第四話 ステータスオープン! なお――
楽しい食事の時間が終われば次は授業だ。しかも実技。席に座って眠気と格闘するよりも体動かしたり魔法ブッパする方が楽しいのだが、こんな大人数の前で、しかも明らかに派手な力持ってる奴が混ざってるとかテンション下がるわー。だだ下がりだわー。
「よし、準備運動は終わったな」
実技の一つ、剣術の担当教師が準備運動を終えた俺達を見回す。実技は別クラスと合同なので生徒の数が二倍だ。まだ十二歳の子供達ばかりなので列がわちゃわちゃしている。それと早く棒切れを振りたくてウズウズしている男子が多い。
「それじゃあ、まずは剣術スキル持ちと持っていない者に別れてくれ」
ある意味『二人組作って』よりも心を抉る言葉だった。
大昔の転生者カイザー・ブルーフェニックス――名前どうにかならんかったのか――が作ったステータス魔法は世界中に広まり一般的な魔法になっている。
ステータス魔法で明らかになるのは種族とスキル、アビリティの三項目。種族はそのままの通り。スキルはそいつが持っている技術、アビリティは種族的な特徴や持って生まれた異能、技術に拠らない力の事だ。
スキルは余程特異な技術でない限り下位中位上位の三段階に位が分けられていて、素人に毛が生えた程度では下位にもなれない。そして同じ位でも幅があって実力に個人差がある。
ちなみに、兵士である父やその同僚達から武術を仕込まれた俺だが剣術スキルは持っていない。
剣の素振りをしていたら棍棒を渡され、格闘訓練していたら喧嘩殺法はスキルとして表示されないと言われ、弓よりも石を投げた方が命中率が良いときた。
地元では|蛮族<バーバリアン>のテッちゃんとまで呼ばれてしまった。オーガ族の子供達の尊敬まで集めちゃったぜ、フッ――悲しい。
つまり最終的に何が言いたいかと言うと、カッコイイ英雄的なスキルを俺は持っていない。剣術スキルもだ。
「それじゃあ剣術スキル持ちは人形に向かって順番に振るんだ。持ってない方は今から持ち方を教えるぞ。知っていても、我慢して聞いてくれ」
初心者と経験者に別れて授業が始まる。ハーッ、かったるい。
「テリオン、お前……その、なんだ? フージレングの歩兵は剣じゃなくてメイスを携帯してたんだっけか?」
「各種族ごとに違いますけど地元は人間種族枠でした。つまりそういう事です」
「お、おう…………木剣じゃなくて棒にするか?」
「いらないです」
初見なのに教師からもお前才能ねーわと言われた。クソがッ! 何で剣の才能ねえんだよ!
自分の才能の偏りに悪態をついていると、派手な音が響いた。振り返ると、スキル持ち組の中にいたアクセルが十字型の藁人形を砕いていた。あーっ、せんせー、アクセル君が壊しましたー!
いや、何で人間族の子供の腕力で壊せるんだよ、ざっけんな。
「すいません先生。ちょっと力を入れすぎてしまったようです」
「あーはいはい。こっちが終わったら新しいの後で持ってくるから、並んでた生徒は別の列に並び直してくれ」
あはは、と愛想笑いを浮かべるアクセル。それウチの地元じゃ馬糞投げられるやつだから。
剣術の実技は怨念篭った素振りだけで終わった。単純作業は体が覚えてしまえば考え事して時間潰せるので楽だ。
剣術が終われば次の実技は魔法である。
「それでは皆さん、念力の構成は午前の座学で教えましたので、今度はそれを実践してみましょう」
はーい! と残念ながら小学生のノリにはならない。年齢的にはもう中学生だしね。しかも社会に対する自覚は日本と比べればこっちの方が早いのだからそんなガキっぽい事にならない。その代わり美人な女教師のブラウスを押し上げる胸部には視線が行ってしまう。
魔法関連の授業は座学と実技の二つに別れていて、後者は剣術の授業と同じく他のクラスと合同だ。だが合同授業は相方となるクラスが毎度変更されるので知らない顔ばかり……いや、昨日の放課後に見た狐耳の少女がいた。
目が合うと逸らされアクセルの方を見た。やっぱそうなるよな!
