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第35話 姉妹バトル

 紫乃は俺とどこまでいったのかを、何度も何度も尋問されたそうだ。

 手をつないだだけという確証が得られると、ようやく解放される。女って、本当恐ろしい。



 みんなが帰った後、リビングでひまりと紫乃の口論が始まった。


「アンタ一条狙いなんでしょ! なんで八神とデートすんのよ!」

「だから何度も言ってるじゃないですか! 予行練習なんですって!」


「嘘つくんじゃないわよ! 一条と観覧車乗らなかったんでしょ! アンタ、いつから八神に乗り換えたのよ!?」

「ちょっと、やだやだ! 先輩みたいなキモい人を、好きになる訳ないじゃないですか! そんなのは、ひまりちゃんぐらいですよ!」


「はぁ!? アタシが、こんな陰キャを好きになるワケないじゃない!」

「バーカバーカ! 先輩目当てで、陸上部入ったの分かってますからね!」


「バーカバーカ! 違いますぅ! 内申点目当てですぅ! そんなことも分からないなんて、本当アンタバカァ?」

「バーカバーカ! バカのひまりちゃんが、内申点稼いでも意味ないんですぅ! 最近気になるクラスメイトが先輩だってことも、バレバレですぅ!」


「な!? 紫~乃のウンコはくっさいぞ~!♪ お肉ばっかり食べるから油っぽ~い!♪ お野菜もちゃんと食べましょ~ね~!♪」

「あはははは! 言い返せないからって、みっともなさすぎ! お前バカすぎ! そして、お前のパンツいつも汚れすぎ! お股をちゃんと拭きましょうねー! ヘイメーン!」


「キーッ! ラップっぽく返すんじゃないわよ! 殺してやるわ!」

「口で勝てないからって、暴力とかマジでモンキー! 頭がジャンキー! 顔はジャッキー!」


「誰がジャッキーよ! 死ね! ブス!」


 ひまりが紫乃に飛び掛かり、2人は床の上をゴロゴロと転げ回る。

 おお……すごい迫力だ――っと、いかんいかん! 感心している場合ではない!


「やめろ! お前達!」

「やめてひまり、紫乃」


 俺と先生は2人を引き剥がす。


「フー! フー!」と荒い鼻息を吐くひまりを羽交い絞めしたまま、先生に話しかけた。


「先生……俺、この家出て行った方がいいですよね? 報奨金100万貰ったんで、安いアパート借りようかと思います」


 俺のせいで、三姉妹の仲が悪くなってしまうのは申し訳ない。

 かなり苦しい生活にはなってしまうが、仕方ないだろう。


「ん……この2人は、いつもこんな感じだから気にしないで」

「そ、そうよ八神! アタシ達本当は仲良しなの! ――ねえ紫乃!?」

「は、はい! ちょっとじゃれ合っただけです! どこの姉妹にもあることですよ!」


 そうなのか。女同士とは、そういうものなのかもしれないな。


「そうですか……それなら、いいんですが……」


 紫乃がぱんっと手を叩く。


「それじゃあ仲直りの印として、みんなで【黒鉄の武士】をやりませんか!」

「おお、いいな」

「それはいいアイデアですね紫乃嬢!」


 紫乃はすっかり【黒鉄の武士】にハマっており、ちょくちょく家でプレイするようになった。

 これを機に、先生やひまりに布教するつもりなのだろう。いい心がけだ。


「まあいいけどー……」

「ごめん。私は遠慮する」

「あ――桜子ちゃん……」


 桜子先生は部屋に行ってしまった。

 まあ、これが一般的な女性の反応だろう。こんなコアなゲームをやりたがる女は、そうそういない。

 乗ってくれたひまりが異質なのだ。


 しかしこいつ、ゲームなんてできるのだろうか?

 ゴリラの方がまだ上手そうなのだが……。





 俺の予想を裏切り、ひまりはすんなり操作を覚え、機体をセットアップした。


「じゃじゃーん! どうよ、アタシのマッシーンは!?」

「いいな……!」


 超重量級の機体に、両腕ヘビーガトリングガン、両肩にミサイルポッド、背部に連動式ミサイルランチャーを搭載だ。

 両肩から発射されるミサイルは一発ずつだが、それに連動して背部ユニットから、一度に6発の小型ミサイルが発射される。

 銃弾とミサイルをばら撒きまくる、弾幕マシマシマッシーンだ。実にロマンがある。



 俺達はひまりを鍛えようと、対戦を繰り返す。

 そして何戦目かで、俺は気付いた。


 ――こいつ、でたらめにばら撒いている訳じゃないぞ!


