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悪役令嬢は「悪気はなかった。良かれと思ってやった。」等と供述しており・・・

作者: 巽 涼

ごきげんよう皆さま。私、21世紀日本の平凡なOLでしたが、このほど死んだと思ったらなんちゃって系中世欧州世界の侯爵令嬢(5歳)になっておりました。


そして、いつの間にか居た婚約者はこの国の王太子様。王・太・子・様!大事なことなので二度申しました。コホン。


この世界では王族・貴族の子女は13~16歳まで全寮制の王立学院にて学業を修めることが義務化されています。卒業パーティでは婚約者とダンスを踊り生涯添い遂げる誓いを立てるとかなんとか…勘の良い皆さまならお分かりですよね?


ネット小説で鉄板ネタになっている乙女ゲー悪役令嬢テンプレです!


いっそ逃げようかと思いました。よくある冒険者転職です。しかしその案は棄却せざるを得ないことになりました。

平民のトイレは壺だったのです。平民はたまった汚物を窓から道に廃棄する文化でした。汚物は日々蓄積され雨の日は坂の下へどろーりと流れる風景が平民街のデフォルトです。よりによって何故その文化を模倣したんでしょうか?!


無理!


水洗トイレ・抗菌トイレになじんだ日本人の感性では平民落ちは地獄落ち(いっそ殺せ)!!


テンプレ通り平民から貴族(男爵令嬢)と転身したヒロインが私と同じ日本人の感性の持ち主だったら、死ぬ気で王太子妃を狙いにきますよコレ。だって一番(衛生環境が)魅力的なのは王太子なんですから。

この采配をした何者かがいるならば軽く殺意を感じます。


ともあれ、学院に逝くことは決定事項。え?「逝く」は漢字がおかしいですって?いえいえ正しいですよ。学院とは名ばかりの全寮制人質生活です。


なんで学院があるのかと思って調べたら変則系参勤交代制度でした。貴族が力を持ち過ぎないよう授業料と寄付金で財力を削り、ついでに子供を人質にしてたんですねー。法で「卒業しない者を貴族と認めず」となっていますので、情勢次第で殺処分の危険があろうと貴族であり続けるために子供達は逝かねばならぬのです。

将来、王太子と結婚生活を送りたい(衛生的環境が欲しい)私が逝くのもむべなるかな。


ヒロインに負けると決まったわけではありません。

とにかく今から王太子の寵を得るためやれることをやりましょう。

殿下のご健勝や国の安寧をお祈りするため神殿通いとかいいかもしれません。ヒロインに負けても日に三度の清掃を行う修道院行きなら割と許容範囲ですし。


◆◇◆


「―――よって、お前との婚約を破棄し我が最愛の男爵令嬢と新たに婚約する!」


結論から言います。ヒロインさんに負けました。


今、私は学院の卒業パーティーの場で王太子殿下の側近候補の武力担当ーーー騎士団長息子に押さえつけられ、抵抗中です。なんとか私をぬかずかせようと力一杯押さえつけてきてますが、断固拒否です!この世界ならば大広間の床なぞ21世紀日本の公衆トイレより汚いのは明白です!顔の一部(額)をつけるとか元日本人として全力抵抗の構えですよ!!


王太子殿下の同情と関心を得る為、何度となく泣き崩れて床に伏せた元日本人のヒロインさんには脱帽ですよ!

平民街での最悪生活に耐えた彼女は強かった。二度と戻ってたまるかと言うガッツが勝敗を分けたのでしょうね!

ぐううっ!それはともかく力強いな武力担当!


床に顔をつけたくないと必死で抵抗してる私は宰相息子の読み上げる罪状を否認する余裕なんてありません。右から左へ聞き流してます。多分テンプレのヒロインいじめのあれこれでしょう。冤罪ですがどうでもいいです。とっとと終わらせて退場させていただきたく存じます!だから顔だけは守らせろ!!


異例のことでしょうが、反論しない私に代わりヒロインさんが弁護してくださってます。途切れ途切れですが「いじめなどなかった、女性を無理矢理床に押さえつける非道を止めるように」と彼女の声が聞こえます。どうやら彼女は愛妾狙いだったのに正妃候補の私を押し除ける事態になったことに慄いてるようです。恋に狂った王太子と側近候補の暴走を必死で止めようとして撃沈しています。


「追って沙汰を申し渡す。北の塔へ幽閉しろ!」


やれやれ、やっと終わりましたか。乱暴に引き起こされた私をヒロインさんが心配そうに見ていますが、汚床から顔を守り切ったのです。とりあえず、最低限の純潔(衛生)は守れたので満足です。首がちょっと痛いですけどね。


しかし、ヒロインさんが弁護しすぎたせいかパーティ会場は「侯爵令嬢(私です)冤罪じゃね?」と言う空気になっています。これではバカ王太子廃嫡ムーブになってヒロインさんの衛生的未来が台無しになってしまいます。弁護のお礼に一芝居しましょう。


「殿下、きっと私が公の場に立てるのは本日が最後でしょう。お許しいただけるならば皆様にお別れの挨拶をさせていただけませんか?」

「ふん、少しは自分の立場が分かっておるようだな。よかろう、最後の別れをすますが良い。」

傲慢な物言いに思わずヒロインさんとアイコンタクト。

(この男の良いところは実家(王宮)の衛生環境だけですねー)

(大いに同感です!!)

