第八劇 二度目の出会いは劇的に!
「とりあえず、ここら辺で大丈夫だろ」
オリオンと別れた後、どうせ暇だからオリオンから貰った精霊魔術の本とやらで精霊を呼び出してみよう、という事になった煉華一行。
街の外の開けた場所で分厚い本を開き顔を突き合わせる。
「うわ...何語だこれ。読めねーわ」
「ほんとだ、これじゃあどうしようもないね」
「アキラとかは読めたりしないか?」
「申し訳ありません、文字を見ることすら初めてで...」
「拙者もでゴザル」
見た事もないような文字がズラっと並んでおり心無しか、さっきより本の重さが重くなったような気がする。
「でも魔法っていう位なんだからやっぱり魔法陣を描くんじゃない?探してみようよ」
「魔法陣ねぇ...」
陽に言われて煉華がペラペラとページをめくってみると、あった。幾何学模様が1ページ丸々使われてデカデカと載っていた。
「お、あった」
「これ同じようなのあそこでも見たよね」
陽の言う、あそことは煉華達が召喚された白い空間の事だろう。
「確かに見たな、よし、それじゃあ試しにこれを描いてみるか!」
4人で近くに落ちていた枝などを使い地面に見様見真似で魔法陣を描いていく。暫くすると、本に描かれた幾何学模様とそっくりな物が出来上がっていた。
「できたでゴザルな!」
「この次はどうすればいいんだろう?」
顎に手を当てて考える煉華、思い当たる節はあった。
「ここまでできたら多分大丈夫だと思う。俺に任せてくれ」
自信たっぷりに言い切る煉華は静かに目を閉じて意識を集中させる。白い空間から誤って魔法陣を発動させてしまった時、魔法陣に触れていた時の感覚を思い出す。
あの時、確かに自分の身体から何かが吸い取られるのを感じた。恐らく魔力だろう、今度はそれを意識的に行う、身体の内部で循環しているものを外へ出すイメージだ。
その集中力を崩さずに魔法陣へと触れる。奇妙な感覚だが、手を伝わって何かが身体から抜けていくのが分かる。
「わぁ、煉華凄いよ、魔法陣が光始めた!」
「流石ですレンカ様、魔力を流す方法をご存知とは」
「これはまた綺麗でゴザルなぁ...」
煉華の手が触れた所から魔法陣の線が光り始める。やがて魔法陣全てが光に包まれた。
何かが突っかかった様な感覚がし、煉華は魔法陣から手を離す。額には汗が滲んでいた。
「さてと、鬼が出るか蛇が出るか」
陽達を下がらせ、自分も魔法陣から距離を取る。
光が一際大きくなった。
その場にいた全員が思わず目を覆う。
煉華が目を覆っていた腕を下ろすとそこには、純白だった服を黒く汚し、ボロボロの姿でルキナが倒れていた。
最初に声を出したのは陽。
「えっ誰?」
「ヒカリ様、危険です、下がっていてください」
次いでアキラがヒカリを庇うように後ろへ下がらせる。
「なっ...ルキナさん...だよな?ルキナさん!!大丈夫ですか?!」
その姿を見て慌てて煉華が駆け寄り肩を揺する。取り乱した煉華をアキラが制した。
「レンカ様も危険です」
煉華とルキナとの間に手を差し込む。
「いや、アキラこの人は大丈夫だ。敵じゃない」
「しかし──」
「すまん、アキラが不安がる気持ちも分かる、だがそこに居てくれ」
「...レンカ様が仰るのならば」
渋々と言った感じでルキナを挟む様に煉華の向かいに膝をつく。倒れたままのルキナをアキラの後ろから陽が覗き込む。
「煉華、その人知り合いなの?」
「ああ、ルキナさんって言う人だよ。一応命の恩人って事になるのかな」
事実、煉華は一度死んでいるのを蘇らせてもらったので間違いではない。
「ダメだ、全然起きない、どうすれば...」
ルキナは気絶しているのか全く反応がない。手の打ちようがないと思われたが、ふとスケさんが声を出した。
「拙者よくわからんのでゴザルがルキナ殿は魔力が足りてないのではゴザらんか?」
精霊は召喚主の魔力により身体を保つ事が出来る。
女神は精霊の上位の存在だが、本質的には同じである。そのため、ルキナの魔力から作られた煉華が魔力を使い、精霊召喚をした事により女神のルキナが引き寄せられ召喚されたと考えられる。
繰り返すが煉華の魔力とルキナの魔力は同じである。ならば、煉華が直接ルキナに魔力供給をすれば詰め替え用の中身を入れ替えるようにスムーズに事が進むのではないか。
「スケさんの言う通りかもしれない、今から俺の魔力をルキナさんに供給させる」
ルキナの手を握りもう一度あの感覚を呼び起こす。
1分程経った頃だろうか、ルキナの瞼がピクっと動いた。
「っ!ルキナさん!大丈夫ですか?」
煉華は声こそ張り上げているものの、不用意に身体を揺さぶらないようにする。やがてルキナの目が開かれた。
「うっ...ここは...?あ、れ?レンカさん?無事だったんですか、あ、安心しました。あのあとすぐに行方がわからなくなってしまって...申し訳ないです」
意識がはっきりしてきたのかルキナは身体を起こす。
「俺は大丈夫でした、そんなことよりルキナさんの方こそ大丈夫ですか?精霊を召喚したと思ったらボロボロのルキナさんが...」
「え?...わっ!...あ、あはは私とした事が、」
所々服が破けていたのに気付き、慌てて手で抑える。真っ赤な顔のまま照れ隠しのように笑ってみせる。
「まあ俺としてはそのままでもブハッ!!」
余計な事を言おうとした煉華をチョップで黙らせる陽。
「こら!女の人に余計な事言わないの!と、ルキナさんでしたっけ、私の名前は篠崎陽です。あなたが光の精霊?って事で間違いないんですか?それと煉華との関係を詳しく」
若干早口で質問する陽にルキナは苦笑いする。
「えっと...ヒカリさん、私が光の精霊なのか?という事でしたら、そうですね...私は光の精霊から女神になったので恐らく合っていると思います。それとレンカさんとの関係ですが───」
言葉に詰まるルキナ、煉華の身体を作って異世界に送った者です、などと言われても陽が混乱するだけだろう。
勿論ルキナが言葉に詰まったのを陽は見逃さない。
「言えないような関係ってことなんですか?」
「いっいえ!そんな関係では決してありません!その...なんでしょう、一言では表せない関係と言いますか...」
「昼ドラ並にドロドロで拗れた関係って事なんですね...!!」
「いえ、そのですね...」
どんどんとあさっての方向に解釈していく陽におろおろとするルキナ。チョップでのされていた煉華が起き上がり暴走する陽を止める。
「落ち着けって、ルキナさんは俺の命の恩人だって言ったろ?それよりもルキナさん、どうしてそんなボロボロだったんですか?」
煉華が第一に疑問に思っていたことを口にした瞬間、ルキナはハッと何かを思い出したように表情を変えた。
「レンカさん、ヒカリさん、それと...魔物の御二方も早く逃げてください!彼が...彼が来る前に早───」
ルキナが立ち上がり、その場の4人を急かしたのと同時に、ルキナの後方で眩い光が放たれた。全員が注目したその場所には、どこかで見た魔法陣。
そして光の中から、『彼』が現れる。
「ルキナさん勝手に居なくなったらダメじゃない、いざと言う時ルキナさんを巻き込まない為の措置なんだからさー」
彼の名前はアスト、飄々とした態度の赤髪で長身の男だ。
人知れず、柏木煉華の異世界生活を終わらせたあの男であった。