第34話 地区予選
ゴールデンウイークの真っ只中、俺は陸上競技インターハイ、地区予選会場に来ていた。
観客席には、俺の家族や紫乃、ひまりの親友である北原、小松、それに図書委員の星までいる。
「颯真ー! 金メダルを取れー!」
「颯真ちゃーん! 日本代表としての誇りを見せてねー!」
父上と母上は、おそらくオリンピックと勘違いしておられる。多分選手に外国人がいるからだ。
「兄上ー! 紬に勝利を捧げてくださーい!」
「せんぱーい! 頑張ってー!」
「八神ー! 1位とれよ! 1位!」
「予選敗退したらシメるからな!」
「八神氏ー! ご武運をー! ソイソイソイヤッ!」
[1、「北原、お前のために1位をとってやる」1位をとる]
[2、「北原、1位とったら俺の女になれ」1位をとる]
北原の奴、余計なこと言いやがって……!
予選は上位入賞すれば通過できるので、無理に1位を狙う必要はない。
だがあいつの一言で、1位をとるしかなくなってしまった。
「北原、お前のために1位をとってやる」
「お、おう……え? 私のため? マジで……?」
動揺する北原と、目を尖らせた紫乃と紬を見ながら、スタートラインにつく。
『それでは男子1,500メートル、予選1組目を開始いたします』
会場に、競技開始を告げるアナウンスが鳴り響く。
選手数が多い競技は、何組かのグループに分かれ予選を戦う。1,500メートル走は全部で4組だ。
そこで勝ち抜いた者だけが、決勝へと進むことができる。
つまり地区予選を抜けるには、2回走らなくてはいけない。だるいことこの上なしだ。
「オン・ユア・マークス!」
号砲が鳴り、選手たちが一斉にスタートする。
決勝に体力を温存するため、予選では全力を出さない。
俺は先頭集団に加わりはするが、トップは走らないことにした。
「各校の代表相手に、俺なんかじゃ太刀打ちできないかと思っていたけど、そうでもないな……」
なんというか普通だ。木野村相手に走っているのと変わらない。
俺は適度に緊張感が抜け、いつもの走りを実践することができた。
そして俺の大好きなレース展開である、終盤での追い抜きを仕掛け、堂々の1位通過となる。
紫乃たちに手を振りながら、俺は休憩に入った。
「やったわね八神! はいドリンク!」
「さんきゅー、ひまり」
俺はひまり特製スポドリを受け取り、ゴクゴクと飲む。
「イチャつくなー、ひまりん!」
「抜け駆けするなっつーの!」
「うっさいわね! マネージャーとしての務めを果たしてるだけでしょうが!」
北原と小松のヤジに、ひまりは真っ赤な顔で言い返す。
「……あの子たち、アンタのこと気に入っちゃったみたい」
「え? マジ……?」
あのダブルビッチこと、北原と小松が俺を……?
「うん……嫌なことでも絶対に逃げなくて、男らしいって……」
いや……逃げないんじゃなくて、逃げられないだけなんだが……。
思わぬところで、俺の好感度が上がっていたようだ。まあ、嫌われるよりはいいだろう。
「……もしかして、紗耶香と玲奈のこと“あり”だなんて思ってないわよね?」
ひまりはジト目で俺を見てくる。
[1、「俺が愛しているのは、お前だけだ。ひまり」ひまりの髪を撫でる]
[2、「あの二人エロそうだなー! あー、パコりてえぜ!」腰を前後に振る]
[3、「お前に何て言ったのか、忘れたのか?」]
うーむ、3が一番マシだが、なんか変に思わせぶりなんだよなあ。
なんのことなのかも、はっきりしてないし。
「お前に何て言ったのか、忘れたのか?」
「え!? えっと、もちろん憶えてるわよ……! アタシ馬鹿じゃないもん……!」
俺はよく分かっていないが、ひまりには、なんなのかが分かっているようだ。ならいいか。
「まあ、そういうことだ」
「ふ、ふーん、そういうことねー! あー、暑い! なんだか暑くなってきたわー!」
赤い顔をしたひまりは、顔をパタパタと手で扇ぎながら、ぎこちない動きで他の部員のところへ行ってしまった。
数時間後、俺は1,500メートル男子決勝に参加し、1位で地区予選を通過する。
翌日には5,000メートルも1位で突破し、地区予選で2冠王となった。
その夜は再びお祝いである。
父上と母上はもちろん、北原や小松、星まで招いての大宴会だ。
俺が瑠璃川家のお世話になっていることを知られるのはマズいと思うのだが、ひまりがノリで連れてきてしまった。
「えー!? ひまりん、八神と一緒に暮らしてんのー!?」
「お前ら絶対パコってるっしょ!?」
「バカ! やってないわよ!」
ひまりが真っ赤な顔で怒っている。
小松の奴、先生や俺の両親の前で、よくそんなこと言えるな……。
「おい八神! 実際どうなんだコラ!」
[1、「ああ、毎晩俺の〇〇した〇〇〇を、ひまりの〇〇た〇〇〇〇に〇〇して、〇〇〇〇運動をしている」]
[2、「ああ、毎晩パコってる」]
おい! 悪ふざけが過ぎるぞ!
