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「へえ~、失敗したの」
鈴を鳴らしたかのような可憐な声に滲む失望。
行儀悪く窓際に腰かけた少女は、柔らかな陽光を浴びて複雑な色合いを見せる髪を指先でくるくると巻いては解くを繰り返す。
大きな目をすがめ、「う~ん」と愛らしく小さな唇を尖らせていた彼女は、ずりずりと這い寄るウジ虫に気づき、つま先を勢いよく振り上げた。
「……ぅ、ぐ……っ」
「あ~あ、汚れちゃったぁ~」
悲し気に声を落とせば、控えていた使用人がすぐさま新しい靴と交換してくれる。
ぴかぴかの真新しい靴に相好を崩すと、媚びへつらうような顔でこちらを窺っていた男も安堵の息を吐いた。
「おい、そこのゴミを連れていけ!」
男が使用人に指示を出すと、顔を押さえて呻くウジ虫を引きずっていく。
ようやく醜いウジ虫が少女の視界から消えると、男が猫なで声を出す。
「さあ、可愛い子。他に何をして欲しい?」
でっぷりと肥えた体に二重顎の脂ぎった顔。
ねっとりとした気色の悪い声がより少女の気分を悪くさせる。
(こんなのが父親なんて、なんて不幸なあたし)
せっかく晴れやかになった心も一瞬で泡のように消えた。
イライラとした気持ちを紛らわせるように親指の爪を噛んだ少女は、耳朶を打つ涼やかな声音にパッと喜色を浮かべた。
「我が至高の君、ただいま戻りました」
「ああ、待っていたの!」
影となる部分に立つ長身の青年に駆け寄った少女は勢いよく抱き着いた。
「アレは、どう?」
「しばらくの間、使い物にはならないでしょう。一時とはいえ、心臓の機能を止めたのです。息を吹き返したとはいえ、意識も混濁しており、体にはしびれもあるようですね」
「ふう~ん。アレはまだまだ使い道あるし、大切にしないとね!」
少女は無邪気に微笑む。
けれど、その口から紡がれるのは見た目を裏切る残酷な言葉ばかり。
だが、彼女に心酔する者たちは崇めるかのように熱い眼差しを注ぐと、一言一句漏らすまいと耳を澄ませる。
「誤りは正さないと」
――だって、あたしの物語なんだから。
少女はにたりと嗤う。
大きな双眸は濁り、鈍い光を宿す。
「みんな、協力してくれるでしょ?」
こてりと小首を傾げれば、すぐさま反応がある。
だれも少女に逆らわない。
まだ子供である少女に意のままに操られる哀れな人形たち。
(ああ、おっかしい!)
いい大人が子供の言動一つに一喜一憂するなんて愉快だ。
そうなるように仕向けたとはいえ、時折、笑いだしたくなる。
(待っていてね、あたしの王子様たち)
まだ、会えない。
だって、それは時期ではないから。
弱っている王子様に会わないと意味がない。
(心の傷に寄り添って、時に甘く囁いて、時に背中を押すの)
記憶にある物語からはすでに逸れているが、まだ修正は十分間に合う。
途中経過なんてどうでもいいのだ。
――結果が合っていれば。
少女は昏く笑む。
形の良い唇が醜く歪む。
(物語の終わりはいつだって、ハッピーエンドなのよ)




