第五劇 加入イベントは劇的に!
今回のセリフは〜?
覗いてきた顔は随分と整った顔立ちだった。
壁から全身を出し、ゆっくりと煉華の方へと歩み始める。身長は煉華より少し高い位で、勿論全裸である。顔も体付きも男性寄りだが、大事な部分はツルりとしていた。
スライムの分際で、なんて整った顔付きじゃあ!!と若干ピキる煉華だが、自分の気持ちを沈める。
「おいお前、言葉は聞こえてるのか?聞こえているんだったら、そこで止まれ」
5メートル程先まで迫ったスライムに警告する煉華。突然歩いていたスライムがピタッと動きを止めた。そのまま謙るように片膝を地面に着く。
「え、ホントに止まるのか?」
拍子抜けする煉華にスライムが話し始める。
「先程は、我を助けて下さり、ありがとうございます───願わくば、我を貴方の配下に加えて頂きたく存じます」
「...」
いきなりの出来事に、煉華の思考回路はショート寸前、脳内を整理する。
「あー、待て、つまりお前は俺達を襲いに来たわけじゃあなくって───」
「襲うだなんて!そんな滅相もない、消滅寸前の我に魔力を与えて下さったではありませんか、それもあんな高密度の...おかげで生き返る事が出来ました」
片膝をついたまま感謝を告げるスライム。
(魔力を与えるって...ああ、そういや俺の身体ってルキナさんの魔力で出来てるんだったか、それと何か関係があるのか?)
煉華の肉体はルキナの魔力で出来ている。高密度の魔力と言うのは、恐らく女神の魔力だったからだろう。
「この恩を返したいのです、どうか、我を配下に加えて頂きたい」
頭を垂れるスライム、どうしたものかとチラりと陽がいる方向に顔を向ける。棺桶の影から少しだけ顔を出して、疑うように眉を顰めていた。その後、煉華が決めれば?と言うように煉華を見つめる。
「───お前に敵意が無いって事はよく分かった、ただ...配下ねぇ、よく分からんが、俺の言う事を聞くって事か?」
「仰る通りです、元より死にゆくのみだった我の命、全て貴方の命を遂行する為に捧げましょう」
う〜んと少し考えてから煉華は頷いた。
「分かった、俺達と一緒に着いてきてもいいぞ、ただ一つだけお願いしたい、そこの棺桶の陰に隠れている、俺の連れを守って欲しい、俺に万が一の事があっても、まずあいつの事を優先してくれ」
煉華は陽を巻き込ませないようにしていたのだが既に二回も失敗している、それもあっての願いだった。
「お顔を拝見させて頂いても宜しいでしょうか」
陽が顔を出していた時は、顔を下に向けていたので、スライムはまだ陽の顔を知らなかった。
「ああそっか、おーい陽もう出てきていいぞ」
おずおずといった感じで頭を出す。そのままま立ち上がり、指をスライムに向ける。
「いい! もう人の手食べちゃダメだからね!」
「我が主、手と言うのは一体?」
「ああ、さっきお前に手を溶かされたからな、その事だろ」
「なッ...我が...我が主の腕を...?まさかあの高密度の魔素が我が主の腕だったのですか?!な、なんて事を...そのような無礼を働いていたとは!今直ぐ死んで無礼を詫びさせて──」
「いや別にいいよ、痛かったけど、治ったし」
何も気にしてない様子で煉華がそう答えると、とんでもないという感じでスライムが謝罪を続けようとする。
「い、いや...しかしそれでは...」
「いや、ほんとにいいし、俺がいいって言ってるんだから何も気負う必要はないぞ、陽も別にいいよな?」
「まあ煉華がいいなら...」
「な?まあ、ホントに責任感じてるって言うなら、その分全力で陽の事を守ってくれ」
根負けしたのか、スライムはもう一度頭を下げる。
「この命に変えても」
「よし、話もまとまった事だし!ここから脱出するか!」
煉華がそう言うと陽が棺桶の後ろから煉華の後ろまで小走りで近づいてきた。
「ね、ねえ煉華もしかしたら気のせいかもしれないんだけど...さっきあの棺桶の中からいびきが聞こえてきたような───」
陽の声と被るタイミングで突然例の棺桶の蓋がゆっくりと空中に浮かんだ。
「なッ...!」
煉華が陽を庇うように前に立つ、その更に前にスライムが立った。
「あんな重かった蓋が...」
蓋が棺桶の横の床にゆっくりと下りる。棺桶が完全に開かれた所を見ても、ただの空間があるだけだった。
