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喰い逃げ屋 左文字‐3  作者: 楠木 陽仁
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3-3

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ふぅ… ヤレヤレ、一時はどうなることかと思いましたよ」

 左文字と名乗った人物が、随分と骨の折れることをしたとでも言うように、腰をポンポンと叩きながら独り言ちる。

 そんな左文字の事を見る斉場少年の眼差しは、怪訝の色一色になっている。

 ―――イッタイ、何なんだこの人は。

 いきなり現れていきなり自分を救って。そんな通りがけに、さも平然と人助けをやってのけるこの人物は、斉場少年が経験してきた人生に於いて、一度も出会った事の無い人種であった。

 それよりも、この人物の見かけ。その全てが怪訝であった。

 その言動から歳の頃なら20代中盤と、自分よりも一回り上の世代だと推察されるが、もともと体躯が小柄なせいで、自分と同世代に思えてしまうほど若く見える。

 そして、何よりその人物が不詳であるのが性別だった。

 中性的な見た目。中性的な声色。中性的な格好と身の振り方。

 この人物の何処をどのように切り取っても、性別の香りが一切してこない。そんな掴み所のない人物が目の前にいることに、斉場少年は一種の危機感を覚えていた。

「特に怪我はないですか?」

 そんな心持ちの斉場少年であるから、左文字が心配する言葉を投げかけて来たところで響くことなく、無言のまま首を横に振るに留めた。

「そう、それなら良かったです」

 だが、そんな斉場少年の失礼な態度など意に介さないとばかりに、左文字は満面の笑みを返してくる。

「それでは良かった(つい)でに、一つ、謝らなければなりません」

 そんな前置きをして左文字は深く頭を下げる。

 どういう事なのだろうか? 斉場少年は左文字に感謝する道理こそあれ、謝罪される謂れはない。

「いやね、実を言うと君を突き飛ばしてしまったのは、他でもない、この私なんです」

 聞けば左文字が池袋大橋を駆け抜けていく際、勢い余って斉場少年にぶつかってしまったという。

 そのせいで斉場少年が線路へと突き落とされてしまったというのなら、彼を助けたさ文字の行動は自作自演となってしまう。

 何というマッチポンプだろうか。

 驚きの感情が次第に怒りの感情へと取って代わると、斉場少年はこれ以上こんな人物に関わっていられないと、何も言わずその場を立ち去ろうとする。

「ねぇ、少し待ちなさい」

 しかし、去りゆく斉場少年の背中に左文字が待つように声をかける。

「何ですか?」

 年上である左文字に対し、失礼を承知でぶっきらぼうに返事する斉場少年。

 できればこの場をトットと去りたい。そんな考えが斉場少年の頭の中を占めている。

 それは左文字への怒りもあるが、何よりも先ほどの自分の姿を見られていることに対して言及されたくない思いがあるからだ。

 柵の上に立ち、線路へと飛び降りようとしていたあの自分。

 それは誰がどう見ても、飛び降り自殺の現場でしかない。

 きっと心ある人間ならば、そんな真似をする斉場少年のことを心配し、根掘り葉掘り聞こうとするだろう。

 それは斉場少年にとって大きなお世話でしかない。だから、彼は早々に逃げようとしていたのだ。

「これ、君の忘れ物かい?」

 だが、左文字が斉場少年に問いかけたのは、その手に持っているコンビニ袋のことであった。

「コーラが沢山入っているみたいですけど」

 突きつけられたコンビニ袋に斉場少年は目を丸くする。

 驚いたように、そして弾かれたように左文字の手から袋を引っ手繰った斉場少年は、「ありがとうございました」と小さく呟く。

