってしまったのだろう。
見張りの数は4名。どうやっても倒すことは不可能だ。
その時、奥からもう一人武装した男がやって来た。
やはり4人以上いたか。
「おいお前ら2人、もう一度男子トイレを探してこい。今監視カメラの映像をチェックしたが、男が1人入ったまま出てきていない」
――マズい! 間違いなく俺のことだ!
俺は咄嗟に点検口を閉じる。
「マジか? もしかしたら、やっぱり天井裏に逃げ込んだのかもしれねえな……何か重りを乗せて塞いだのか……」
「かもな。――よし、行くぞ」
どうする!?
このままじっとしていれば、奴等は確実に天井裏を捜索しに来てしまう。
逆に人質のいる倉庫は、2人減って手薄になった。
攻めるなら今か? ……いや、奥にまだ敵がいるかもしれない。うかつに飛び込めば死だ。
となれば、俺を探しに来る2人の方を撃退し、銃を奪う。それしかない!
俺は静かに、かつ素早く天井裏を移動し、再びトイレの上へと移動した。
「――クリア!」
「女子トイレ異常なし。男子トイレのクリアリング終了後、天井裏へと上がる」
下から声が聞こえてくる。
どうやら無線で仲間と連絡を取りあっているようだ。
つまり、奴等を倒すと、すぐに仲間に異常事態を察知されてしまう。
できれば一気に全員を仕留めたいところだが、俺はジョン・マ〇レーンでもジェイ〇ン・ボーンでもない。そんなことは不可能だ。
俺は女子トイレの点検口を開け、静かに下へと下りる。
そして、いったんトイレを出て、男子トイレへとこっそり侵入する。
おそらく監視カメラに俺の姿が映ったはず。すぐに応援がここに駆けつけてくるだろう。急いで倒さなければ。
俺は壁の陰から、中をうかがう。
一人は点検口によじ登り、ライトで天井裏を照らしているようだ。
もう一人は、その様子を後ろで見ている。
俺は一気に男に駆け寄り、渾身のストレートを食らわす。
男は一発でダウンし、その場に崩れ落ちた。
「――ん? どうした?」
天井裏をのぞいていた男が、便器の上に降りた。
その瞬間、ボディに強烈なパンチを叩き込む。
「ぐおっ……」
前に倒れ込んで来たところに、左フックを打ち、ノックダウン。
上手くいった!
服部先輩に習った、足音を立てずに走る方法が役に立ったな。
「さあ急げ!」
俺は急いで、サブマシンガンとハンドガンを奪う。
弾は……装填されている! あとはセイフティーさえ解除すれば撃てるぞ!
俺は銃の使い方を知っている。
結構興味がある分野なので、動画などで学習していたのだ。
「ボディーアーマーも奪おう……! それから拘束だ……!」
予備の弾薬が入っているはず。
あとは拘束するための道具も欲しい。
俺は男のボディーアーマーを脱がし、着込む。
ポケットの中には弾薬、タバコ、ライター、携帯電話、無線、そして……。
「あった……! ダクトテープだ! あとこれは……!」
スタングレネード!
閃光と音で、一時的に動きを封じることができる非殺傷兵器だ。
いいぞ! これがあれば、俺1人でも制圧できるかもしれない!
俺は男2人をダクトテープでグルグル巻きにした後、もう一人の男から弾薬とグレネードを奪う。
「よし! 反撃開始だ! 今すぐ飛び込んで行ってやる!」
俺はわざと少年誌の主人公が言いそうな台詞を吐き、トイレの入り口を見る。
――やはり、絶対におかしい。
俺が男子トイレに入るところは、間違いなく監視カメラで目撃されたはず。
俺はこいつ等の装備を剥ぎ取り、拘束するのに結構手間取っている。
時間的に、とっくのとうに踏み込まれていてもおかしくない。
奴らめ、入口で待ち伏せているな?
俺はグレネードのピンを抜くと、入口に転がし、耳を押さえた。
激しい爆発音の後、俺は入り口に向けて駆ける。
ふらついている男2人をパンチでノックアウトし、ダクトテープで拘束後、装備を奪う。
「素人相手だからと、スタングレネードを出し惜しみしたのがお前らの敗因だ」
反撃開始!