「何も...ない?」
独り言のように煉華が呟いた瞬間、何も無いはずの空間から声が聞こえてきた。
「ふあぁぁ、よく寝たでゴザル、...よく寝た?拙者そもそも寝た記憶どころか、何も覚えてないでゴザル、ん?お主ら誰でゴザルか?」
不意にスライムが歩き出し、棺桶の少し上の空間を蹴りあげる。
「ゴザルッ」
ゴッ! と鈍い音がしたかと思うと、声の主が姿を現した。
「痛いでゴザル!! いきなり何をするでゴザルか!!」
現れたのは、顎を抑えた状態で棺桶の中で蹲っている骸骨だった。RPGで言う所のスケルトンである。
「うおッ...びっくりした、何だお前、スケスケの実でも食ってるのか? スケルトンだけにってか? やかましいわ!」
煉華のノリツッコミに一瞬時が止まった。
「えーゴホンッ...で、お前誰なの?」
スケルトンも微妙な雰囲気を変えようと思ったのか、顎を抑えるのをやめて立ち上がる。
「拙者でゴザルか? 拙者は...誰でゴザろう?」
「いや、それを聞いてるんだけど...」
スライムが握り拳を作りながら煉華の方を向く。
「...消しますか?」
「どぅわあああ!? いきなり物騒な事を言うのはやめて欲しいでゴザルなぁ!! 拙者ついさっき目が覚めたばかりで記憶が全く無いでゴザル!! だから拙者が誰なのか分からないのでゴザルよぉ〜!!」
窪んだ目の辺りから涙を流しながら頭を庇うスケルトン。
両手と首をバキバキ鳴らしているスライムを落ち着かせ、話をする。
「んで、話を戻すけど、記憶が無いって言ってたけど、何でここにいたのかも覚えてないのか?」
「記憶に無いでゴザル、拙者気が付いたらあの棺桶の中で寝てたでゴザル」
一体何処から声を発しているのか、顎の部分が上下に揺れているだけだが声は普通に聞こえている。
「寝てた...ってじゃあ質問を変えるが、透明になってたのは?」
「あーそれは拙者の能力を使ったからでゴザル、なんと拙者の能力は〈空挺監督〉と〈光学迷彩〉の二つあるのでゴザルよ! どうでゴザルか? 凄いでゴザろう?」
腰に手を当て胸を剃るスケルトン、まるでエッヘンとでも言いたげである。
「聞きたい事はいくつかあるが...お前、名前とかあるのか?」
「いや、覚えて無いでゴザル」
「そうか...」
言葉を止めスケルトンのの顔をじっと見つめる、顔自体はないが、数秒してポンッと手を打つ。
「名前ないと呼ぶ時に不便だから、今から『スケさん』って呼ばせて貰うわ」
スケルトンに指を刺しながらそう告げる。
「おお!スケさんでゴザルか! いい名前でゴザルなぁ...悪者を懲らしめてそうな名前でゴザル、拙者気に入ったでゴザルよ!」
「そうか、そりゃあ良かった」
気に入ってもらえて良かった、と安心する煉華の肩を陽が叩く。
「ねえ...あの人にも名前付けてあげたら? さっきから寂しそうな顔してるよ? 後、私としては早く服を来て欲しいな...」
見るとスケさんに射殺さんばかりの視線向けている全裸のスライムがそこには立っていた。
「あ...お前にも名前考えてたんだよねー! 実は! ホント! 最初会った時から考えてた名前があったんだよね!」
若干顔が引き攣りながらそう言った煉華にパァと顔を明るくするスライム。
「本当ですか!い...いえ!我のような者に名前を付けるなど...」
同時に煉華の頭が高速回転し始める。名前のレパートリーの中からコンマ一秒でスライムの名前を弾き出した煉華は笑いながらスライムにも名付ける。
「いや、お前にもちゃんと名前を付けるさ、アキラってのはどうだ?」
アキラは全裸のまま片膝を地面に着き頭を下げる。
「我が主から名を頂けるとは...この上ない喜び」
「そこまでしなくてもいいんだが...」
そこまで喜ばれると、パッと思い付いただけの煉華の良心が痛む。
「そうだ、スケさんはこれから何かやる事あるのか?」
「いや特には何も考えていないでゴザル」
「じゃあ俺達と一緒に来いよ」
「良いのでゴザルか?丁度拙者もそれを聞こうと思ってた所でゴザルよ」
「よし、そうと決まればこんな所さっさと脱出だ!!」
こうして煉華、陽、アキラ、スケさんの旅が始まった。
しかし、円満に始まった旅が長く続くとは決して限らない───
スライムのアキラとスケルトンのスケさんが仲間に加わった!