「しかし、一人で飲むにしては、随分と多い量ですね。友達とパーティーでも開いているのですか?」

 やっぱりこう言う事に成る。だからトットと立ち去りたかったのに。

 これ以上、踏み込まれてややこしい事に成る事は避けたかった斉場少年が無言を貫けば、左文字もまた「お節介でしたか」と引き下がる。

「まあ、どれだけコーラを飲もうが、他人の勝手ですからね。要らぬ気を使わせてしまいましたか」

「いえ、そんな」

 左文字の善意の心遣いを無下にする自分に良心の呵責を覚えたのか、重い口を割って斉場少年がそう答える。

「そうだ、君に連絡先を教えておきましょう」

 何でそんな事を聞くのか。怪訝に左文字を見つめる斉場少年。

「いや、ただ、さっきは大丈夫だったけれど、後で何か君に怪我が有った場合に拙いでしょう? こっちはそれなりに責任が有るのだから」

 そう言って左文字は印半纏の懐から紙片を一枚取り出して渡してくる。

 イッタイ何なのか。恐々と受け取った斉場少年が見てみれば、それは飾り気のないシンプルな名刺だった。

「体調の悪化とか何かあったら、そこに書いてある番号に連絡してください。もちろんそれ以外の場合でも歓迎します。お悩み相談とかね」

 何か見透かしたような左文字の視線に晒されるのが居心地悪くなる。

 斉場少年が俯いて喋らずにいると、逆に左文字はフフフと含み笑いを浮かべている。

「袖擦り合うのも何とやらと言いますし、また私は君を殺し掛けた上で命の恩人なのですから、これは並みならぬ縁でしょう。きっとまた会ったならユックリと腰を据えて話でもしませんか?」

「…都合が合えば」

 体良く当たり障りなく、断ったつもりの斉場少年だったが、左文字は余程ポジティブなのか、花が綻ぶように表情が明るくなる。

「そうですか。よかった。是非、連絡してくださいね」

 そうして、底が抜けた様な声を上げて左文字はワハハと笑って見せる。

 本当に調子の狂う人だ。

 他人と関わる事の何が面白いのだろう? 斉場少年は左文字が喜ぶ理由も、大声で笑っている理由も解らずに、まるで奇妙で不愉快な生き物を見るかのような視線を左文字に送っていた。

「やあ、そろそろ話は終わったか?」

 だが、その二人のやり取りを遮るものが現れる。

 彼は左文字の肩に手を置いて、満面の笑みを浮かべる左文字にも負けないほどの笑顔を向けている。

 その服装は白い割烹着姿。どうやら料理人の様である。

 それが一人のみならず、肩を掴む彼の後ろにも何人も、そして橋の反対側からもゾロゾロと詰め寄ってくる。

「左文字さん。喰い逃げ屋の途中だったこと、忘れてないかい?」

 ニコやかに、朗らかに、猫を撫でる様な声で料理人に問い掛けられた左文字の笑顔は、強張り固まったまま青褪めていく。

「あの…仕切り直しさせて貰えませんか?」

 それでも強がっているのか、そんな冗談を言って見せた左文字だが、料理人たちは問答無用で襲い掛かる。

「うるさい! 大人しく縛に付け!」「数えて12回目! ようやく年貢の納め時だ!」「おら! 暴れるな! 往生際の悪い!」

 餌に群がる生簀の魚の様に、詰め寄った料理人たちが左文字を捕らえ、捻じ伏せ、離さない。

「ああ! チョット、乱暴しないで」

 対する左文字は何とかこれを切り抜けようともがいては、悪足掻きの限りを尽くしてみるものの、諸錬は多勢に無勢、十数人の料理人たちの手によって、早々に担ぎ上げられてしまう。

「さあ! 運べ運べ!」「絶対落とすなよ!」「祭りじゃ祭りじゃ! 初勝利じゃ!」

「うああ、降ろして下さいぃ!」

 そして、浮かれ気分で左文字を運んでゆく料理人たちと、それでも抵抗を止めようとしない左文字の叫びが過ぎ去れば、池袋大橋には再びの静寂が戻ってくる。

 ―――イッタイ何の騒ぎだったんだ?