ちょっと悲しかったが前世で妄想の中にしか存在しない筈の美人教師の鑑賞に戻る。気が付けば床の上に置いたコインを念力で動かす事になった。
場所は野外から魔法を訓練する専用の施設へと移っている。体育館のような場所だ。その床に座って、駆り出されたコインを魔法で浮かせてみようという授業が始まった。
「力」
魔法の言葉を唱えればあら不思議、床に置いたコインが浮いた。
魔法に必要な燃料となる魔力は生き物なら何だって大なり小なり持っている。肝心なのはそれを操る才能だ。
魔力で魔法の構成を編めるかどうかが鍵なのだ。この構成を見て操る感覚は第六感と言うべきか、もう一つの目と指が出来たような感覚だ。そして最後に必要なのは媒体だ。編んだ構成を魔法として成立させるには言霊を唱える必要がある。
言霊は俺がコインを浮かせるのに呟いた力などがそうだ。他にも火、水などがある。用途に合わせて言葉を変えるが、ぶっちゃけ声を出すだけでも魔法は発動する。ただし威力はメッチャしょぼくなる。例えば、今コインを浮かせた訳だがいい加減な言葉を発せればコインはせいぜい揺れたかな? 程度だろう。
言霊だけでなく文字や図形を媒体にする事もできるが、ガチの数学とやたらと面倒な文字を暗記しなければならないので最もポピュラーなのが言葉の力だ。神話にもある。
ちなみにだが、フージレング公国のお偉いさん方は構成を編むの怠いとか言って代わりに精霊による魔法で済ませている。上位種族はこれだから妬ましい。
周囲を見ると、やはりと言うべきか貴族の子供達は簡単に出来ていた。入学前の彼らは家庭教師から既に習い終えているのだろう。逆に平民の子らは魔法の構築に失敗して発動しないか、発動しても加減を間違えて浮かすのではなく飛ばしてる。
というかデッドボールならぬデッドコインが顔面に向かって飛んできた。一番近いのが顔だったので歯で噛んで受け止める。
「ペッ……気をつけろよ」
「は、はいぃ! ごめんなさいでした!」
コインを暴投した生徒に一言注意しただけなのにやたらと怯えられた。口じゃなくて指で挟んで止めるべきだったか。でも前にそれをして一発芸だと思われたんだよな……。
「はーい、それじゃあ出来た人はあっちにある的に目掛けて好きに魔法を撃っていてください。上手くできなかった人は今から順に構成を確認しに行きますので待っていてくださいね」
経験者の扱い雑じゃないっすかね? いやまあクラス単位で授業を行っているから、早く最低限のラインに立たせる為なのは分かるけど。
初心者組から離れ、演習場に最初から置かれている的に向かって生徒達が魔法を撃っていく。
「うわっ、アクセルの魔法凄い威力だな」
「スゲェ、焦げてるぞ」
そしてここでもアクセルさんが派手にやらかしている。ケッ。
この演習場は威力のある魔法を使う前提なのでやたら頑丈な上に、魔法陣と文字を刻んで魔法障壁を展開させている。的だって壁ほどではないだろうが頑丈にしてある筈だ。それなのにアクセルは的を壊しやがった。
使用したのは炎の塊を放つ簡単な魔法だが、込められた魔力が半端なかったようだ。的の後ろの壁が焦げている。
「あっちも凄いぞ」
派手なのはアクセルだけじゃなかった。赤毛と金髪の二人の少女が使った魔法は的を完全に破壊するまでいかなくとも支柱を揺らし快音を響かせていた。
「流石はリズベット王女様!」
「隣にいるのはグッドスピード伯爵家のご令嬢か? 武の名門だけはある」
「そんな二人以上の魔法を放つアクセルもまた凄い。ステレウス男爵家も安泰だな」
貴族階級出身の生徒らが誰も聞いていないのに分かりやすく説明してくれる。多分、おべっかなのだろう。君達まだ十二歳だよね? それとも十二歳だから露骨なのだろうか。
それよりあの赤いのアーロン王国の王女様なのか。動きの節々と言うか何となく粗暴なので下町のわんぱく娘のようにも見える。もう一方の短剣を帯剣している金髪の方は何か武人の家系だろうか。ただ立っているだけでも姿勢が良い。だがこっちはこっちで動きが女子特有のなよっとした動きがなく、髪がショートカットなのもあって王子様のようだ。
隣国と言っても他国の事だから貴族とか王族はさっぱりだ。何か有名人とそれに匹敵するチート野郎に場が盛り上がっている中、俺はそっと壁の端による。
「火」
こっそりと魔法の火で壁を炙ってみる。焦げ目一つ付きやしねえ、クソが。
「こらそこー、無闇に放火しようとしない。……火を持たせると危険なタイプってあったけど、本当ね」
せんせー、最後のとこ小さく言ったつもりでもバッチリ聞こえてますからー。
授業がようやく終わって寮へと帰還。後は飯食って風呂入って寝るだけだ。こんな生活があと三年も続くと思うと憂鬱である。
「はぁ~~、かったる」
ぼやきながら寮の食堂で出された飯を食う。寮の食事は校舎のと違いメニューが決まっている。美味いから別にいい。ただ壁に貼られている『暴飲暴食』という張り紙が気になる。その隣には『喰って寝ろ』の張り紙もあった。何かの暗号だろうか?
