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第25話 紫乃とデート(練習)

 ひまりが「脳が焼ける!」とわめきだし、勉強タイム終了となる。


「じゃあ行ってきまーす! 今日は夕飯いらないから!」


 ひまりが外に出たのを見届けると、俺は紬を呼んだ。


「兄上大佐、出撃でありますね!」

「うむ、いくぞ紬中佐!」


 俺と紬は【黒鉄の武士】をプレイするため、それぞれ席に座る。

 座間のオッサンには感謝である。まさか、もう1台プレゼントしてくれるとは思わなかった。


「八神紬、コックピットに着座! ジェネレーター起動します!」


 俺と紬はシートベルトを締めると、右斜め前にあるスイッチをONにした。



 この筐体は徹底的なリアル志向の造りとなっており、コックピットが完全に再現されている。

 操作も、ジョイスティックではなく、ロボットアニメに出てくるような、レバーやボタンでおこなう。熱いぜ!


 自爆スイッチや脱出スイッチなども搭載され、専用の透明プラスチック板(別売)を叩き割ってからではないと、押せない仕様となっている。

 振動やジェネレーター音も再現され、シートベルトをしないとプレイできない。熱すぎる!


 前面には6つのモニターがあり、前後左右上下すべての方向をモニターできる。

 ただしカメラを破壊されると、そのカメラから得られていた視野は失われる。

 そのため、カメラを狙い撃ちしたり、ジャミング(妨害電波を飛ばすこと)が有効だ。



「今日こそは勝つぞ!」

「はい! 先日の雪辱を晴らすです!」


 2日前、俺達兄妹と息臭太郎さん3名からなるチーム【ゴッド・エイト・ブレス】は、またもや世界ランク1位【クッキー・マジシャンズ】に敗北した。

 序盤はそれなりに競っていたが、中盤以降地力の差が出始め、結局ウチのチームは1機も撃墜出来ず全滅。惨敗である。



「ん? 俺のアカウントにメールが届いてるわ。ちょっと待ってろ紬」

「了解であります!」


 俺はタッチパネルを操作し、メールを開いた。



「……なんだと!? 息臭太郎さんが引退なされた……!」

「ぴえん! どうしましょう!? 至急、メンバーを募集しなくては!」


 そうなのだが、俺達と肩を並べられるエースパイロットは、そうそういない。これは参ったぞ……。


「兄上、掲示板に書き込みますか!?」


 うーむ、応募をただ待っているのはもどかしいな。


「……いや、優れた野良プレイヤーを探しに、直接戦場へと出向くぞ!」

「はっ!」


 ランキングやスコアだけでは、真の強さは分からない。直接手合わせするのが一番だ。


「装備の換装が終了次第、最前線へ向かう。輸送機を手配しろ」

「了解であります!」


 俺は、軽量高機動機体に、大口径スナイパーライフルと対艦刀のみというピーキーな装備から、中量機体に、バトルライフルと多連装ロケット、片手剣の標準的な装備へと切り替える。

 相手の力量を見極めるには、この装備の方が適しているのだ。



 そして発進準備が整った時、誰かに肩をつんつんと突かれた。


「――あ? なんだよ紫乃?」

「今暇ですよね? ちょっと私に付き合ってもらえませんか?」


 こいつは目が腐っているのだろうか? 俺の一体どこが暇そうに見えるのだ。


「これから死地へとおもむく戦士に対し、なにをほざくか!」

「ちょっと、やだやだ! 何それ、マジでキモいです! ……あの、これから私とギャラクシーワールドに行きましょう」


 は? ギャラクシーワールド? 確か横浜にある遊園地だよな?

 そんな人がウジャウジャいるようなとこ、誰が行くか――



[1、紫乃とギャラクシーワールドに行く]

[2、昨晩桜子と何をしたのかを、二人に紙芝居で見せる]



「紫乃嬢! 兄上は紬と遊んでいるのです! 分かったら、とっととどこかへ――」

「分かった。行こう」


「ぴえん!? ひどいです兄上!」

「え、あ、本当にいいんですか?」

「ああ、構わん。……紬、これで好きなもの買ってきていいぞ」


 面倒なことになりそうなので、紬に千円を握らせる。


「やったです! ありがたき幸せ!」


 紬は大喜びで外に飛び出していった。



「しかし、話がよく分からないな。なぜ俺とお前で遊園地に行く必要がある?」

「えっと、それはですね……デートの練習をしておきたいんです」


 ああ……なんとなく分かってきたぞ。


「一条とのデートの前に、予行練習をしておきたいということか?」

「正解です! さすがは先輩! マジキモい洞察力です!」


 最悪だ。そんなことのために、時間を無駄にしなくてはいけないのか。

 俺はため息をついて、立ち上がる。


「……じゃあ準備してくるから待っててくれ」

「はい!」


 紫乃は「うふっ」と笑う。


 こうして俺は、紫乃と一緒に電車に乗って、横浜へと向かった。





 俺は今、無表情でメリーゴーランドに乗っている。

 凄まじい虚無を感じているからだ。


「あの、先輩……もっと楽しそうにしてもらえないですか……?」

「練習台にされていると知りながら、無償で笑顔を振りまけるようなできた人間性を、俺は持ち合わせて――」



[1、紫乃に笑顔を見せる]

[2、昨晩桜子と何をしたのかを、指人形劇で見せる]



