第13話 馬鹿
ひまりが真面目に授業を受ける気になったので、俺はまず小テストをおこなうことにした。理由はもちろん、得意不得意科目を調べるためである。
去年の成績表を見れば、ある程度分かるのだが、特にどのあたりが苦手なのかを把握しておきたかった。
そして小テストが終わり、採点が終わった翌日の日曜日。
「予想どおり数学が一番ひどかった。どこが苦手とか、そういうレベルじゃない。すべて、まんべんなく駄目だ」
「うっさいわよ! 数字見てると頭痛くなるんだから、しょうがないじゃない!」
現時点でのひまりの数学力は、中2の紬に余裕で劣る。
まずは、中学レベルの学力を養う必要があるだろう。
だが、中間テストまで、あまり時間がないのだ。
もっともコスパの良い時間の使い方をしなくてはいけない。
成果が出るまでに時間がかかる数学は捨て、比較的簡単に赤点を回避できそうな科目に注力すべきだろう。
なにせ、去年より赤点を減らさないと、クビになってしまうのだ。
父上が仕事を見つけたとはいえ、収入は大きく減少したし、何より家を失ってしまった。
ここは、何が何でもこのバイトを続けなくてはいけない。
「ひまり。今回は数学を捨てよう。中間テストには間に合わない」
「本当!? やったわ! 数学大嫌いだから、ちょーうれしー!」
俺は笑いながらうなずき、日本史の講義を始める。
基本的に、歴史の授業はつまらない。
起こった出来事を年表に羅列しているだけのものに、興味が持てる訳ないのだ。
教え方が上手い先生は、初手でいいフックを打ってくる。
テストには出ない事柄ではあるのだが、インパクトのある話で、生徒の注目を引き付けるのだ。当然俺もそれに倣う。
「織田信長、武田信玄、徳川家康、松尾芭蕉、空海……ここに様々な有名歴史人物が書いてある。この中から男色家を選べ」
「え!? BL!? えーっと誰かしら? うーん……髭がゲイっぽいから武田信玄!」
「正解は全員!」
「えーっ!?」
よし! ひまりの心をバッチリつかんだ。
彼女が関心を寄せそうな話から、次第にテストに出題される内容へとシフトしていく。ひまりは最後まで、ちゃんと集中して聞いていた。
そして世界史に移り、古代ギリシャのパンクラチオン(格闘技)について話をしていた時だ。
「ねー、八神。なんでアンタ、ボクシング習い始めたの?」
呪いのせいだとは言えない。さて、何と説明すべきか……?
俺が悩んでいると、選択肢が出てきてしまった。
[1、「己の弱さを克服するためだ」]
[2、「合法的に人を殴れるから」]
[3、「女にモテるから」]
良かった。良心的な選択肢だ。
俺に合っているのは……まあ、1かな。
「己の弱さを克服するためだ」
「……アンタ凄いわね。普通、そういうことって恥ずかしいから誤魔化さない?」
「だろうな。何というか……俺は、それができないんだ」
「変な奴……でも……ちょっと、カッコいいかも……」
ひまりがボソッと小声でつぶやく。
「――お?」
「違う! 違うの! 別にアンタがイケてるとかじゃなくって、その、何というか、心意気? みたいなやつが……!」
ひまりが真っ赤な顔であたふたする。――ふふっ、ちょっと可愛いじゃねえか。
しかし、母上と紬以外からカッコいいと言われたのは初めて……いや、紫乃からも言われたか。まあすぐにジジイと同枠と言われたが。
「あ、あのね……」
ひまりは左右の人差し指をつんつんする。
「やっぱりアタシも、苦手なことを克服しようかなって……」
「ほう……」
「だから……その……数学教えて!」
マジか……?
ひまりに本格的に数学を教えるには、中学レベルからやり直す必要がある。
今すぐ始めたとしても、中間テストの結果にはまったく結びつかないだろう。
だが、その気持ちは尊重してあげたい。
「分かった。じゃあ中学の時の教科書を持ってきてくれ」
「うん!」
ひまりは笑顔で部屋に駆け込んでいった。――のぞかせた八重歯が可愛い。
「――いいんですか? 中間に間に合わないと思いますけど?」
ジト目の紫乃が声を掛けてきた。
理由は謎だが、こいつは本を読みながら、ずっと俺達の様子を観察していたのだ。
「本人がそう望んだんだ。仕方ないさ」
「でも成果出せなきゃ、クビになっちゃいますよ?」
紫乃は、そのことを知っていたんだな。
じゃあ知らないのは、ひまりだけか。
「心配するな。何とかしてみせる」
「ちょっと、やだやだ! 誤解しないでください! マジキモいです! 確かに先輩んちの経済状況は気になっていますが、そんなつもりはまったくないんで、本当ごめんなさい!」
紫乃は頭を深く下げる。
よく分からんやっちゃな……一応心配してくれてるってことでいいんだよな?
「と言うか先輩、ひまりちゃんのこと、狙ってますよね……? ちょっと親身になりすぎですもん」
クソッ! そういう質問はやめてくれ! ――ほーら、来ちゃったよ!
[1、「ああ、ひまりの処女膜は予約済みだ」]
[2、「狙うも何も、ひまりはすでに俺の子を宿している」]
[3、「初めは嫌いだったが、あいつの笑顔にだんだんと惹かれてしまってな……」]
うっわ、最悪! 1、2は問題外として、3もかなり厳しい。なんかすごく本気っぽいんだもん。でも、これしかないよなあ……。
「初めは嫌いだったが、あいつの笑顔にだんだんと惹かれてしまってな……」
バンッ! 紫乃は本をテーブルに叩きつけた。
「なにそれ、マジキモいです! 馬鹿みたい!」
紫乃はブリブリと怒りながら、自分の部屋に行ってしまった。
相当俺がキモかったようだ。我ながらあっぱれである。
八神兄弟と瑠璃川三姉妹の秘密② バスト編
紬 :Aカップ
桜子 :Eカップ
ひまり:Cカップ
紫乃 :Dカップ




