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僕は監禁されている

【平成30年6月1日】


 いつもは可愛いK子ちゃんの顔が、急に恐ろしいものに見えてくる。極力普段通りに振る舞うよう気をつけているけど、ふとした瞬間に白骨死体のことが頭に浮かんでしまう。


 この一軒家には和室があるんだけど、畳を持ち上げると一箇所だけ地面に通じているところがあった。そしてその下に、袋に入った骨のようなモノが埋まっていることに気づいてしまったんだ。


 掘り返すと、それは明らかに人間の頭蓋骨。


 もしや、僕の前にもこうして監禁されていた人がいたんだろうか。だとしたら、K子ちゃんは何者なんだろう。僕は怖い。怖い。




【平成30年6月15日】


 K子ちゃんの顔を正面から見られない。

 ポケ●ンに没頭するだけの生活だ。


 最近は食べ物もあまり喉を通らない。

 心配そうな声をかけてくるけど……どこまでが本心なんだろう。いずれ僕も、あの白骨死体のようになってしまうのだろうか。


 逃げたい。けど、今は無理だ。




【平成30年6月30日】


 あの白骨死体は、K子ちゃんのお父さんのものだったらしい。

 お母さんに許可を得られた範囲で事情を教えてくれたんだけど、少し泣ける話だったからちゃんと記録しておくことにする。


 K子ちゃんの家は代々女系で、男が生まれたことがないらしい。しかも昔から綺麗な見た目の女性が多かったから、やんごとない身分(貴族ってことかな?)の方々の妾になることも多かった。

 それも正式なものではなくて、気が向いたときに男が通ってくる形式。遊びで付き合うような軽い男も多かったんだけど……ご先祖様たちは、諦めざるをえなかった。


 当時の価値観では、男子を産めない体で正妻にはなれなかったから。


 そんなある時、一族の女性のひとりが、とある男の子種を受けて身籠った。二人は真剣に愛し合っていたけれど……。

 男の実家は結婚を良しとしなかった。女子しか生まない女を嫁として受け入れれば、早々にお家断絶になってしまう。追い打ちをかけるように、男のもとへは豪商の娘との縁談が舞い込んだ。


 駆け落ちや心中も考えたけど、その男が提案したんだ。


「俺をこの家に隠してくれ……外向きには知らん顔して、行方不明になったことにすれば良い」


 そうして愛し合う二人は、長い人生を共に歩むことができた。決して世間に認められる生活ではなかったけど、幸せな生涯を過ごしたらしい。


 それからというもの、この家の女は愛した男を閉じ込めるようになった。ちゃんと愛し合ったケースもあったし、多少なりとも強引なケースもあったけれど、そうやって家が続いてきたのだという。


 K子ちゃんは泣きながら「M男さんを巻き込んですみません」と謝っていた。僕もどう反応したらいいのかわからなくて……。

 監禁されて迷惑なのは確かにそうなんだけど、なぜかK子ちゃんを前にすると上手く言葉が出てこない。これも一つの愛の形……なのかな。K子ちゃん自身のことは嫌いになれない。だんだんわからなくなってきた。


 ひとつわかったのは、K子ちゃんに対して必要以上に怯えることはないってこと。彼女も白骨死体のことは知らなかったみたいで、心の底から驚いた顔をしていた。お母さんに問い合わせてはじめて、父親の骨だと知ったらしい。


 ようやくK子ちゃんの顔を見られるようになった。あと、心なしかスキンシップが増えたようにも思う。




【平成30年9月3日】


 長かった夏休みが終わり、K子ちゃんは今日から学校に通い始めた。急に寂しくなったな。


 彼女は夏休みのはほとんどをずっと一緒にいてくれて、宿題を見てあげたり勉強を教えたりしながら過ごした。そうしている間は、普通の小学生にしか見えないんだけど……。


 で、個人的には少しショックだったんだけど、僕は重度のロリコンなのかもしれないと気づいてしまった。

 というのも、夏休みのうちにスキンシップがすごいことになってしまってたんだ。バレたら警察に捕まるレベルで。


 彼女の体は同年代の中でも小柄な方だから、大人のするような無茶な行為にはさすがに踏み切れなかった。

 逆に言えば、それほど無茶じゃないことは色々としてしまったんだよね。K子ちゃんも、慣れないながら積極的で、これまでの人生で一番爛れた夏休みだったと思う。


 明記は避けよう。

 恥ずかしいからね。




【平成30年10月12日】


 ポケ●ンにもすっかり飽きてきたんだけど、やることがないから惰性で続けてた。別のソフトは要求しても「お母さんガード」が酷いらくて、K子ちゃんにたびたび謝られる。仕方のないことだから、そんなに謝らなくてもいいのにね。