 一連の事がどういう事なのか訳も解らずに呆然としてしまう斉場少年。

 新手の宗教か、それとも修羅場だったのか。どちらにしてもこれ以上関わり合いに成らない方が身のためだろう。

 それまでの展開に若干怖くなって家路を急ぐ斉場少年だが、それを迎え入れたのは此方も怖い罵声であった。

「何時まで掛かってんだよ!」

「ホント鈍間は使えねぇー」

「あーあ、コーラ温くなっちまってんじゃねぇか!」

 そうして、今度は平手打ちが斉場少年を襲う。

 その一撃で目の前が真っ白になった斉場少年の体に、次々と拳や蹴りの連打が見舞われていく。

 特に粟田の攻めがキツイ。彼には空手の経験が有り、この三人の中で特に腕っ節が強く、それでいて体の何処を攻めればイイのかを熟知している。

 そんなものをフルコンボで受けてしまえば、斉場少年は立っていることは勿論のこと、呼吸することさえ(まま)成らなくなってしまう。

「チッ… あーあ、つまんねぇの」

 最後に一発ずつ、床に突っ伏す斉場少年に蹴りを見舞った三人は、飽きたとでも言うようにそのままリビングへと戻っていく。

「斉場を虐めてもつまんねぇな。しかし、酒もタバコもゲームもやり尽くしたし、何か他に面白そうなことないか?」

 不機嫌そうにソファへとダイブした柊が、退屈で仕方が無いと漏らしている。

「なんかこう、もっと刺激的なことが無いか?」

「ああ、イイねぇ。何かないかな?」

 床に這いつくばりながら、下卑た笑いを浮かべる彼らの話を聞いた斉場少年は、酷く嫌な予感に駆られた。

 ドラッグの巣窟。強姦の(すみか)。この我が家がそんな犯罪の現場として使われてしまうのではないか。

 何とかしなくてはならない。けれども自分にはそんな力は無い。募る焦りが支配して、猛烈な吐き気が込み上げてくる。

「あ、これが良いんじゃない?」

 そんな斉場少年のことなど羽虫ほども気に掛けない不良三人組が、何やら弄っていたタブレットで見つけたのか盛り上がっている。

 イッタイ何なのか。傷ついた体を引きずって盛り上がっている彼らを後ろから覗き見ると、何やら動画サイトの映像を見ているようだった。

 その動画を見ていると、一人の巨漢が大盛りの料理を必死に食べている様子が映し出されている。

 息も絶え絶えに、脂汗を掻いて、到底一人では食べきれないのではないのかと思うその料理を、殴り付けるかの如くその姿は、とても食事とは言い辛い光景であった。

 ―――これは、フードファイト?

 まさにこれは真っ向勝負。食堂と言うリングで料理という武器を元に襲い掛かる料理人を、己の胃袋を頼りに戦う孤高の戦士。

 それがフードファイターである。

 斉場少年も昔にテレビで彼らの活躍を見たことが有る。何キログラム、何十キログラムの料理を腹に収め、十数枚、数十枚の皿と丼を積み上げてゆく彼らの勇姿。

 それに幼い頃の斉場少年は憧憬と畏怖の念を覚えたものだった。

 しかし、今に成って何でこの不良たちはそんな物を見ているのだろうか?

 それに彼らが捜していたものは、自分たちの退屈を晴らしてくれるような刺激的な行為であり、これから自分たちが仕出かそうとしている事でも有ったはずだ。

 こんな人並み外れた大食いを彼らがやろうと言うのだろうか?

