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第50話 自由をつかみとれ!

「な、なんだ!?」

「ツーリングの集団のようですが……」


 バイクの一団がこちらへとやって来る。

 先頭を走るのはオレンジ色のバイクに乗る大男と、安全性ガン無視のセーラー服だ。


「がははははー! 東西番長連合参上じゃあ!」

「颯真ちゃーん! 助けに来たったでー!」


 来てくれたか……。

 極悪院先輩と憲司は、こうなった時のために、俺達の後を追ってきてくれていたのだ。


 先輩たちはバイクをとめ、追手の男達と対峙する。

 寺田先輩、服部先輩、鷹飼、西の石田もいる。人数的にはまだ劣っているが、この人達と一緒なら勝てるはず!


「よっしゃお前ら! 男の生き様見せたれい!」

「おう!!!!」



 極悪院先輩たちの戦いぶりは見事だった。

 たちまちの内に、追手たちを叩きのめしてしまう。


「なんや、プロでもこんなもんかいな。たいしたことあらへんな」

「しかし敵の親玉、よう逃げんのう……!」


 追手たちが全滅したのに、紫乃の父親を乗せた高級車はその場から動かない。

 もしかして運転手が、あまりの恐怖に動けなくなってしまったのだろうか?



 その時、運転席から運転手が降り、後ろのドアを開けた。

 そこから1人の男が降りてくる。


 長身でガッシリとした体つき。

 見事なスーツを纏った男。紫乃の父親だ。

 彼は拍手をしながら、運転手を伴ってこちらへと近づいて来る。


「見事だ。私の私兵を、こんなにあっさりと倒してしまうとは。久々血がたぎったよ」


 父親は俺をギラリと睨む。

 こいつ……ただの実業家じゃないぞ……。


「紫乃君、彼が君の選んだ男ということなのかな?」

「いえ……あの……その……」


 父親は運転手に手を向けた。

 運転手はこくりとうなずくと、長い棒状の物を父親に手渡す。――まさか……!?


 父親はぬらりと刀を抜く。

 こいつ……正気か!?


「八神……あの男、只者ではないぞ」


 寺田先輩がそう言うのであれば、相当な剣士ということだろう。



「君は桜子君も力尽くで奪っているね? はっきり言おう。そういうやり方、私は……好きだ」


 意外な答えが返って来た。

 だからと言って、平和的には解決できそうにない気配だが。


「だからこうしよう。私と君で勝負だ。私が勝てば、紫乃は瑠璃川家のために嫁いでもらう。君が勝てば、娘の自由を約束しよう。どうかね?」

「先輩、受けなくていいです!」



[1、挑戦を受ける]

[2、挑戦を受けない]



「分かりました。やりましょう」

「ちょっと、やだやだ! 皆さん、先輩をとめてください!」


 紫乃は極悪院先輩達に泣きつくが、先輩達は真剣な眼差しで、まっすぐと俺を見るだけだ。


「見苦しい真似やめーや。俺達にできることは、黙って戦いを見届けることだけやで」


 憲司が紫乃の頭をぽんぽんと叩く。


「で、でも……」

「男の帰りを黙って待つ女が、良い女じゃけん。ヌシは違うんかのう?」


「……分かりました。先輩の勝利を信じます」


 紫乃の眼に強い覚悟が宿った。

 これで心置きなく戦える。



「――八神、拙者の木刀を使うか?」

「いえ、俺には使いこなせませんので」


 俺には、この拳しかない。

 相手が得物を持っていようと、これで戦うしかないのだ。


「私を卑怯とは言うまいね?」

「ええ、もちろん」


 父親は満足そうにうなずいた。


「では、勝負開始だ」



 父親は刀を上段に構え、ジリジリと近づいて来る。


 リーチは向こうの方が、はるかに長い。

 先に仕掛けてくるのは確実にあちらだ。

 ならば一旦振らせて、回避後に反撃するか?


 ……いや、それは難しい

 すぐに次の一太刀を放たれ、斬られてしまうだろう。


 ならば……!