 そういえば思い出したんだけど、妹のR香に連れられて家に遊びに来たとき、場の流れでK子ちゃんに教えてあげたのがポケ●ンだったような気がする。

 俺の古いソフトを貸してあげて、捕獲やバトルなんかを経験させてあげたら、目を輝かせて喜んでいたように思う。


 K子ちゃんに当時のことを聞いてみたら「やっと思い出してくれたんですね。実はその時、M男さんをお慕いし始めたんですよ」と頬を赤くしてモジモジし始めた。


 可愛いなぁ。

 こんな子に思ってもらえる僕は幸せ者かもしれない。




【平成30年10月17日】


 家の外に野良犬を見つけた。

 どこから入り込んできたのかな。


 暇なので餌付けをしてやる。

 K子ちゃんには内緒の趣味ができた。




【平成30年11月30日】


 今日は僕の誕生日だった。

 K子ちゃんはお祝いしてくれて、それはそれで嬉しかったんだけど……なぜか涙が止まらなかった。


 父さんや母さんは元気だろうか。

 まだ僕を探しているだろうか。


 いつもは極力考えないようにしているけど、今日はダメだ。どうしても寂しくて、帰りたくて、たまらなくなる。いっそ死んでしまえば、魂だけでもこの家から出られるだろうか。

 K子ちゃんはどんな顔をして、学校でR香と友人付き合いを続けているんだろうか。


 むしゃくしゃして、K子ちゃんにいろんな無茶をしてしまった。正気に戻ってから謝ると、彼女は涙を流しながら僕を慰めてくれたけど。僕のことを嫌いになってないか、心配だ。




【平成30年12月24日】


 クリスマス・イブは、K子ちゃんと恋人気分で過ごした。

 大きな鳥の肉(ターキーだっけ?)と、クリスマスケーキと、シャンパンのアルコール抜きのやつと……ある意味で定番のメニューだけど、こういう季節を感じるイベントは楽しい。


 それから、大人の行為を試そうとしたけど、二人でいろいろと試行錯誤した挙げ句、今回は諦めることになった。これはサイズ的にちょっとまだ無理だ。

 早く大人になりたいな、とK子ちゃんが呟いたのが可愛くて、抱きしめながら寝た。幸せだ。


 プレゼントには手編みのマフラーをもらった。




【平成31年1月19日】


 なぜか気分が落ち込む。

 ゲームにも集中できないし、やたら眠くなる。


 K子ちゃんに心配をかけて申し訳ないけど、しばらく寝て過ごすことにする。




【平成31年2月14日】


 バレンタインデーは、チョコレートフォンデュなるものをやった。

 溶かしたチョコレートをフルーツに絡めながら食べるんだけど、なかなかお洒落で楽しかった。二人でわいわいやるのが楽しいよね。


 クリスマスもそうだったけど、ホワイトデーもお返しができない。それを謝ると、K子ちゃんはニッコリ笑って僕を許してくれた。やっぱり優しい子だと思う。




【平成31年3月1日】


 まだ気持ちを整理しきれていない。

 もう少し考えてから、日記に吐き出すことにする。




【平成31年3月2日】


 屋根裏部屋(天井の板に外れるところがあった)で見つけてしまったものをここに書き記しておく。


 それは自作のカレンダーだった。

 そこには几帳面そうな字で「昭和87年」と記載されている。


 一瞬笑いそうになったけど、よくよく考えてみて血の気が引いた。これを作った人……おそらくK子ちゃんの父親は、元号が平成になったことを知らなかったのだ。


 そういえば前に、今の天皇も退位するとかいう報道があった気もするし、いつか平成にも終わりが来るんだろうけど。


……僕にはそれを知る方法がない。


 それから、少年ジャ●プで既に連載が終了している作品の、途中からのストーリーを妄想をしている紙も発見した。

 陳腐な内容だけど、まったく笑えない。彼はこの続きを読みたくて、妄想するしかなくて、ついに読めないままこの世を去ったのだ。


……あぁ、僕もワンピ●スの結末を読むことができないんだな。


 僕はもう、世界から切り離されつつある。

 そう思ったら、急に目が覚めたような気持ちになった。僕はこの1年ほどの間、ずっと正気じゃなかった。今ならわかる。




 実はもうひとつ、見つけたものがある。

 それは古ぼけた紙の切れ端に、震える字でメッセージが書かれたものだった。


「正気に戻れ。この家はおかしい」


 それはなんだか、会ったこともないK子ちゃんの父親から、僕に宛てたメッセージのような気がした。自分を正気に戻すためのお守りとして、僕はそれを屋根裏から持ち出すことに決めた。


 どうにかして逃げなければならない。

 このまま、この家で朽ち果ててたまるか。


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