ガラスノカケラ 「プロローグ」
「帰れ! お前ら、帰れ! 二度と来るな!」
入院していた彼が叫んだ。
…足元が、音を立てて崩れていくような気がした。頭の中が一瞬にして真っ白になって、私はそのまま、振り向きもしないで、一緒に来てくれていた二人の友達のことも忘れて、その病室からエレベーターへ向かって走っていった。
私の背中で、病室の扉が乱暴な音を立てて閉まる。そして、
「何、アイツっ!」
私を追いかけてきてくれた友達の一人が、憤慨して叫ぶ。
「せっかく見舞いに来てやったのに、帰れって、何っ! だからあんなヤツ、コーコには勿体無いって言ったじゃんっ!」
「…ごめんね、もーちゃん」
エレベーター、どうやって降りたんだろう。気が付けば病院の入口で、泣きそうになるのを必死に堪えながら、私はその友達に謝った。
「…コーコちゃん」
病院から出て、一番近い駅へ戻りながら…雨が降ってきたけれど、私達は濡れたまま…もう一人の友達が、そっと私の肩に手を置いて、
「でも私は、中畑君の気持ちも分かるよ。いきなり女の子が尋ねていったら、恥ずかしいかも」
「こらミーコ! 何言ってんのっ! とにかく、あんなヤツ、退院してきてもシカトしてやんな、ね、コーコッ!」
「…あはは」
私は、キノコ頭をしたこの友人へ力なく笑った。あの言葉を投げつけられた私本人よりも、勝気そうなもーちゃんのほうがよっぽど腹を立ててるって…ちょっと分からない。
各駅停車しか止まらない、小さな小さな駅。来る時のドキドキ感とは裏腹に、
(…帰りたくないな、家に)
人がいるから、泣きも出来ない。
お父さんやお母さんにも黙って出てきた『校区外』。来た電車は空いていた。
今の天気と同じくらい、情けない気持ちで家へ向かいながら、
「忘れな。あんなヤツ、コーコにはホント、勿体無い」
「…うん」
「コーコちゃんには、もっともっと、コーコちゃんと同じくらい頭が良くて優しい人、出てくるよ、ね?」
「うん…ありがとう」
私を挟んで両隣の席に座った二人へ、私は呆然としたまま、ただ頷いていた。
…TO BE CONTINUED…