1は医学用語だが、逆に生々しさを感じさせる。ここはカジュアル感のある2で攻めるべきだろう。
「ああ、毎晩パコってる」
「でええ!?」
「ちょっ! 何言ってんのよ八神! ウソよ! ウソだからね!?」
ほれ見たことか。北原たちなんかを呼ぶから、こんな目に遭うのだ。
一同が固まっている中、笑っているのがこの2人。
「さすが颯真! たいしたスケコマシぶりだな! はっはっはっ!」
「本当、パパに似ていい男になったわねー! うふふふふ!」
「いや、褒めるとこじゃねーべ!」
「八神の親、やべーな……」
「ちょっと、やだやだ! 先輩にもひまりちゃんにも、そんな度胸はありません! これは冗談です! そうですよね!?」
紫乃が凄まじい剣幕で俺を問い詰める。こわっ!
「ああ、冗談だ」
「……ですよねー。マジキモいから、そういう冗談はやめてくださいね先輩?」
紫乃が通常状態に戻った。
「でもよー、一つ屋根の下で暮らしてたら、絶対なんかあるべ?」
「もしかして、先生と関係持ってたりすんじゃね? どうなんだよ八神?」
俺は先生をチラリと見る。
焦っているのか、狂ったような速度でフォークにパスタを絡めとっている。
おかげでフォークの先には、団子みたいな物体ができあがっていた。
[1、「ああ、大人のキスをしているし、ネットカフェで一緒に寝た仲だ」]
[2、「ああ、毎晩パコってる」]
1の方が度合いは小さいが、事実を口にしてしまうのはマズいだろう。
冗談ぽさのある2の方が、ダメージは小さい。
「ああ、毎晩パコってる」
「でええ!?」
「八神君! いい加減なこと言わないで! 警察のお世話になっちゃう!」
怒った先生が、ポコポコと俺を叩いてくる。――可愛い。
「先輩! だから、そういう冗談はマジキモいので、やめてください!」
「なんか、ひまりんの妹の態度怪しくね? 明らかヤキモチ妬いてんべ? もしかしてこいつか?」
「おい八神。お前、ひまりんの妹とできてんの?」
[1、「ああ、できてる。横浜でデートもしたしな」]
[2、「できてはいないが、横浜でデートはした」]
マジか……どちらにせよ、横浜のことは言わなくてはいけないのか。
まあ名目上は、練習台のデートだから言ってもいいのかな?
「できてはいないが、横浜でデートはした」
「ちょっと、先輩……!」
紫乃の慌て振りを、みんながじっと見ている。
「え? マジなワケ……?」
ひまりが紫乃に問い掛けてきた。
紫乃は前髪をいじり、モジモジとしてしまう。
「えっと、その……はい……」
何やってんだ、紫乃のやつ……否定すればいいじゃねえか。
俺と違って、強制選択肢なんてないんだから。
「えー!? マジでー!? まさかの妹ー!?」
「ぎゃはははは! ひまりん、妹に取られてやんの!」
北原と小松は、タンバリンを叩く猿のオモチャのように大笑いする。
「ちょっと嘘でしょ、紫乃!」
「紫乃、冗談はやめて。怒るよ?」
紫乃は何も言わず、恥ずかしそうに前髪をいじり続けている。
「ちょっとちょっと! いつ行ったのよ!?」
「こ、この話はもうやめませんか?」
「紫乃、ちょっと来て!」
「お、面白そうじゃん!」
「あーしらも行こーぜ」
紫乃は女達全員に、ひまりの部屋へと連れて行かれる。
あとには俺と父上、母上だけが残った。
「颯真、にぎやかで楽しいお友達がたくさんできて良かったな!」
「うふふ、颯真ちゃんはみんなの人気者なのね!」
俺の両親は幸せそうに笑った。
「お前に何て言ったのか、忘れたのか?」は、清掃活動の時に「お前のことを大事に思っている」と言ったことです。
颯真は呪いに言わされているだけなので、あまり印象に残っていません。