 俺は作り笑顔を紫乃に見せた。


「うふふ! 笑顔、キモッ!」

「……なあ、本当に俺で練習になるのか? もっと一条に近いタイプの方がいいと思うんだが?」


「先輩相手なら、どんなに失敗しても罪悪感が湧かないですから」

「なるほど、納得したわ……」


 ロマンチックな気持ちゼロのまま、メリーゴーランドが終了となる。



「先輩、次はあれに乗りましょう!」

「げっ……マジかよ……」


 紫乃が指差した方向にあるのは、ジェットコースター。

 俺はあの手のものがダメだ。


 浦安黒ネズミランドに、【南アフリカの海賊】というチョットだけ滝から落ちるアトラクションがあるのだが、俺はそのレベルで泣いている。

 とてもじゃないが、あんなものは耐えられない。



[1、ジェットコースターに乗る]

[2、昨晩桜子と何をしたのかを、落語っぽく演じる]



「ぐうう……! 1回だけだからな……!」

「うふふっ! じゃあ行きますよ!」




 ジェットコースターがガシャガシャと音を鳴らしながら、昇っていく。


「南無阿弥陀仏……! 南無阿弥陀仏……! 南無阿弥陀仏……!」

「あははは! ちょっと、やだやだ! 念仏って! キモすぎます先輩!」


 紫乃に大笑いされているが、そんなことを気にしている余裕はない。

 俺は恐怖に打ち勝つため、心を無にしなくてはならないのだ。



 車体が頂点に達した。地獄の始まりである。


「南無阿弥陀仏うううううううううぅぅぅぅぅぅ!」

「あっははは! きゃあー! マジキモーい!」


 目を瞑り、腹にGを感じながら念仏を唱えること85回。ようやく地獄から解放された。無事に生きて戻れたことに涙が出そうになる。



 精根尽き果てた俺は、ベンチに真っ白になって座っていた。


「はい先輩、ソフトクリームです。チョコとバニラ、どっちがいいですか?」

「おー、さんきゅー。じゃあバニラ」


 紫乃が俺に気を利かせてくれたことに、軽く感動をおぼえながら、ソフトクリームをペロペロする。


「いやー、1年分は笑いました。先輩、本当キモすぎます」


 紫乃はニコニコしながら、ソフトクリームを丹念に下から舐め上げる。


「なんとでも言え。念仏を唱えていなければ、今頃俺のパンツとズボンはビチョビチョだからな?」

「偉そうに言うことじゃないです。――私にもバニラ食べさせてください」


「お、おう」


 紫乃は俺のバニラソフトをカプッとした。

 こいつ散々、俺のことをキモいキモいと連呼しているが、俺と間接キスすることに抵抗はないのか?

 ……いや、そうか。そもそも間接キスという概念がないのかもしれないな。図々しいタイプの人間は、そういったことを気にしないだろうから。


「先輩もチョコ食べますか?」



[1、「ああ、もらうよ」]

[2、「チョコよりも、紫乃ちゃんを食べちゃいたいなぁ(ニチャァ)」]



 久々、キモい選択肢が来やがった。

 2を選べば、この偽デートを終わらせられそうな気もするが、いくらなんでも代償が大きすぎるな。


「ああ、もらうよ」


 俺は紫乃のチョコソフトを一口いただいた。


「うふっ、間接キスですね」


 なんだ、分かっていたのか。ということは、本当はキモがられていないのだろうか? いや、さすがにそれは楽観的過ぎか?


「俺は大人だからな。別にどうってことない」


 嘘である。かなり意識している。

 紫乃は俺の目をのぞき込んできた。


「……もしかして先輩、大人のキスしたことあるんですか?」

「お、おう。まあな」


 俺は昨晩の先生とのキスを思い出す。

 たとえ認知症になっても、あの夜のことだけは忘れないだろう。


「あははは! ウッソだあ!」



[1、「うっそうっそピョンピョン! うっそピョンピョン!」とんでもないアホヅラで、うさぎっぽくピョンピョン跳ねる]

[2、「嘘じゃねえ。先生としたったわ」舌をベロベロさせる]



「うっそうっそピョンピョン! うっそピョンピョン!」


 俺は両手のひらを頭に乗せ、ウサギの耳をつくると、アホヅラでピョンピョンと飛んだ。


「あははははー! ちょーキモいし、ちょーつまんない!」


 ううう……恥ずかしい。死にたい。


「頼むから、変な質問しないでくれな?」

「うふふ、ごめんなさーい。じゃあお詫びに、次のアトラクションは先輩が決めていいですよ?」


「お、言ったな? じゃあ、あれにするぞ」


 人の少ないところがいい。俺はお化け屋敷を指差す。



「――え? あれ……ですか?」


 紫乃の顔が引きつった。


颯真が南アフリカの海賊で泣いたというエピソードですが、これは作者の実体験が元になっています。

私はカ〇ブの海賊の船に乗った後に、両親に滝から落ちると聞かされ泣きそうになりました。

何とかこらえていたのですが、滝から落ちる直前に扉の上の方にある骸骨が何か怖い事を言ってきたので、耐えきれなくなってしまい泣いてしまいました。苦い思い出です。

それ以来一度もカリ〇の海賊には乗っていません。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 紫乃のキャラも展開もまんまいろはすなのな。
[良い点] 選択肢のセンスが毎度おもろいです。 [一言] 落語は草
[一言] タイトル長すぎて初見なら間違いなく見なかった
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