 俺は今までで、最高のスピードで距離を詰める。

 父親の顔に、一瞬だけ動揺が見えたが、素早く上段切りを放って来た。


 だが、動揺したせいで、ほんのわずかに遅れている。

 俺はその隙を逃がさない。


 刀が振り下ろされる前に、俺は父親の腕をつかみ、斬撃をとめた。

 そして、すぐにアゴめがけてアッパーを放つ。



 父親はその場に崩れ落ちた。



「やったのう! 颯真あああああ!」

「颯真ちゃん、俺惚れてまうわー!」

「まさか無刀取りとは……見事だ八神!」


「先輩!」


 紫乃が俺の胸に飛び込んでくる。


「紫乃! 良かったな! これでお前は自由だぞ! ――そうですよね?」


 俺は倒れている父親に問い掛ける。


「ああ……約束は守ろう……」


 運転手の肩を借り、父親が起き上がった。

 そして、俺の元へとヨロヨロと歩いて来る。


「八神君、気に入ったよ……」

「ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げた。


「学校には、私の方から上手く言っておく。ツーリングを楽しんできなさい」


 父親は運転手の力を借りながら、車に乗り込む。

 そして、すぐに車は出発した。追手たちを置き去りにして。



「この人達どうしようか?」

「多分、すぐに回収部隊が来ると思うので心配ないかと」

「じゃあ、宿に戻るとしようかのう!」



 こうして俺と紫乃は、極悪院先輩たちと合流し、北海道ツーリングを満喫した。


 3日目は旭川で旭川動物園を見学。

 4日目はひたすらまっすぐな道を走り、日本最北端の地、稚内に到達。ホテルのバイキングはイクラ食べ放題だ。すげえ!

 5日目は網走まで行き、網走刑務所を見学。

 6日目は知床で野生のヒグマをウォッチングだ。でかくてこええ!

 7日目は根室で回転寿司を食べ、8日目は釧路で霧に覆われた街を練り歩く。

 9日目は帯広でナイタイ高原牧場を見学したあと、豚丼を食べる。

 10日目はトマムで雲海を見る。確実に見られるものではないので、本当運が良かった。

 11日目は札幌に宿泊し、北海道最後の夜を、みんなで盛り上がる。


 そして12日目、苫小牧港からフェリーに乗り込み、北海道とお別れとなった。




 その日の夕方、俺は再び紫乃と一緒に、船上から沈みゆく夕日を眺めていた。


「綺麗ですね……北海道に来て、本当に良かった」

「ああ、そうだな」


 紫乃と極悪院先輩、両方との約束を一気に果たせた。

 これでもう呪いの期限に怯える必要はない。


「先輩……私、やっぱりダメな女です」

「……どうした急に?」


「だって私、先輩とひまりちゃんのこと応援したくないんです」

「紫乃……?」


「先輩のこと、もっと好きになってしまいました。ひまりちゃんに取られたくないです。私に振り向いて欲しいです……」

「紫乃……俺は……」


 ひまりがああなってしまってから、やっと気付いた。

 俺はひまりを……。


 言葉を続けようとした俺の唇に、紫乃が人差し指を押し当ててきた。


「それ以上は言わないでください。――負けてもいいんです。私の自由に生きさせてください」


 俺は紫乃の目を見つめる。

 彼女の目には、強い覚悟が宿っていた。


「……そうだな。俺も紫乃にはそう生きて欲しいと思ってる」

「先輩……!」


 紫乃は俺に抱きついてくる。


 彼女は強くなった。

 たとえ望まぬ結果を迎えたとしても、決して後悔などしないはずだ。



「ひまりちゃーん! 早く目を覚まさないと、私が先輩を取っちゃいますよー!」


 紫乃が南に向けて叫ぶ。


 俺は夕日を浴びながら、それを微笑ましく眺めていた。


イクラ食べ放題はガチです。

ちなみに知床で見たヒグマは子連れでした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] パパさんのセリフで貰っていくっていうのはちょっと違和感がありますね 返してもらうとか若干自分の思い通りにできる感じを出した方がいいのではないでしょうか
[一言] トマムには何度も言ったことあるのでなんか親近感湧いちゃいました笑 北海道いいですよね〜
[良い点] 北海道良い! 今はオートバイ無いので、自転車かロードスターで走り行きたい! だが連休など無理!不思議! [気になる点] 親子連れのヒグマって、凶暴の代名詞ではw
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