第40話 強さの証明
「おう、お前ら久しぶりじゃのう!」
豪華な内装が施された船室には、3人の生徒が座っていた。
腰に木刀を刺した男、頭巾をかぶった男、肩に鷹を乗せた男だ。
どいつもこいつも、ヤバい臭いがプンプンする。
「紹介しよう! 右から順に、久保坂高校3年・剣道部部長・寺田一刀斎!」
い、一刀斎!? 剣豪になるしか許されない名前じゃねえか!
これで帰宅部だったら、学校中の笑いものだっただろうな……。
寺田先輩は、腰に抜き身の木刀を差している。いつでも抜けるようにしているのだろうか? 明らかに生まれてきた時代を間違えている。
彼は軽く俺に会釈してくれたので、こちらも会釈で返す。
「まん中にいるのは、虎城高校3年・体操部部長・服部全蔵!」
服部全蔵!? 体操部だし、絶対忍者だこの人!
服部先輩は忍者の印を組んだ。あれが挨拶なのだろうか?
俺は軽く会釈する。
「一番左は、小野寺高校2年・飼育係・鷹飼飛鳥!」
飼育係……? 一気にショボくなったぞ?
鷹飼は名前のとおり、肩に鷹を乗せている。
俺は会釈したが、ふんっと俺にそっぽを向かれた。
「そしてこいつは、毛輝毛路須高校2年・陸上部・八神颯真! ハジキ相手に素手で突っ込んだ、真の漢よ!」
「どうも八神です」
俺は一応頭を下げた。
しかし、鷹飼いはそっぽを向いたままだ。
「おう鷹飼……きさん、このワシが認めた男に向かって、なんじゃその態度は……?」
極悪院先輩から、凄まじい殺気が放たれる。
「……そんなモヤシ野郎、この場に相応しくないっしょ。番長張るタマじゃねえっすわ。目にまったく力ねえし」
鷹飼の言うとおりだ。俺はこの場にまったく相応しくない。
なぜなら、ただの一般生徒だからだ。だから早く帰らせてくれ。
「鷹飼ぃ……! 表出ろや……!」
「まあ待たれよ極悪院。鷹飼が疑うのも無理はなかろう。彼は今まで無名だったのだ。ここは一つ、彼の力を証明させてはいかがでござるか?」
寺田ぁ! 余計なこと言うんじゃねえよ!
「確かにそれもそうじゃのう……よっしゃ颯真! ヌシの実力、こいつらに見せてやってやれい!」
[1、「いいっすよ? どいつをボコせばいいんですか?」鷹飼とタイマン]
[2、「お前を殺せば証明できるなあ!」極悪院をボコす]
[3、「関東番長は今日から、俺のもんじゃあ!」4人をボコし、総番長となる]
ほーら、寺田が余計なこと言うから、こうなっちまったじゃねえか。
「いいっすよ? どいつをボコせばいいんですか?」
「ふんっ、俺が相手してやるよ」
鷹飼が立ち上がり、俺に外に出るよう指で指し示してきた。
ちくしょう……やっぱりこうなっちまいやがった。
どうする? ある程度のダメージ覚悟で、いい感じに負けるか?
そうすれば、二度と呼ばれることはないはず。
俺はその作戦でいくことを決意し、立ち上がった。
「八神殿、全力でいかれよ」
[1、「では遠慮なくいかせてもらうでござる」鷹飼と本気で戦う]
[2、「全力? ならば皆殺しじゃあ!」4人をボコす]
「では遠慮なくいかせてもらうでござる」
寺田ぁ! また余計なこと言いやがって!
俺はぷんぷんと怒りながら、桟橋の上に降りた。
「がはははは! 颯真の奴、闘志に満ちておるわい! あの鷹飼を前にして臆さぬとは、まことあっぱれじゃのう!」
「うむ、生まれながらの武士ということでござろうな」
ちげーよ! お前が余計なこと言うから、ムカついてるだけだよ!
「――ハンデだ。この鷹は使わないでやる」
鷹飼は上空へ鷹を飛ばし、学ランを脱いで袖をまくった。
ってことは、本気で戦う時は鷹を使うのか。
あんな鋭いクチバシと爪で襲われたら、恐ろしいだろうな。
「颯真! 鷹飼のヒジには気をつけい! 奴のヒジは鷹の爪のように鋭いぞ!」
ヒジ? 奴はムエタイをやっているのか?
