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"異"能力バトルは劇的に!  作者: しらべ
異世界テンプレは劇的に!
4/26

第四劇 敵との出会いは劇的に!




気が付くと薄暗い中に二人は立ち尽くしていた。どんよりとした重い空気が漂う空間。


見れば地面に転がる石ころがうっすらと光を纏っている。その光により若干であるが、自分達が何処にいるのか掴むことが出来た。


「ここ...洞窟か...?」


段々視界が暗闇に慣れる。辺りにはゴツゴツとした透明の鉱物があちこちに出来ていおりその全てが、青白く発光していた。


「綺麗───」


恐らく自分が口に出した事にも気づいてないのだろう、陽は片手を口に当ててその光景に目を奪われていた。

しばらくその光景に魅入っていた二人だがふと我に返る。


「またどっかに飛ばされたみたいだな...俺たち」


「も〜何なのこれ?今何処にいるんだろう...」


「来ちまったもんはしょうがない、取り敢えずこの洞窟から脱出しよう」


目まぐるしく変化する状況に、煉華も混乱していたが、陽だけでも助けようと、何とか冷静さを保つ事ができていた。


陽の手を取り上に道が続いている方へと歩き出す。


(空気の流れを少し感じる、流れてくる方向へ向かえば出口があるはずだ)


光る石の明かりを頼りに歩き始めてすぐ、煉華と陽が同時に同じ事に気が付いた。


自分達が手を繋いでることを思い出したのだ。慌てて手を離そうとするが、二人同時に動きを止める。


 ((今振りほどいたら、意識していると思われるのでは))


そんな考えが、二人の脳内によぎった。まるで意識してない、とでも言いたげに手を繋いだまま別の話をし始める。


「い、いやァーなんか凄い所に来ちゃったね」


「そ、そうだな、こんな所さっさと出ないとな!」


一度気付いてしまったものを意識しないなんて器用な真似の出来ない二人。じっとりと手汗が滲む。果たしてそれはどちらのものなのか、やはり二人同時に──


((やばい、手汗が...ッ!))


「さ、さ、さっさと行こうぜ、み、道は合ってるっぽいしな!」


「そっそうだね、うんそうしよう!」


しばらく薄暗い中を上へ向かうように歩く。上へ向かうにつれてどんよりした空気が薄くなってきた。


「ねえ煉華、あれ何?」


「あれって...なんだあれ」


陽に指を刺された方向を見ると、黄金色のベチャベチャした何かがあった。例えるなら海岸に打ち上げられた、クラゲの死骸が黄金色になったような物が落ちていた。


「ホントになんだこれ...蜂蜜みたいだな」


「確かに、そう考えると美味しそうに見えてきた」


謎の物体を前にしゃがみながら会話する。煉華が手の繋いでない右手で何の気に無しに触ってみる。


触ると、固形を保ってる訳ではなく、表面張力がコップ無しで働いてるような状態になっていることが分かった。


暫く触っていると突然煉華の右手が黄金色の物体に飲み込まれる。その謎の物体が動いたのだった。煉華が驚く暇もなく謎の物体は煉華の右手に纏わりつき───丸ごと溶かした。


煉華達が知る由もない事だったが、触っていた黄金色の物体は、所謂スライムと呼ばれる全身が消火器官の魔物だった。


いきなり纏わりつかれたと思ったら、右手に激痛が走った煉華は慌ててそれを振りほどく。煉華の目に入ったのは、手首から先が無くなった右腕だった。


「───な、に...ッ!?」


思わず叫び出しそうになる煉華だったが、身体の自由が突然奪われる。


「落ち着け」


その声でハッと我に返る。声の主は煉華の姿をしたアイツだった。止まった時の中で、煉華の前に立っている。


(お、落ち着いてられるかッ!!まさか...う、腕を食べられるなんて...ッ!!)


「その黄金色の奴はスライムだ、不用意に変な物には触るもんじゃねえな、次からは先ず棒でつつくなり何なりして警戒しろ、分かったか?」


スライムを指差しながら話を続ける。


「お前の右手はこいつに取り込まれた。もう戻ってこない」


(ッ...!!ま、まあそりゃそうだ...無くなっちまったもんはしょうがねぇ...)


「おっと話はまだ終わってねえ、お前の身体だが...実は普通の身体じゃない」


(どういう事だ?)


「ルキナは説明してなかったが、アイツが召喚したのはお前の魂だけだった、今のお前の肉体はルキナの魔力でできている」


(...何が言いたいんだ?)


「分かりやすく言うとルキナは自分の魔力を元に魂をぶち込んでおく為の器を作った、それが今のお前の身体、つまりお前の身体は魔力が素って事だ、ここまで言えば分かるだろ?」


(...つまり、魔力かなんかを取り込めば、右手は元に戻るって事...か)


「そうだ、そしてさっきから感じてるだろうが、この空間の重さ...これが魔力だ、地下の洞窟には魔力がよく溜まる、それに当てられた鉱物が魔力を纏って青白く光るんだ、ついてたな、恐らく奥まで行って魔力を取り込めば、10秒位で完治するだろう」


(ついてるって...)