 それも、彼らは面白い事だと言う。悪事しか自分たちを満たすものは無いと言うのに。

 訳が解らず困惑した顔でその動画を凝視する斉場少年。動画の様子は刻々と過ぎてゆき、いよいよ佳境へと差し掛かっている。

 どんなに苦しい顔をしていても、箸を止めず料理を腹に収めていくフードファイターは残り一口か二口を残すのみとなっている。

 そして、名残惜しむように、それでいて景気付の様に、一気に呑み込むようにフードファイターは料理を食べ尽くしたのだ。

 それを見ていた観衆が、声援と拍手を送る。フードファイターは遣り遂げた。応援する彼らも、戦士が成し遂げた偉業を讃えている。

 だが、戦士はそれに応えることなく席を立つと、脇目も振らずに店の外へと駆け出して行ってしまったではないか。

「ははぁ! 逃げたぞ、コイツ!」

「タダ飯を食えるってのはイイな」

「そう、それ魅力」

 状況が飲み込めず目を白黒させる斉場少年とは反対に、不良3人組はさもエキサイティングなアトラクションでも見ているかのような反応を示している。

 ―――とてもついて行けない。

彼等の理解しがたい感性に、顔を顰めながら動画の方へ目を戻すと、カメラは先ほどの逃げるフードファイターを捉えたまま、その様子を流し続ける。

『食い逃げだ! 待て、この! 食い逃げだ!』

 そしてそんな怒号が聞こえてくると、カメラはフードファイターから、その後ろ十数メートルのところにピントを合わせる。

 見れば、そこには先程までフードファイターが食事をしていた料理店の料理人たちが、顔を真っ赤にし、鬼の形相で彼を追う姿が映し出される。

 そして彼レアが口々に叫ぶ『食い逃げ』の言葉。

 ―――ああ、そういう事なのか。

 斉場少年はここでようやく理解が及ぶ。これは食い逃げの、それも現行犯の様子を写した動画なのだ。

 マッタク、何て物を喜んでいるのだろうかコイツらは。

 こんな奴らが近くにいると思うだけで反吐が出る。虫唾が走る。

 犯罪の実況を見て喜んでいるなんて、やはり彼らの人間性は歪んでいるのではないだろうか。

 それほどの嫌悪感を持ちながら、それでも彼らを追い出す勇気が自分にはないことが腹立たしく、溜息だけが漏れたなら、それを聞きつけ柊が振り返る。

「チッ、何だよ、もう起きやがったのか」

 まるで斉場少年と顔を合わせることさえ煩わしいとでも言うようなその柊の態度。斉場少年としても彼と一緒にいることは嫌で仕方がない。

「まあイイ。お前もこれを見てみろよ」

 だが、そんな相手であろうとも、呼ばれたからには逆らえず、彼らの肩越しに例の動画を注視する。

「食い逃げですか…? これが面白いものなのですか?」

 確かに食い逃げも列記とした犯罪ではあるものの、彼らが求めているような刺激には到底足りていないのではないか。

 ふと思った疑問を口にしただけの斉場少年だったが、それを聞いた3人は何が面白かったのか大爆笑をする。

「お前は本当に何も知らねぇんだな」

「あーもー、古いんだから」

「少しはこれみて勉強しろ」

 爆笑を続ける三人に、自分の何がいけなかったのか解らなくなる斉場少年。

 そのままの放心状態で木部良に突きつけられたタブレットを受け取ると、そこには動画のタイトルが目立つように記されていた。

「喰い逃げ…屋?」

 見慣れた、思った通りの単語の後に、想像だにしない一文字を内包するその言葉。それが目の前に現れたとあっては、先程から混乱継続中の斉場少年の脳内は、なおも輪をかけて混乱してしまう。