目と目で通じ合ってしまう私達。

先ほどの断罪劇で言葉を尽しても意思疎通できなかった男どもを見てヒロインさんがしょっぱい顔してしまいました。


ともあれ、会場の皆様に向けて出来る限り優雅に見えるようお辞儀をした後、そのまま膝をつき祈りの姿勢を取ります。


「皆様卒業おめでとうございます。祝いの席を『私の不徳』にてお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。」

不徳と言っても解釈は色々ありますが、当事者の私がこの言葉を口にすることで殿下を責めにくくなります。

「せめての償いに皆様の先行きに神の良きお導きがありますようお祈り申し上げます。」

この世界は一神教なんですよね。神の御加護は絶対で罪人であろうと神に対しては誠実であらねばと強い信仰に支えられている神様です。

「そして殿下にも」

殿下にもお祈りします。罪を犯した者の声でも気持ちに嘘がなければ神はお聞き届けになられると信じられています。

真に謝罪するならば神の祈りと共にと言うのがこの国の文化です。

ここで侯爵令嬢の私が殿下をちょっとヨイショすれば廃嫡ムーブにブレーキがかかります。祈りの言葉は定番のあれがいいですね。

「王太子殿下の道行には清きに満ちた御加護があらんことをーーー」

清濁併呑の貴族世界で手を汚そうとも清き信念を神が御守りくださると言う内容です。定番中のド定番です。この後に相手を褒め称える美辞麗句をつなげるのがお約束です。ですからーーー


ブァベリッ!カツーン…コロコロコロ


祈りの言葉の途中で表現し難い音を立てて殿下の絢爛な礼服が弾け飛ぶとか、結果、王太子殿下が一糸纏わぬ全裸なるとか想像もしてなかったです。



◆◇◆


王太子殿下は廃嫡になりました。


『清き御加護』を祈った直後に真っ裸になったので、心に汚いものを持ってるのではないかと疑惑が立ってしまい平民落ちしてしまいました。まあ、私に冤罪を被せて、どう見ても両思いではない男爵令嬢ヒロインさんを正妃にしようと図ったのですからシロではありません。


元王太子殿下の悪心を暴いた娘として、私は悪役令嬢から聖女に転職しました。

今の住まいは大神殿です。

大理石の建物は日々何度もお掃除されていつも真っ白に輝いて王宮よりも清潔です!やったね完全勝利!!


ヒロインさんに侍女としてついてきて欲しいとお願いしたところ二つ返事で了解いただき、今は2人で祈ったり掃除洗濯する日々です。日本人の衛生観念で神殿の清掃活動に従事する私たちは熱心な信徒として神職の皆様に受け入れていただけました。

もちろん日々お祈りしてますが、元王太子殿下のダイナミック脱衣ほど激しい事は起きません。あの時限りのまぐれかと思いましたが、神官長さま曰く畑の実りは私が祈った土地の方が明らかに多いそうです。信教自由の国の感覚では今ひとつ実感できませんがお役に立てているなら良いのです。




皆さんに内緒ですが、ダイナミック脱衣については私とヒロインさんとで1つの仮説を立てています。


「たまたま脱げた礼服の脇を見たんですが、真っ黒だったんです」

「私も調べましたが、代々王太子の礼服は純白が基調みたいです」

「クリーム色でしたよね?」

「私、ずっと薄黄色の衣装だと思ってました」

「………」

「………」


神様が過剰反応するほど汚服だった説。

もしこの仮説通りなら、平民落ちしても元王太子殿下は今も元気に過ごされてるかもしれません。

初投稿です。勢いで書いたので短めですが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 押さえつけに来てるその騎士も大丈夫だったのでしょうか… だってもし王太子と同レベルだった場合洗ってない手で床に押さえ付けようとしてた事に…っ! ノブレス汚物リージュ(ボソッ
[一言] まぁリアル中世ヨーロッパはそのせいで男女問わずの香水文化(なんたって、女性はドレス脱ぎ着簡単にできないから、スカートの中に侍女が瓶突っ込んで受け止めるんだから、匂いがスカートの中で濃縮&生地…
[良い点] そっちかー!!! 神様は清潔を尊ぶといいますし、それじゃ仕方ないよね…
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