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ガラスノカケラ  作者: せんのあすむ
18/18

ガラスノカケラ 「エピローグ」

 そして、高校に通い始めて一ヶ月。F駅で帰りのバスを待ってたら、雨が降ってきた。

(参っちゃったなぁ)

私はちょっと空を見上げて、ため息を着く。最寄のバス停から家に走って帰るにしても、この調子だと雨は本降りになっているだろうから、濡れるのは避けられない。

 さてどうしたもんかと考えていたら、後ろから肩を叩かれて、私は思わず振り向いた。

「もーちゃん、ミーコ。あれ? 二人ともこっちじゃないよね?」

そこには懐かしい二人が立っていて、それぞれ新しい制服を着ながらニコニコしている。

「それはこっちの台詞。アンタ、なんでオーテンの制服なんか着てるわけ? 似合ってるけどさ」

 もーちゃんが、相変わらずの調子で話しかけてきてくれた。

「コーコちゃん、ほら、こっち来て」

 それに答えかけた私の腕を、ミーコが取って近くのドーナツショップへ引っ張っていく。

「…コーコちゃん、私に遠慮したでしょ? コーコちゃんが生山、落ちたって聞いて、びっくりしたんだよ、私ら、ねえ?」

席に着いてドーナツとドリンクのセットに手をつけながら、ミーコはもーちゃんにもフリながら、いたずらっぽく私を見た。

「オーテンだったら親にも文句言われないシンガッコーとやらだし? 金田とやらにも会わなくて済むし?」

 文句を言い掛けた私を遮って、もーちゃんもニヤニヤしながら言う。まさにそうなのだ。図星だから、私も思わず言葉に詰まってしまう。

「そうはトンヤがダイコンオロシってヤツよ、ほれ」

そこでもーちゃんが、私の後ろの店の扉のほうを指差すもんだから、つられてついそっちを見たら、

「…金田じゃん」

照れくさそうに笑って、公立高校の制服を着た金田が立っている。

「生山に受かったのはいいけど、小テストでアカテンばっかとって、親御さんが嘆いてるんだって。助けてやんなよ、コーコ」

「こればっかりは、私も無理だもん」

 言いながら、もーちゃんとミーコは、「お先に」なんて自分の分のトレイだけを持って、とっとと席を立っていった。

「…お前、ずりぃ」

 二人に「頑張ンな」「負けないで」なんてすれ違いながら言われて、顔を赤くしながら、それでも私の席の前に座った金田は文句を言う。

「入試問題に白紙で出した女子生徒がいるって、今でも語り草だぜ? 浜田や後藤が連絡とってくれなきゃ、

ずっとこのまんまだった」

「…ごめん」

 金田に対しては私、別に謝らなくても良かったと思うんだけどなー、って思いながら、それでも私が謝ったら、

「…これ」

「あ」

 金田は、ポケットから取り出した何かを、手のひらに乗せて私に見せた。

「…もしも」

「うん」

 そこで、すっと真面目な顔をして、金田は私をじっと見る。

「もしも…これから、俺と、彼女として付き合ってくれる気があるなら、これ、受け取らないでいてくれ」

(もう、あれから一年経つんだ)

その手のひらに乗っていたのは、あの修学旅行の時、金田が持っていった透明なシーグラス。

 私はそれに両手を伸ばして、金田のその手をそっと閉じさせる。それが私からの金田への返事。


 傘を持ってきていた金田に家の前まで送ってきてもらって、何気なくポストを見たら、

(あれ?)

そこには珍しく、宛名が私になっている封筒が入っていた。少し多めの切手が貼られているそれを、部屋へ持っていって開けながら、

(懐かしいな)

私は思わず微笑む。中に入っていたのは、彼なりに気を遣ったんだろう、

(『これ、返す。追伸…お前にあの時言われてやっと気付いたけど』)

青くて小さなメモ用紙と、他に何か小さなもの。

(今頃遅いって…もう)

その続きを読んで、私はその封筒へ改めてセロテープで封をしながら、切なさと一緒にほろ苦く笑った。

 鍵のかかる机の引き出し。その奥に仕舞い込んだのは、『お前が好きだった』と書かれた小さなメモ用紙と群青色のガラスのかけら。




FIN


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