【短編】国外追放された宮廷調教師、隣国で拾われ重宝される~今更戻ってこいと言われても、もう遅い~
吾輩はアハルト・ソーンウッド。グランファーム王国の公爵である。
宰相を務める賢人にして、国王陛下であるビッグマーシュ・エア・グランファームの友でもある。
「さて、アハルト。次の面会の予定は?」
「ライトハンズ侯爵ですな。財務卿として、かの宮廷調教師について陳情があるとのことです」
「む?宮廷調教師か。確かあの者は歴代で仕えていたのではなかったか?」
「確か三代に渡って仕えておりますな。ただ、爵位を持ってはおりますが、平民上がりのようなものですな」
「ふむ。平民上がり……凡愚か」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうこう話しているうちに、ライトハンズ侯爵の面会時間となったのである。
さて、吾輩の名声を高められるような内容であればよいが。
「財務卿キキール・ライトハンズ侯爵ただいま参りました!」
「さて、かの宮廷調教師についての陳情と聞いておるが?」
「説明させていただきます。かの宮廷調教師ですが、現在年間200金貨もの給金を支払っております。しかし、宮廷調教師とは言いますが、実際はただの飼育係です。本来であれば年間3金貨もあれば良いほうでしょう」
「む?なんだと!?いや…本当にただの飼育係と同等なのか?」
なるほど、給金を不正に受け取る愚図であるか。
処刑にすべきか?いや、あの者は確か爵位の高い者と親しいという話があったな。
他の貴族からの反発を考えると、表向きは国外追放として、後に暗殺者を差し向ける形がよいか。
「はい、残念ながら。普段の仕事ぶりは他の飼育係と同じ。いえ、必要以上の世話をしようとするため、他の飼育係以下と報告を受けております」
「む。そのような愚図にはそもそも給金などもったいないな」
「その通りでございます。過去に不正に受け取った給金のことも言及して処刑にすべきかと存じあげます」
「よかろう、ではそのように…」
おや、この流れは問題であるな。我が友は浅慮な部分が多い…賢人として流れを正さねば。
「ビッグマーシュ陛下、発言をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「よかろう、話せ」
「かの宮廷調教師を処刑とした場合、他の有力貴族からの反発が予想されます。表向きは国外追放として、後に暗殺すべきかと」
「む、なるほど。では、そのように手配せよ。」
「はっ!承知しました!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さて、手配は整った。協力者の貴族を集め、かの調教師を呼び出した。
後は我が友が宣告するだけである。
「アーク・ベルフォース! そなたは調教師としてその能力を偽り、我が国に損害を与えた! よって、爵位を剥奪し国外追放とする!」
「え……?」
おや、どうも現実が受け入れなれないようであるな。
吾輩が平民上がりにも分かる形で伝えるべきであるか?
「聞こえなかったかね?アーク君、無能の飼育係は追放だと宣告されたのである」
「えっと…?良いんですか?」
「は?」
これだから平民上がりの凡愚は。礼儀知らずの発言しかできないのであるな。
おや、今度は財務卿が発言しそうであるな。
「宮廷調教師などと言えば聞こえは良いが、実際のところ君は無駄飯喰らいそのものであろう」
「全くだ」
「そもそも、ただの馬係に名誉ある爵位などもったいない……」
周囲の貴族たちも追従するように発言をする。
「あの。僕は代々受け継がれてきた竜や馬などの調教を行っています。僕が追放されれば、竜は暴れだし、馬なども言うことを聞かなると思いますが?」
「そなたの仕事は平民の飼育係以下である事はすでに報告を受けている。無駄な弁解は慎むがよい」
ふむ?あの無能は財務卿が調べを行わずに王に具申するとでも思っているのであるか?
そのような調べは既に済んでいるのである。
「えっと……。はい、分かりました……」
ははは。無能がうなだれておるな。
この後さらに悲惨な目に遭うと思うと笑いが止まらんな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
先日はライトハンズ侯爵と共に、我が友が開催した祝賀の席に招かれた。
非常に有意義な時間だったのである。
翌日には侯爵から子飼いの刺客が放たれており、そろそろ来るであろう結果報告が楽しみである。
「は?ライトハンズ侯爵、今なんと申された?」
「……放った子飼いの暗殺者がすべて撃退されました」
「ふむ。それで?次の手は打っているのであろうな?」
「はっ!現在、闇組織『闇の梟』に依頼をしております」
『闇の梟』か、確か誰の子飼いにもならず、超高額の依頼料を要求する暗殺者集団であるな。
依頼そのものにも危険性があると聞くが…?ふむ、最悪はライトハンズ侯爵を切り捨てればよいのである。
「よかろう。ただし、この件は王に報告させてもらう。もし失敗すれば次はないものと思え」
「……承知しました」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『闇の梟』への依頼の結果の報告が待ち遠しい近頃である。
さて、次の面会の予定は、ブレイブ王子とハートフル王女の両名か。
公式の面会とは珍しい。それもライトハンズ侯爵も呼び出した上での面会とは、何を考えているのであろうか?
