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霧開けて、明暗  作者: 小島秋人
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一人目の少女


  一人目の少女


 先に「○人目」カウントについて誤解が生じないように説明を挟んでおきたい。近年滅多に心ときめく事も無い枯れ柳にもかつて恋多き時代が確かに有り、その何れにも間違いなく深い感慨を持っている自覚が在る。幼稚園の初恋から一夏のアバンチュール、ビジネスライクな彼や是やは挙げればキリが無いでもない。とは言え、飽く迄交接を持った相手に限って話は進めたい。其れが無かった相手に向ける感情湧く感慨が存ざないとは虚勢にも言えはしないが、そう言った類の物は開け広げる気分にならない。書き進める内に心変わりが有れば、別の表記を用いて如何にか対応する心算ではある。


 先述のコミューンには女性の参加者も半数弱は在籍していた。若気の到り気の迷いと揶揄一蹴される境遇は男性の其れより風当たりが強かった当時である。十代であれば尚更の事コミューンと言う身の置き場、否定されない環境は誰にとっても座りが良かったに違いない。


 年にして同級のその少女もそんな一人だった。公言は出来ない、相談できる相手も居ないと度々嘆いてはコミューンのメンバーに同調を得て少しばかり気を持ち直して帰っていく。普段の生活に言及した事こそ覚えが無いが、話したい何かが其処に無かったのだろう事も当時は見当が付いていた。


 腹中の鬱憤を吐露する場と割り切っていたのか、積極的に出会いを求める様な姿勢が無かった事が印象に残って居る。コミューンの女性陣と楽しげに戯れてこそ居たものの、其処で決まった相手をパートナーに選んだと言う話も終ぞ耳に入っては来なかった。


 自身の不満に続いて良く発していたのは、「男性はどうなのだ」と言う疑問だった。年嵩の男共の節操無しは知り尽くしていたらしく、相談役に適任と見られた同い年の私は度々終わりの見えない質問攻めに付き合わされていた。厳密には両性愛だと主張を返したのだが、当時女性との経験が無かった私のそんな否定を取り合って貰えた記憶も無い。


 私自身のスタンスについて言及すれば、大仰な事は無い。「生活に支障の無い程度に公言」、此れに尽きている。肉親にもそれとなくはカムアウトが済んで居る為孫やら甥姪やらが出来るかは五分五分に見てくれていれば御の字、友人では知らない人間の方が少ない。恵まれた環境なのか誰からも無関心なのかは知れた物でないが。


 斯様な在り様が少女の目に如何様に映ったかは定かでないが、どうも身の丈以上に大きな存在に見られていた様に思えた。憧憬羨望その他如何いった感情で私を括って居たのか、女性陣との交流よりも私の後を付いて回る時間が徐々に増えていた事に自覚が有ったのだろうか。居心地の良い場所に渇望が有ったのだろう事だけは間違い無いと踏んではいるが。


 最初の一回には難儀した、何より未経験者同士だ。私にとってみれば気分的な苦労は無かったにせよ、物理的な勝手の違いは少なからず有った。其れでも拙いながら主導を持った私に対する少女の高揚度合いは知れた物でない。今にしても知りたくもない。


 後を付いて回ると言う行動が歯止めを失って、周囲を巻き込んだストーキングに変貌するまで長い時間は掛からなかった。私の受け身姿勢同様、少女にも倒錯した素養が有ったと言う事なのだろう。話し合いに光物を呑んで臨む姿勢まで素養と纏めて良い物かは疑問だが、幾らかの切り傷と引き換えにコミューン迄追われる顛末は今も恨む気になれない。美人だったからな。


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