第22話 お祝い
その日の夕食はとても豪華だった。
紫乃と紬が腕をふるい、ごちそうを作ってくれたのだ。
ノンアルコールのシャンパンも用意され、俺の代表選手入りを祝う会が始まった。
「いやー、我が息子は本当に立派な男でしてな」
「そうなんです! 颯真ちゃんは、世界一の頑張り屋さんですからね!」
「はい! 世界中の女が、兄上の精子を受精したがっているのです!」
「はっはっは! やめてくださいよ父上、母上! 紬!」
お祝いには、父上と母上も招かれた。瑠璃川三姉妹に感謝である。
「頑張り……屋……? 精……子……?」
「あは……あははは……」
「うふふ、先輩のご家族って本当素敵ですね! 羨ましいです!」
先生とひまりの表情は微妙だ。紫乃は嬉しそうに微笑んでいるが。
「そうだ颯真! お前にプレゼントを持ってきたんだ!」
「おお、それはそれは! 感謝します父上!」
父上は鞄の中からなにかを取り出し、ダイニングテーブルの上に置いた。
70は過ぎたジジイのフィギュアだ。一体誰だろう? 映画の登場人物だろうか?
「父上、これは誰ですか?」
「これは父さんと同じマンションに勤める、清掃員の森田さんのフィギュアだ。父さんが作ったんだぞ?」
「それはすごい! 見事な造形美と、漂う哀愁に心を奪われます!」
「はっはっはっ! そうだろう、そうだろう!」
「良かったわね颯真ちゃん! ちなみに、ママからもプレゼントがあるのよ?」
ほう! それは楽しみだ!
「――はい、これ」
母上はテーブルの上に、ことりと石を置いた。
普通の石に見えるが、なにか特別な石なのだろうか?
「もしかして、パワーストーンとかいうやつでしょうか?」
「ううん、違うわ。マンションの中庭に良い感じの石が落ちていたから、拾って油性ペンで顔を書いてみたの」
俺は石を裏返す。
なるほど。ニコニコ顔が描かれている! なんと可愛らしいことか!
「見ていると心が癒されます! ありがたく頂戴いたします母上!」
「うふふ、喜んでくれてよかったわ」
母上が可愛らしい笑顔を見せる。
ふと俺は、三姉妹を見た。
全員、憐れむような眼で俺を見ている。なぜだ?
「それにしても、瑠璃川さんのお嬢様方はみんな可愛らしいですね、パパ?」
「ああ、ぜひ颯真のお嫁さんに来ていただきたいものだ」
2人はアルコール入りのシャンパンが入ったグラスを片手に、三姉妹を眺めながらうんうんうなずく。
父上、母上、あんまり下手なこと言うと、追い出されるのでおやめください。
「それは難しいかと父上、母上! どなたも兄上の好みから、かけ離れておりますです!」
「そうなんですか妹ちゃん? 先輩の好みってどんな感じです?」
先生とひまりの手が止まった。
おい、なに真剣に聞こうとしてんだよ。
「紬、言わなくていいからな?」
「兄上の好みは、黒髪ロング、お料理上手の家事上手、ゲーマー、貧乳、処女、そして兄想い! つまり紬のことであります!」
「はあ? なに言ってのよコイツ」
「うふふ、妹ちゃんは面白いですね」
「実際はどうなの、八神君?」
[1、「黒髪ボブの低身長巨乳ダメ女です!」]
[2、「金髪ツインテのお馬鹿ギャルです!」]
[3、「茶髪ショートのひねくれ者です!」]
[4、「紬の言うとおりです!」]
[5、「ハゲ散らかした、キモいデブのオッサンです!」]
これはまいったな……。
1から3は面倒なことになりそうだし、それ以外はシスコンか、かなり趣味の悪いゲイ認定される。家族会議は避けられないだろう。
だが、ここは……。
「紬のいうとおりです!」
「えっへん! ほら、紬の言ったとおりであります!」
「え? 妹が好きって訳じゃなくて、好きなタイプがそれってことよね?」
ナイスひまり! そう来ることを期待していた。
[1、「当然だ。こんなちんちくりんを、女として意識する訳なかろう。これならまだ、木のウロの方がエロい」]
[2、「いや、俺は紬を性的な目で見ている」]
「当然だ。こんなちんちくりんを、女として意識する訳なかろう。これならまだ、木のウロの方がエロい」
「ぴえん! あんまりでございまする兄上!」
三姉妹がほっと息を吐く。
セーフ。これでシスコン認定は防げた。
「黒髪ロング……? お料理上手の家事上手……?」
ひまりが自分の金髪を触りながら、ブツブツつぶやいている。
その後も、俺達は楽しく飲み食いしながら楽しんだ。
家族以外とパーティーなど、初めてのことだったが悪くないな。
俺と紬は、父上と母上を下まで送ってから、部屋へと戻る。
ひまりと紫乃が片付けを始めていた。
桜子先生はソファーの上でぐうぐう寝ている。先生と俺の両親は、アルコール入りのシャンパンを飲んだので、酔ってしまっているのだ。
「ひまりが片付けをしているなんて珍しい――ってか、初めて見たな」
「う、うん! アタシももう2年だし、ちゃんと家事もできないとね!」
紬を見習いだしたのか? 感心感心。
うんうんとうなずいていると、紫乃がつんつんと俺をつついてきた。
「先輩、明日は祭日ですけど、何か予定ってあります?」
「ん? 明日か? 昼過ぎまで、ひまりの授業がある」
本当は丸一日おこなうつもりだったのだが、ひまりが「そんなに勉強したら、脳が破裂しちゃう!」とほざき、昼過ぎまでとなったのだ。
北原達と遊びに行くらしい。試験まであと3週間ほどしかないというのに、まったく! ぷんぷん!
「じゃあその後は特に?」
「いや、ゲームやるが?」
「フリーということですね。分かりました」
こいつ耳が聞こえないのか? ゲームをやると言ったのだが? 全然フリーではないのだが?
後片付けを終えたひまりたちは、部屋へと戻っていく。
「あ、紫乃。先生を放置したままでいいのか?」
「はい、よくあることなので放っておいて大丈夫です」
紫乃はまったく気にする様子もなく、部屋に入ってしまった。
母上から石ころを贈られたシーンは、作者の実体験が元になっています。
私は、誕生日にグラサンが描かれた良い感じの石を貰ったことがあるのです。
経験をうまく作品に活かせました。
次話は、颯真が一気に大人の階段を上ります。
 




