第49話 いざ北海道へ
フェリーが苫小牧港に到着したので、バイクに乗って降りる。
「どうやら警察はいないようだな」
「はい! しばらく旅を楽しめそうですね!」
俺達は国道276号線をトコトコと法定速度で走り、支笏湖へ到着した。
スワンボートに乗り、美しく雄大な湖の景色を楽しんだ後、近くの食事処でヒメマス料理を堪能し、札幌へと向かった。
紫乃の希望どおり、札幌ラーメンを食べ、普通のビジネスホテルへ。
チェックインし、部屋に入る。
「――な!? 紫乃!? どういうことだ!?」
宿の手配は紫乃に任せていたのだが、ベッドがダブルベッド一つしかない。
「ご、ごめんなさい! この部屋しか空いてなかったんです! ……あの、先輩……嫌ですか……?」
嫌っていうより、未成年の男女が一緒のベッドで寝るのは、色々とマズいだろ。
「うん、まあ……お前の父親に殺されてしまうかもしれないしな」
「そ、そうですよね……何やってるんだろ私……」
「じゃあ俺は、ネットカフェにでも泊まるよ」
「ま、待ってください! 同じ部屋で寝ようって言ったのは、先輩じゃないですか!」
これはそのとおりだ。
別々だと紫乃を守れないので、一緒の部屋に泊まることを提案した。
駄目もとで聞いてみたのだが、意外にも二つ返事で了承される。
「先輩は紳士だから、私に手を出しませんよね?」
「まあな」
「じゃあ一緒にいてください。怖いんです……」
「うーむ……」
今は常に大きなストレスを抱えている状態だ。紫乃のメンタルが、いつ崩れ出すか分からない。
そうなれば逃亡は不可能になる。彼女の精神衛生を保つのも重要だろう。
「……分かった」
こうして俺は、紫乃と同衾することになった。
そして、その夜。
2人でベッドに入って2時間後。
俺はチラリと横を見る。
紫乃がニコっと微笑んだ。
さっきからずっとこの調子である。紫乃はずっと俺の方を見ているのだ。
これじゃ、まったく眠れる気がしねえ……!
「そろそろ寝たいんだが……?」
「はい、いいですよ?」
紫乃は俺の方に近付いて来る。
おい、そんなことされたら、眠れないだろっつーの。
「あの、先輩……一つ謝りたいことが……。私……嘘をつきました……」
「ホテルのことか?」
「はい……」
やっぱりな。
札幌には多くのホテルがあるし、しかも今日は平日なのだ。空室など、いくらでもあるだろう。
「あの……! 決して、やましい気持ちはないんです! 昨日、別々のベッドで寝た時、とっても怖くって! だからそれで……!」
いつ追手が来るか分からない状況だからな。紫乃の気持ちは分かる。
俺だって正直怖い。
「大丈夫だ。分かってるよ。心配するな」
「先輩は本当に優しいです……」
紫乃はすりすりとすり寄ってきて、ぴったりと俺にくっついてきた。
「抱きしめて欲しいです……そしたら私は、安心して眠ることができます……」
[1、紫乃を抱きしめる]
[2、紫乃を抱きしめ、キスする]
「いいぞ」
俺は紫乃を優しく抱きしめ、彼女が穏やかな寝息をかき始めるまで、その温もりを感じ続けた。
翌日は富良野に向かう。ラベンダー畑と北の国からで有名な場所だ。
まだ6月だが、一応ラベンダーは咲き始めているらしい。
「先輩見てください! コンビニまであと36kmですって!」
「ははは! 北海道はスケールが違うな!」
北海道の道は基本一本道。交差点があまりない。
だからこんな案内が可能なのだ。
俺達は野生のキタキツネに感動しながら富良野に到着した。
「うーん、まあ五分咲きってとこか?」
「そうですね……」
ちょっとがっかりしながら、2人でラベンダーソフトクリームを食べる。
美味しい。
「本当は夏休み中に来るつもりだったんだがな。そしたらきっと満開だったはずだぜ?」
「私は今来られて良かったです。早く北海道に行きたくて仕方なかったので」
そう言ってくれると嬉しい。苦労した甲斐があったというものだ。
1か月で免許を取って、バイクを購入するのは、正直相当きつかった。
昼食は俺の希望でジンギスカンを食べ、今日の宿泊予定地美瑛に出発だ。
ジャガイモ畑と丘が美しい街で、北海道で最も美しい場所と言う人も多い。
美瑛に到着し、夕日が沈む色彩の丘やパッチワークの丘を堪能する。
「本当、いいところですね」
「そうだな」
「ずっとここにいたい……」
紫乃が儚げな笑みを見せる。
自分の望みが叶わないことを、十二分に理解しているに違いない。
なにせ、高校生のカップルはあまりにも目立ちすぎる。見つかるのは時間の問題だ。
「紫乃、日が落ちた。宿へ――」
そこまで言って、複数の大排気量のエンジン音に気付いた。
美瑛では、まだ一度も聞いたことのない音だ。
「先輩……?」
「もう来たか……さすがだな……」
ワゴン車が2台、俺達を挟み込むように停車した。
少し離れたところに、黒塗りの高級車も止まっている。
「先輩……怖い……」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
ワゴン車から、それぞれ6人の男が降りてきた。
身のこなしで分かる。全員、格闘技の経験者だ。
素人相手でも、複数人相手は厳しい。俺が勝利することは、ほぼ不可能である。
「やれ!」
男達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。
一人ずつ順番になんて、時代劇のような親切な戦い方はしてくれない。
「――シュッ!」
俺の右ストレートが入り、1人をノックアウトさせた。
だがその瞬間、2人の男につかまれ、地面に押し倒される。
「押さえ込め!」
「くっ……」
「先輩!」
ボクサーは倒されてしまうと、ほぼ打つ手がない。
俺は為すすべなく取り押さえられてしまう。
「お嬢様、我々と来ていただきましょうか。御父上がお待ちです」
「分かりました……その代わり、先輩に暴力を振るわないでください」
あの高級車に乗っているのは父親か……。
わざわざここまで来たんだな。
……さて、間に合ってくれるのか?
その時、複数台のエンジン音が聞こえてきた。
ぜひ美瑛をググってみてください。本当に美しいところです。