俺は蹴り技を使う奴と戦ったことがない。キックに対応できるだろうか?
「では、始めい!」
極悪院先輩による開始の合図が出た早々、ミドルキックが飛んでくる。
俺は咄嗟にガードしたが、そのあまりの衝撃にガードが崩されてしまった。
とんでもない威力だ! パンチの比じゃない!
そして次の瞬間、その隙を狙われストレートを打たれるが、これをなんとか回避する。
しかし、続いてのエルボーのコンビネーションが俺の頬を切った。
「ほーん……ギリギリ避けやがったか……まあまあ、やるじぁねえか」
俺は頬から流れる血を手で拭う。
やはりボクシングとは全然違う……! リーチと威力が、パンチより断然上だ。一体どう戦えばいい!?
蹴りの弱点は、隙が大きく連打ができないこと。肉薄され過ぎると打ちにくい。
キックを封じるには、間合いを詰めてインファイトに持ち込むしかないだろう。殴り合いならば、俺にも勝機はあるはず。
俺は鷹飼に密着しようと、一歩踏み込んだ。
バッチーン!
いってえええええええええ!
鷹飼のローキックが俺の左足に入った。膝から崩れ落ちそうになるのを、気合で
なんとかこらえる。
ローキックがボクサーに有効とは聞いたことがあったが、本当にそのとおりだ。視覚外の攻撃のため、まったく見えていなかった。
これじゃあ、うかつに飛び込めないぞ。どうする?
「お前、ボクサーだな? ローにまったく対応できてねえわ。ははは!」
そのとおり。どうしていいかまったく分からない。
ローキックを恐れて距離をとってしまうと、今度はミドルやハイキックの餌食になってしまうだろう。
正直、寺田が余計なことを言わなければ、即ギブアップしているところだ。
「――うおっ!?」
攻めあぐねていると、ハイキックが飛んできた。かろうじてこれを回避する。
隙の大きいハイキックを単発で放ってきたのは、俺を舐めているからだろう。
コンビネーションで使われていたら、打たれたことすら気付かずに食らっていたはず。
「お、目は良いんだな。だが逃げてるだけじゃ、俺には勝てねえぜ」
さあ、どうする?
鷹飼は、ハイキックが避けられたことで、再びローを放ってくるはず。
そこを狙うか?
――よし! 今回も実践してやる!
古賀戦、早乙女戦、共に俺の勝ち方は同じだった。カウンターである。
「む……颯真から強い覚悟を感じるわい」
「次で決まりそうでござるな」
俺は鷹飼との距離を縮めるため、ステップを刻んだ。
鷹飼は俺を迎撃しようと、ローを放つ。――うん、よく見えている。
俺は最大速度で一歩を踏み込み、ストレートを放った。
鷹飼のローがヒットする前に、俺の拳が奴の顔面を捉える。
よし、早撃ち対決に勝った。
ひるむ鷹飼。
まだダウンしていないので、俺はフックで追撃をおこなおうとした。
「そこまでい!!!!」
俺はピタリと止まる。
「颯真の実力は、これで十分証明できたじゃろう! どうじゃ鷹飼!?」
鷹飼は腕で鼻血をぬぐいながら、口を開く。
「いや、俺は最初っから分かってたっすよ……どうっすか? 寺田さん? 服部さん?」
「うむ、申し分ないでござる」
「八神の武と覚悟、しかと見届けたにんにん!」
「がはははは! なんじゃ、そういうことか! 寺田も服部も悪い奴じゃのう!」
なるほど。納得していなかったのは鷹飼じゃなくて、寺田さんと服部さんだったのか。2人は、後輩の鷹飼を使って俺を試したのだ。
「改めて自己紹介させてもらうぜ。小野寺高校2年の鷹飼飛鳥。よろしくな八神」
「こちらこそよろしく鷹飼」
俺は熱い握手を鷹飼と交わし、彼等の仲間となった。
いや、なってしまったと言うべきか……。