「その顔、ヤッパリ知らなかったのか」

 目を回す斉場少年の様子をニヤニヤと、笑いながら眺めている柊は、彼の手からタブレットを取り返すと、慣れた手つきでページを探し出した。

「これだよ、これ。『喰い逃げ屋』。最近流行りだした新しいスポーツだってよ」

 柊が掻い摘んで説明したとおり、そのページには『喰い逃げ屋』なるスポーツがジワジワと人気を博してきていることが書かれている。

 食うこと、そして逃げること。二つを取り合わせて一種の競技としてしまおうというこの『喰い逃げ屋』。

 元は犯罪行為である食い逃げを、敢えて競技と言い張ることで正当化しようとする、なんとも強引なやり口だ。

 イッタイ誰が最初にこんなアホなことを考えたのだろう。

 呆れて物も言えなくなる斉場少年とは裏腹に、動画を見ている3人はさらなる盛り上がりを見せている。

「おお! こいつ追っ手をぶっ叩いたぞ!」

「それに看板やら自転車を引き倒して足止めしている」

「じゃあやりたい放題じゃん」

 ここまで彼らが興味を惹かれている、その事に斉場少年は一抹の不安を覚える。

 ―――まさか…。

「ああ、面白かった。俺たちもこれ、やろうぜ」

 そして、その不安は柊たちが動画を見終えたその時に現実となる。

 悪い予想ほど当たるものだ。斉場少年は青褪めてしまう。

「やるって…これをですか?」

 だから不用意だと解っていても、ついそんな問いかけが斉場少年の口から飛び出してしまった。

「あ? 嫌なのか?」

 その問いかけに気を害したのか、先程までの浮かれ模様は何処へ消えてしまったのか、不機嫌な表情の柊が斉場少年を睨みつける。

「いや、その、だって…」

 気圧されてしまい口籠る斉場少年だが、そんな状況さえ気に食わないのか、舌打ち一つして柊が彼の前に立つ。

「何だよ。言いたいことがあるならハッキリ言えばイイだろう」

 それが出来ないのを解っていながら、言葉にすることを煽ってくるのは相当に意地の悪い行為だ。

 現に斉場少年は二の句を次ぐことができず、水槽で喘ぐ魚のように口をパクパクさせるのみ。

「おいおい、可哀想だろォー」

「その辺にしておいてやれよぉー」

 外野から言葉をかけてくる粟田と木部良の言葉だが、柊を静止するようでいて、その実はこの状況を面白がっているだけに過ぎない。

「仕方がねぇなぁ。許してやるよ」

 そんな二人の言葉を聞き入れてやったのだと言わんばかりに、恩着せがましい台詞を吐いた柊が、興が削がれたと言わんばかりに部屋を後にしようとする。

「うん? 柊、帰るのか?」

「ああ、ゲーセン行こうぜ」

「イイねぇ、そろそろお前の連勝記録を止めてやりたいと思ってたんだ」

 柊の後に続いてゆく二人は、玄関へ続く廊下を歩きながら、打ち据えられた際に床に取り落としていた斉場少年の財布を拾う。

 そして、空気でも吸うくらい、さも当然な事の様に、その中に在った紙幣を全部自分のポケットに捻じ込むと、空に成った空き缶を捨てるかのごとく、軽くなった財布を廊下にポイと捨てたのだ。

 それを見て待つようにと斉場少年は手を伸ばした。しかし、残念ながらとてもじゃないが声は出なかった。

 伸ばし掛けた指の先、憎悪と恐怖が入り混じった視線の先で、家のドアがバタンと音を立てて閉じる。

 そこからは数分前とは一転した静寂が斉場少年の家を支配していた。

 柊達3人の不良は、斉場少年の事を最初から居なかったとでも言うように、無視したままゲームセンターへと出かけてしまった。

 取り残された斉場少年は、彼らを追うことも出来ず、ただ茫然とその場に立ち尽くすのみだった。

 しかし、涙は流れていた。

 止め処無かった。そして嗚咽が静寂を破った。

 斉場少年は本当に自分が惨めだと思った。

 床に散らばったゴミ、食べ散らかされたピザ、散乱する食器をたった一人で片付けなければならない時が、特にそれを感じさせた。

 どうしてこう成ってしまったのだろう? 自分の何が悪かったのだろう?

 自問自答するものの、答えなど出る訳も無く、現実はただ厳しくて、斉場少年のその小さい心も体も磨り潰されていく。

 ああ、誰でもイイ。この際、何だってイイ。

 こんな(ろく)でもない現実から自分を救い上げてくれる人が居たならば。

 そんな事を思いつつ、斉場少年は力なく、ただその場に俯くだけだった。

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