 ひまりは、ガトリングの有効範囲内に、ミサイルで敵を追い込んでいる。

 敵の動きとミサイルの軌道を計算できなければ、このような芸当は不可能だ。


「ひまり……狙ってやっているのか?」

「え? 何が?」


 どうやらそういう訳ではないらしい。

 本能的に戦い方を理解しているのだ。紛れもなく天才である。


 紫乃もそうだったところを見るに、瑠璃川三姉妹はゲームの才能があるのではないだろうか? もしかしたら桜子先生も、やらせてみたら上手いかもしれない。



「次の対戦相手は……すっご! 世界1位ですって!」

「何だと!?」


 俺はガバッと画面を食い入るように見る。

 間違いない……世界ランク1位にして、この前俺達をボコしたチーム、【クッキー・マジシャンズ】だ!


「紬! スタンバイだ!」

「了解であります!」


 紬は自室に戻り、プレイターミナル4を起動する。

【黒鉄の武士】は、アーケード機とPT4のマルチプラットフォーム対戦が可能なのだ。


「よし、ひまり! 奴等をぶちのめすぞ!」

「え!? 始めたばかりのアタシに、できる訳ないじゃない!」


「できる! 自分を信じろ! では八神颯真、プリヴィディエーニイ(幽霊の意味。超カッコイイだろ?)出る!」

「あははは! 先輩、完全に入っちゃってる! マジキモいです!」


「八神紬、アシェンブレーデル(シンデレラのドイツ名です。可愛い紬にぴったりですね!)出ます!」


 部屋から紬の叫び声が聞こえてくる。


「え? それ言わなきゃいけないワケ? 瑠璃川ひまり、カイザーシュニット(どこかで聞いた、イケてる単語を名前にしたわ)出るわよ!」

「あはははは! ひまりちゃん、それ“帝王切開”って意味ですよ!」


「え゛!?」


 瑠璃川家のリビングが爆笑に包まれる。



 こうして【ゴッド・エイト・ブレス】対【クッキー・マジシャンズ】の3VS3デスマッチが始まった。



【クッキー・マジシャンズ】のメンバーは4人いるが、今回はリーダー以上の実力を持つ、ナンバーワンエースが抜けている。チャンスだ。


 左翼は、両手スナイパーライフル持ちの中量級「マスタースナイペル」

 俺と同じで、近距離から遠距離までを、スナイパーライフルオンリーで戦う猛者だ。


 右翼は重量級に両手シールドを持たせた、ガチガチのタンク「ガチガチ君」だ。

 攻撃は両肩のキャノン砲だけだが、これの扱いが抜群に上手く、かなりの脅威となる。


 そして中心にいるのが、リーダーの超軽量級「キルシュブリューテ」だ。

 武器は特大対艦刀のみ。まさに漢の中の漢と言える装備である。



「ひまり! 奴を懐に入れるなよ! 近づかれたら終わりだぞ!」

「おっけー!」


 右翼と左翼の援護を受けながら、リーダーが飛び込んできた。

 俺達は奴に攻撃を集中させようとするが、右翼のスナイパーが上手く牽制してくる。


「ああ、もう!」


 ひまりは先にスナイパーを片付けようと攻撃するが、タンクに防がれてしまう。

 そうこうしているうちに、リーダーが紬に肉薄した。


 ザンッ!


「ぴえん! 兄上えええええええええ!」


 ドッカーン! 紬機アシェンブレーデル大破。コックピットを真っ二つにされての即死だ。


「紬……お前の死は無駄にしない……」


 俺はリーダーと剣を切り結ぶ。

 1合! 2合! 剣の扱いだけなら互角だ。


 だが、右翼のスナイパーが邪魔をしてくるだろうから、このままでは負ける。


 3合! 4合! まだ互角の戦いが続く。

 んん? 敵スナイパーはどうした?



