NHKの「秘島探検」が面白かった、という話――後編
最近にみたNHKの番組「秘島探検 東京ロストワールド」が面白かったので、その感想を書いていくエッセイ。
前回は「第1集 南硫黄島」でした。
今回は「第2集 孀婦岩」について語りたいと思います。
舞台となるのは、東京都・孀婦岩。
都心から南の太平洋上、伊豆諸島の最南端にある岩です。
岩……。
岩か……。
前回の南硫黄島は小さい島でしたが、それでも雄大な絶景を見せてくれました。
しかし、今回は岩……。
正直なところ、番組をみる前には、スケールダウンをしてしまった感を覚えないでもなかったです。
ちっちゃな岩で、どうやって探検するの? と。
しかし、そんな私のイメージは、番組が始まってすぐに吹き飛ばされました。
青い海の中にそびえ立つ岩の柱。
高さ100メートルもの巨大な石柱が、ただ一本だけ、海面から突き出ている。
その光景は衝撃的なものでした。
奇岩の名は「孀婦岩」
「孀婦」とは、夫と死に別れた妻、未亡人のこと。
大海原の中にただ一人だけ、ぽつんと立つその姿は頼りなげですが、どこか奇妙な迫力を感じさせます。
なぜ、彼女はここにいるのか?
この岩はどうやってできたのか?
その謎が、番組の中で解き明かされていきます。
番組のテーマは、孀婦岩の成立した過程を地学的に解明すること。
そして、その岩の周囲に生きる生物たちを探ること。
科学者やエンジニアたち、さらには漁師や海洋科学高校の生徒たちがチームを組んで、調査にあたります。
延縄漁でまず見つかったのは、バラムツ。
「食べると大変なことになる」魚として一部界隈で有名な奴の登場に、ちょっと笑ってしまいました。
さらに見つかったのは、深海に棲む魚たち。
頭部が異様に大きかったり、眼が緑色だったりとグロテスクな外見の深海魚です。
この岩の根本――深い海の中には、私たちの目にしたことのない不思議な魚がいるらしい。
シーラカンスのような、太古の昔からの姿を留める古代魚もいるかもしれない……。
番組では、そうした古代魚を求めて、最新の深海探査機を駆使。
数々のカメラが、未知の深海世界に向けられます。
そしてついに、カメラは謎の魚影を捉える……。
海中の調査は、ワクワク興奮しますし、面白かったです。
しかし私としては、いちばん印象に残ったのは海の上、孀婦岩の頂上でした。
研究者たちは、荒波で揺れるボートから岸壁に取りつき、断崖絶壁を頂上まで登っていきます。
頂上にあったのは、岩の地面とわずかな草地。
ここでの調査の目的は、頂上の岩石のサンプルを入手して、孀婦岩の成り立ちを探ることだったのですが……。
そこには岩だけでなく、生き物もいました。
小さな昆虫――ウミコオロギの新種です。
このコオロギの仲間である虫は翅がなく、おそらく他の陸地から流木に乗って、孀婦岩までたどり着いたらしい。
小さな体で大海原を越える冒険をしてきた彼らは、さらに100メートルの岩の柱を登りきり、頂上で生きてきたのです。
その生命力に、私は驚き、感動すらしました。
しかし……一つの事実があります。
この孀婦岩は荒波にさらされて、今も浸食されています。このままだと数百年後には、岩の柱は崩れて、海中に没している……。
おそらく、そのとき、ウミコオロギたちの小さな世界は滅ぶでしょう。
彼らがこのまま頂上で生き続けられたとしても、数百年後には滅んでしまう運命にあります。
前回の南硫黄島は、生き物たちのフロンティアでした。
「フロンティアを有する文明は衰弱しない」というように、生物たちは独自の進化を遂げながら、その島で生きていくでしょう。
しかし、今回の孀婦岩は、ゆるやかに滅びつつある世界です。
閉ざされた中で、どれほど懸命に生き抜いても、最後は決まっている。
その対比が、私に強烈な印象を残しました。
創作者の端くれとしては……。
ウミコオロギたちの誰かが、〝世界滅亡〟の前に再び流木の「方舟」に乗りこんで脱出し、新たなフロンティアに踏み出す――という物語を思いたくなりますが。
――以上が、今回の「秘島探検」の感想です。
「第2集 孀婦岩」はまた再放送があるかもしれないので、ネタバレを控えめに、ここまでで止めておきます。
上で書いてきたことは、ほんの一部です。番組には、さらにたくさんの見どころがあります。
ぜひ再放送か……あるいは、NHKのオンデマンドで配信されているので、視聴をお勧めします。
「南硫黄島」も「孀婦岩」も、本当に面白かったので。
……それにしても、NHKのドキュメンタリーは、当たると本当に良いものがあります。
「映像の世紀」(古いほう)は、私のいちばん好きなテレビ番組ですし。
もちろんNHKの中にもハズレがないわけではありませんが……。
これからも良い作品をつくっていってほしいものです。