ん?衛兵が慌てて入ってきた?緊急報告であるか?
「陛下、緊急の報告がございます!」
「面を上げよ。何の報告だ?」
「はっ!…竜と馬が逃げ出しました」
「む!?何故そうなった?」
「飼育係が竜に餌を与えようとしていたところ、そのまま暴れだし竜舎を破壊して飛び出していったとのことです。また、その余波で馬舎も破壊されて、おびえた馬も逃げ出したとのことです」
くそっ!何故である。まさか!あの調教師は無能でなかったのか?
あの無能侯爵め。何が他の飼育係と同じだ!吾輩を謀りおって。
「ふんっ!だから言っただろうが。いち早く、あの宮廷調教師に謝罪して呼び戻せばよかったんだよ」
「お兄様。置いていかないで下さいませ!」
「む、ブレイブか!それにハートフルも」
おや、ブレイブ王子たちか?まだ面会の時間より少し早いのであるが、まあよい。
ん?今の発言からすると私的には伝えていたということか?
くそ!愚王め。賢人たる吾輩に何も伝えていないとはどういうことであるか。
「キキール・ライトハンズ侯爵ただいま参りました。おや、これはどういう状況でしょうか?」
時間通りに無能侯爵がやってきたのであるな。
「緊急報告があったんだよ。無能な侯爵たちが調教師を追放したせいで、竜も馬も飛び出したってな」
「なっ!?」
その通りである。ライトハンズ侯爵が余計な進言をしなければ、愚王がそれを真に受けなければよかったのである。
「むむ。ソーンウッド公爵、ライトハンズ侯爵!ただちにあの調教師を呼び戻せ」
「はっ!」
愚王め…。仕方ない、命令書を送る準備をするのである。
「…ふんっ!」
それにしても、あの王子の態度少し気になるのであるな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
先日送った使者が返ってきたのである。おや、調教師の姿が見えないようであるが?
「む。調教師の姿がないようだが?どうした?」
「はっ!返事の手紙を預かっております」
「む?…よかろう、読み上げてみせよ」
少し嫌な予感がするのである。
「はっ! 『僕はグランファーム王国に戻りません。もうネクト王国の宮廷調教師として働いています。それに、二度も暗殺者を放ってくるような国は信用できません』…とのことです」
ネクト王国め…手を回すのが早いのである。
おや?二度も暗殺者を放った?まさか、ライトハンズ侯爵は『闇の梟』への依頼を取り下げるのを忘れていたのであるか?
それに、あの調教師は『闇の梟』ですら撃退したといういうのであるか?
「む?なんだと!?」
「ふんっ!愚王にはお似合いの返事だな」
「父上。あのお方を暗殺しようとまでしていたのですね…。幻滅しました」
「ブレイブ!ハートフル!何ということを言う!?待て、どこに行く?」
王子たちが愚王を責める台詞を言って、そのまま玉座の間から出ていくのである。
王子たちは吾輩たちに協力的ではないので、とりあえずは後にして対策を立てるべきであるな。
「ビッグマーシュ陛下!ここは先に対策を考えるべきかと存じます」
「む?……あい、分かった。ソーンウッド公爵、ライトハンズ侯爵、我に知恵を貸せ」
「はっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これより、グランファーム王国を窮地に陥れた愚か者達の公開処刑を行う!前国王ビッグマーシュ・エア・グランファーム、元公爵アハルト・ソーンウッド、元侯爵キキール・ライトハンズ。この三名は歴代に渡って宮廷に仕えてきた優秀な臣下を目先の利益のために追放し、国を窮地に陥れた。よって斬首刑に処す!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
くそ!偽善王子が反逆して王位を簒奪したのである。
何故私がこんな目に合わないといけないのであるか?
命令に従わない調教師を罰するべきなのである!
あ!痛っ!平民ごときが吾輩に石をぶつけてきたのである。
あっ!頭から血が流れているのである。あの平民共許すまじ。
ん?そういえば、どこかでこのような展開を聞いたのである。
小説家になれる?あれ、何だこの記憶は?前世…?
はっ!この展開は俺が前世で書いた小説にそっくりじゃないか?
なんで、よりによって、このタイミングで前世の記憶を思い出す!?
なんで、作者の俺がざまぁされる側なんだよ!
普通、作者を転生させるなら主人公側だろうが!?
「前国王ビッグマーシュよ、最後に言い残す事はあるか?処刑人よ、しばし猿轡をはずしてやれ」
「はっ!」
ん?声が出せないと思ったら猿轡をされているのか?
くそっ!このままじゃ殺されてしまう!国王なんとかしてくれ!