ここにさえ転移しなければ右手が無くなることもなかったのではないか、という考えをぐっと飲み込む。


「魔力を取り込むのは俺がやる、痛みの制御もできる限りするが...期待はするな、俺ができる補助にも限界がある」


(そんな事までできるのか)


「ああ、俺は言わばお前のもう一つの人格みたいな物だ、お前が身体を動かし、俺が内部を動かす、何やる事は簡単だ、お前はただ深くまで潜ればいい」


(分かった、上手くやる)


「よし、じゃあ今から時を動かす、治療は任せろ」


パチンと指を鳴らすのと同時に時が動き始める。


ピクリとも動かなくなる煉華、陽も右手が無くなった事実に気が付き、激しく動揺する。


「煉華ッ! 大丈夫?! えーとこういう時は先ずは傷口を圧迫してから───」


「...ッあ!! あああああああ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛いィィいいいいい!!!!!!」



洞窟内に絶叫が響き渡った。



地面を転げ回り、左手で右手首を抑えながら叫んでいる。


強烈な酸性の液体によって傷口ごと焼かれたおかげか、失血は無かった。


『ゲートコントロール理論』と呼ばれる物がある。


痛みを感じた時、その痛みの周囲を触る、または圧迫する事で、痛みを伝える回路を阻害し、痛みを和らげる事ができる理論の事である。


無意識に多くの人間がやる行動だが、どこで聞きかじったのか、煉華は意識的にこれを行っていた。


また大声をあげる事も痛みを緩和させる事ができると言われている、が


(にしても普通に痛い!!)


いくら緩和できるとは言え、右手が無くなった痛みは想像を絶する。


陽もどうしようと焦っていると、例のスライムが何かを形作り始めた。


「うそ...人...?」


どんどん人型になっていくスライムは、手らしき物を煉華に伸ばす。


慌てて陽は煉華を少しでもこのスライムから離れさせようと、煉華の身体を引きずった。


と、同時にその手の先からドロリと黄金色の液体が漏れでる。その垂れた液体が丁度煉華の股の間に落ちた、と思いきやジューッ、と音を立てて洞窟の岩を溶かす。


「い、生き物だったの? 危なかった...煉華ッ...!! 取り敢えずここから逃げないとッ...」


「う...あぁ...超痛い...けど...だんだん和らいできた...アドレナリンとかの脳内麻薬分泌しまくってるおかげか...? 戻ろう陽、今のうちだ...!!」


引きずる陽を止め、自力で立ち上がる。勿論その間も圧迫をやめることは無い。


「も、戻るってどこへ?」


「───下だ」




「はぁ...はぁ...戻ってきたか」


陽が煉華の身体を支えながら、二人は元の魔法陣がある所まで戻ってきた。


(また誤作動を起こす訳にはいかねえ、近寄らない様にしよう)


それを避けて歩こうとした時、上る途中には見つけることの出来なかった、別れ道を発見した。


「煉華、ここに隠れよう」


洞窟の奥へ進んで来ていたおかげで、煉華の右手は指以外が既に再生していた。


これ以上潜らなくても前回までは秒読みだろうと、煉華も頷く。


「そうだな、あの化け物が追って来るかもしれない」


不運な事に、別れ道は袋小路になっていた。


一番奥には少し広い空間があり、その真ん中に棺桶らしき物が置いてある。


「何だこれ...いや、今はそんな事どうでもいいか、この中誰か入ってるのか?」


煉華がやけに分厚い蓋に蹴りを入れるが、硬すぎて逆に足にダメージが入る。


「れ、煉華早くどこか隠れる場所を探さなきゃ...」


半泣きの煉華はこの場所から出る事を考えるが、鉢合わせした時が最後、なのでこの場所に隠れる所を探す。


しかしこの棺桶のような物以外何もない空間では、壁以外に隠れる場所など無かった。


結果として、陽が棺桶の陰に隠れ、煉華が囮になり先に陽を逃がす計画が立てられた。最初こそ陽が渋ったもの、煉華が強引に押し通す。


「ほら、コレ見ろよ右手、復活してるだろ?言ってなかったけどちょっとくらいの傷は直ぐに治る体質なんだよ」


そう、煉華の右手は既に完治していた。ヒラヒラと振り、陽に見せる。それを見た陽は開いた口が塞がらなかったが、異世界に来てる時点で色々とキャパシティを超えていたので、考えるのは後にするようだった。


陽が隠れたのを確認してから前を向く。


「いつでも来やがれ、俺にはまだ切り札が残ってる...!」


攻撃反転(カウンター)───相手からの攻撃をそのまま相手に反射する能力、これさえ使えばどんな攻撃も煉華には効かないだろう。敵も倒せて、陽を逃がすことも出来る。


1分も経たない内に、通路からヒタヒタと裸足で地面を歩いた時の様な音がし始めた。


その音がすぐそばで止む。


「おい、そこにいるんだろう、出て来いよ...俺が相手になってやる...」


汗ばんだ手を握る。ゆっくりと、完全に人の形となったスライムが暗がりから顔を出す。


その目線はしっかりと煉華を捉えていた。


その顔を見て、煉華は決意を新たにする。


「てめぇを倒して無事にここから陽と脱出する!!」



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