「そりゃそりゃそりゃそりゃ! お亡くなりになりやがりなさい!」


 見ると、ひまりが2体相手に善戦していた。

 上手くタンクを避けながら、スナイパーに肉薄している。


「いいぞひまり!」

「ひまりちゃんすごいです!」


 5合! 6合! リーダーと少し距離が離れた。

 その瞬間、俺は大口径スナイパーライフルを発射する。


 バズンッ!

 リーダーの右腕が吹き飛ぶ。これで奴は片手でしか剣を振れない。つまり斬撃

モーションが遅くなるということだ。ならば俺の敵ではない。


 7合目! ザンッ!

 俺はリーダーの両脚を切断した。


「っしゃあ!」


 俺は急いでその場を離れる。

 ああなったらもう戦えない。自爆スイッチを押すはずだ。


 俺は背部カメラで、リーダー機キルシュブリューテの爆発を確認しつつ、ひまりの援護へ向かう。

 ――が、タンクのキャノン砲がひまりに直撃した。


「きゃあああああああ! 瑠璃川ひまり、脱出するわ!」


 ひまりは透明プラ板を叩き割り、脱出スイッチを押した。

 カイザーシュニット(笑)から、コックピットカプセルが射出される。


 俺1人で2体相手か。きついな……だが、やってやるぜ!




 チーン。


「ちくしょう!」


 俺は負けた。特に見どころもなく普通に負けた。

 ガチガチ君を突破できないまま、マスタースナイペルにガリガリと装甲を削り取られていったのだ。


「あーあ、負けちゃったわ。でもこれハマるわね」

「ですよねー!」


 それは喜ばしい……いや、中間テスト前にやらせたのは、どう考えても失敗だったな。



 ガラッ!

 ドアが勢いよく開き、ほっぺたを膨らませた桜子先生が、冷蔵庫の前にやって来た。どうしたのだろうか?


 プシュッ。

 先生は、ストロンガーゼロをゴクゴクと一気飲みする。

 おいおい大丈夫かよ……また、ソファーで寝たりするなよ?



 その後酔っ払った先生は、ソファーに飛び込み「うえーん! 悔しいよう!」と足をバタバタさせていた。よく分からないが、本当可愛い人である。


ゲーマーの片鱗を見せるひまりと紫乃。

ちょくちょく出てくる【黒鉄の武士】ですが、この物語において、結構重要なものであったりします。



搭乗機


颯真機:プリヴィディエーニイ(幽霊)

    軽量級

    左腕:大口径スナイパーライフル 右腕:対艦刀


紬機:アシェンブレーデル(シンデレラ)

   中量級

   左腕:パイルバンカー 右腕:バトルライフル

   左肩:肩部シールド  右肩:収束レーザーカノン

   背部:フレア射出ユニット


紫乃機:リベルテ(自由)

    重量級

    左腕:大型重装甲シールド 右腕:重粒子砲

    腰部:機雷射出ユニット

    背部:ビット射出ユニット


ひまり機:カイザーシュニット(帝王切開)

     重量級

     左腕:ヘビーガトリングガン 右腕:ヘビーガトリングガン

     左肩:ミサイルポッド 右肩:ミサイルポッド

     背部:連動式ミサイルランチャー



リーダー機:キルシュブリューテ

      超軽量級

      右腕(両手持ち):特大対艦刀


左翼機:マスタースナイペル

    中量級

    左腕:スナイパーライフル 右腕:スナイパーライフル

    背部:フレア射出ユニット


右翼機:ガチガチ君

    重量級

    左腕:大型重装甲シールド 右腕:大型高出力エネルギーシ-ルド

    両肩:グレネードキャノン


エース機:?????

     軽量級

     左腕:ショットガン 右腕:ショットガン

     左肩:多連装ロケットランチャー 右肩:多連装ロケットランチャー


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― 新着の感想 ―
[一言] 帝王切開無駄にカッコいい呼び名ですねw 笑いが止まりませんでした(笑)
[一言] 女子の下ネタどぎつすぎ♪聞いてる男子は少し引き気味♪取り繕うのに必死すぎ♪イェア
[一言] 34話になってますよー。
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