「俺はビッグマーシュなんて名前じゃない!名前は思い出せないけど、転生者だ!この世界は俺の小説の世界だ!俺を処刑するとお前たちも死ぬことになるぞ!」
え!?いやいや、俺の小説だろうが?
あれ?転生者?もしかして、俺の小説をパクったやつなのか?
ん?よく見ると侯爵が目を見開いて驚いている?まさか、あいつも俺の小説をパクったやつなのか?
「…」
あ!王子の表情がなくなっている。
ちょっとお前何言ってるんだよ?状況考えろよ?
さっさと訂正しろよ…って、あ!もう猿轡付けられてる。
「どうやら、悪魔付きのようだな。他の二名も同様か」
え?悪魔付き?何か雲行きが怪しくないか?
「皆の者!たった今、この者達は悪魔付きであることが証明された。よって斬首刑ではなく魂滅の儀に処す。ただちに、準備をせよ!」
「はっ!」
コンメツの儀?あ、なんか宰相の記憶を引き継いでるな。
は!?聖なる炎で悪しき魂を滅ぼすだと?
ちょっと待て!もしかして、このままだと次の転生すらできなくなるんじゃないのか?
ちょっとお前何余計なこと言ってるんだよ!こっちまで巻き添え食らってるだろうが!
「むーっ!!むーっ!!むーっ!!」
お前何分かりやすい反応してるんだよ!
周りのやつらが確信持った目で見てるじゃないか!
「陛下、聖炎をお持ちしました!」
「ご苦労。それでは、儀式に取り掛かれ!」
あ!もう準備ができた?やばい!やばい!やばい!
「むーーーっ!!」
「あ゛ーーーっ!」
「ふぶ゛ーーーっ!!」
熱い!熱い!熱い!熱い!
このままじゃ、魂ごと燃やし尽くさてしまう!
どうにかしないと!そうだ!前世の記憶と合わせればきっと何かできるはずだ!
く…そ、考える時間が足りない。
意識が…朦朧としてきた…。
もし、前世であんな小説書かなければ今頃助か…………。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある神界にて、一人の若い天使がその長である女神に駆け寄っていく。
「女神さま~!大変です!ほとんど燃え尽きてボロボロになった魂が送られてきました。こんなの先輩でも浄化できませんよ~!」
「あらあら、少し貸してみなさい。ほら、こうやってボロボロになったところを削り取った後に浄化してあげれば」
「あっ、すごい!普通の浄化よりも小さくなっちゃいましたけど、ちゃんと輝きを取り戻してます~」
「ええ。こんなに小さくなってもまた何千年かすれば元の大きさに戻るから安心しなさい」
「は~い!ありがとうございます!ん~?この大きさでも蟻さんくらいなら転生させられるかな~♪」
「それにしても、魂が燃え尽きているだなんて…どこの世界から送られてきたのかしら?」
「あ!え~と?『宮廷追放者戻ラズ』という名前の世界で、管理している神は話説神様のようです」
「話説神…仮初の物語世界か。まったく、私の可愛い天使に苦労をかけさせるなんて、後で文句を言っておかないといけないわね。そういえば、前回の会合で会った時に、目的のために手段を選ばずに生み出された物語が増えて困るって言ってたかしら」
「目的のために手段を選ばずに生み出された物語ですか?」
「ええ。書籍化やアニメ化を狙うあまり、炎上させて話題性を上げるための短編を騙る物語や、短期の格付けで上位に挙がった内容を模倣した物語が増えたそうよ。彼は本来なら権能で新しい世界を生み出した後、その物語の元になった作者を世界の核となる主人公に転生させて世界を安定させるのだけど…」
「だけど…?」
「そういった作者の場合、主人公に転生させようとしても波長が合わなくて、失敗するらしいわね」
「ほえ~、作者なのに波長が合わないのです?」
「ほら、彼のできる転生処理って既にある仮初の魂に記憶を持ったままの魂を混ぜる方法だから。主人公と性格が合わないと、失敗するらしいわね」
「なるほど!確かに専門の私達でもそんな無茶すると転生先の生き物を壊してしまいますね~」
「そうね。まあ、私達は記憶を消去してしまうから、今回みたいに浄化しきれない魂が増えなければ大丈夫よ。とりあえず、話説神には私から言っておくから、そろそろ作業に戻ってなさい」
「は~い!ありがとうございました~!」
そして、天使は嬉しそう持ち場へ戻っていく。小さくなっても輝きを取り戻した魂たちを手にして。
~ Fin ~
やあ (´・ω・`)
ようこそ、バーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、この作品タイトルを見たとき、読者たちは、きっと言葉では言い表せない「怒り」みたいなものを感じてくれたと思う。
書籍化を狙うあまりに初心を忘れた作者たちは、そういう読者たちの気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この小説を書いたんだ。
じゃあ、注文を聞こうか。