第三劇 日常だって劇的に!
「───んがッ.........顔が痛い...」
煉華が起きるとそこは見慣れた自分の部屋、キーボードに突っ伏して寝ていたせいで顔が少し痛かった。
顔面にキーボードの跡を付けたまま、とりあえず目の前のパソコンの電源を付ける。
「うわ最悪だ、EDまでスキップされてる誰だよクリアしたの...俺か」
画面にはゲームのクリアロールが流れていた。テキストゲームだったのが災いしたのだろう。
「いや〜それにしても...リアルな夢だったな」
当然、煉華はさっきまでの夢を覚えていた。
「魔王に逆転しそうな所で目が覚めちまうなんて、あとちょっとだったんだけどな...寝るか」
パソコンの電源を切りベッドに潜ると煉華は再び眠りについた。
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「───華...煉華...起きて──」
グゴゴゴゴ……。誰だ?わが眠りをさまたげる者は?
「む〜ここは道具に頼るしかないね...」
眠りを妨げる者は、徐ろに煉華の鼻の穴に紙縒りをねじ込む。
「───ぶえっくしょい!!!」
「おはよう煉華、今日は始業式だよ」
はい、とティッシュ箱を煉華に渡す。
くしゃみでダラダラと出てくる鼻水をかみ、煉華は起き上がった。
「...おはよう陽、もう紙縒りで起こすのはやめてくれ」
煉華を起こしたのは篠崎陽、煉華の幼馴染である。
「え〜これだと一発で起きれるんだけどな、ってそんな事より早く着替えて学校行かないと!」
ほらほら、と急かされ1階まで降りる。
「ふぁ...寝み〜、おはよ〜」
リビングでは煉華の姉が朝のニュースをぼーっと眺めていた。
「はよ〜」「パンどこ?」「出てる」「うぃ〜」
パンを焼いてる合間に顔を洗って2階の自室に制服を取りに戻ると、ベッドに陽が潜り込んで寝ていた。
「うをぉぉおおい!! なに人のベッドで勝手に寝てんだー!!」
「ううう...誘惑には抗えない...お許し召されよ...」
煉華が布団をひっぺがそうとすると、それに抵抗する陽。
「う...お...強い!! 抵抗するなー!!」
「や〜め〜て〜!」
「つーか今から着替えるから!! 部屋から出ろーー!!」
死闘を繰り広げた煉華はすぐに制服へと早着替え。陽と一緒に学校へと出発した。
「始業式か〜面倒臭いんだよなあれ」
煉華と陽は下駄箱に靴を入れ上履きを取り出すと、教室に向かう。
「またフケるつもりでしょ! もうエスケープなんてさせないからね!!」
前科持ちの煉華は陽の鬼気迫る表情に頷くしか無かった。
「わ...分かってるよ...」
教室に入りクラスメートに挨拶をして自席に座る。
煉華の席は窓際の後ろから二番目の席だった。
陽が一番後ろの席に座る。
「なんか一席増えてないか?」
席に着いて辺りを見回すと確かに席が一つ増えていた。
陽もそれに気付くと、思い出したように煉華に喋り始める。
「そう言えば噂で聞いたんだけど今日から転校生が来るらしいよ、しかも外国人!」
「へ〜そりゃ耳寄りだな、なんでそんな事知ってんの?」
「その転校生を見た子が言ってたの、うちの制服着てたらしいんだけど、そんな子いないから多分転校生だろうって、うちのクラスだったんだ〜嬉しいな〜」
煉華がふと何気なく床を見た時にそれは起きた。
床にはどこかで見覚えのある幾何学模様が浮かび上がっていた。
「───え」
煉華がただの落書きかどうか確かめようと身をかがめた瞬間、その模様が眩い光を放ち始めた。
当然、教室内は混乱する。
「うおっ...なんだ!?」「わ〜これ何てライト?」「クソッ...もう組織の奴らの手がこんな所までッ...!」
煉華はこの光にも見覚えがあった。
「これは...夢で見た...どういう事だ? あれは夢じゃなかったのか...? それともこれが夢なのか?」
「れ、煉華ッ! な、何なのこれ!? あわわわッ!! に、逃げたほうがいいんじゃ!?」
「ッ!...逃げ───」
考えても答えの出ない事は後回しにして、隣で泡を食ってる陽だけでも範囲外へ逃がそうとするが、時既に遅し。
一瞬にして光がクラスを丸ごと包み込んでしまった。
気が付くと、見覚えのある空間。
そこは煉華が夢の中で見たはずの、白い壁に囲まれた空間だった。
周りに居るのは光に包まれた時にクラスにいた20人前後のクラスメートと教室に置いてあるはずの机と椅子。
どうやらクラス丸ごと転移してきたようだった。
訳の分からない状況に皆混乱していたが、その時前方から声がかかった。
「初めまして、皆様方、突然の出来事で困惑していらっしゃるでしょうし、まずは自己紹介から、私の名はワンダ、女神ワンダです」
煉華は聞いた事のない名に眉を顰める。
それもそのはず、煉華の会ったことのある女神の名はルキナ。
顔も美形ではあるが、ルキナとは似ても似つかなかった。
(つー事はだ、あれは予知夢的な何かだって事か?)
「ね、ねぇ煉華...私達今どうなっちゃってるの?」
背後から陽が恐る恐る話しかけてくる。
「分からん、ただ...どこかに一瞬で連れてこられたのは確かだな」
「皆様の自己紹介も聞きたい所ですが...まずはこちらに着いてきて下さい」
ワンダが後ろの方へと手を向ける。
見ると確かに扉の様なものがあった。
「取り敢えず今は...着いていくしかないか...」
その場にいた全員がそう思い、ワンダに着いていく。
煉華と陽もワンダの案内に着いて行こうとしてた時だった。
煉華が気付く。
「ん? 何だここ魔法陣みてーなのが二つ重なって...こ、これは...!!」
床には恐らく煉華達を召喚した時にできた巨大な魔法陣があった。そして更にその中に小さな魔法陣が床に彫られている。煉華と陽はその魔法陣の中心にいた。
「どうしたの煉華?」
「俺はこの模様を知ってる...確かにあの時見たやつだ...!!」
煉華がしゃがみこみ、幾何学模様に手を伸ばして触れた時だった。
突然模様が光始めた。
「───は?」
「うぇええええ!? 煉華、今度は何なの!?」
(俺のせいか...!? くそっ、せめて陽だけでも...!!)
煉華が陽を突き飛ばそうとした時に、またしても光が二人を包み込んだ。