「テリオン、だったよな。食事中に悪いけど少し良いかな?」
張り紙を眺めていると声を掛けられた。聞き覚えのある声に嫌な感じしつつ振り返ると、アクセルがイケメン微笑で立っていた。
「……何だ?」
「実は最初の休みに一年生の交流会をしようと思ってるんだ」
「へー」
え? そんなのすんの? 自主的に? マジかよこいつはマジモンのコミュ充じゃねえか。向こうにその意図が無くとも格差を叩きつけられるので止めて欲しい。
で、この男は大して親しくもない俺に直接伝えて何考えてるんだ?
「詳細は明日にでも寮と校舎の掲示板に張り出すんだけど、場所は広い校舎側の食堂。学園の許可も取ってある。お菓子とか持ち寄って歓談したり……あっ、カードやボードゲームとかの準備もしてるんだ。君も何か持ってきてくれてもいいよ」
「見てる分なら良いけどゲームとか弱いからしないようにしてる」
「そ、そうなのか…………」
嫌いではないんだが、どうも頭ではなく反射でやるので戦術性が僅かでもあるゲームは弱い。格ゲーでも最終的に読み合いになるからな。それとカードは紙の麻薬なのでやらない。ガチャもな!
「そ、それと一部の上級生も誘ってるんだ。一年生の兄姉とかだけど。聞いたところ学年を跨いだ交流って少ないみたいだからこれがキッカケになれば良いと思って」
「ふーん」
社交的で良い心がけなんだけど回りくどい。本題とっとと話せや。相槌打ってる間に飯食い終わっちまったぞ。ウチの地元じゃ『早よ言えタコ』案件である。話に気を取られてばかりいると飯盗られるから仕方ない。
「それで、テリオンから是非ともルシオ先輩を誘って欲しいんだ。昼の見てたよ。親しげみたいだったから――」
「無理」
「――え?」
そっちかー。何で俺に直接声をかけたのか納得。だが生憎と無理だ。
「親が前の仕事で一緒だっただけで俺とは直接関係ねえし、その程度で図々しい真似なんてできねえよ」
親の仕事先の同僚どころか一度一緒に仕事した取引先程度の関係だ。コネと言うのも烏滸がましい。
「そこを何とか。言ってみてくれるだけでいいんだ」
「断る。下手したら親への心象を悪くする。俺の父親はフージレング公国の兵士だ。仕事で少し顔を会わせた程度って言っても向こうが覚えていた以上、フージレング公国への印象を少しでも悪くなるような事はしたくねえ」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟にもなるだろ。なんたって、勇者様なんだから」
最後の部分は嫌味ったらしく言ってやる。コネを広げたい気持ちは分かるが、もう少しゆっくりできないもんかね。あんまり露骨だと嫌がるぞ。凡夫な俺とかな!
「そ、そうだな。無理強いするような真似して悪かったよ。それじゃあ、俺は戻るよ。あっ、勿論テリオンだって交流会に来てくれよな!」
最初と違ってちょっと引き攣った笑みを浮かべてアクセルは立ち去った。ハハッ、ザマァ。
が、周囲から何かヒソヒソされた。明確に何かを言ってる訳ではないが、女子から『えー、やだ』『アクセル君大丈夫ー?』的な会話が聞こえる。クソが。
「ごっそさん」
感じ悪いのでトレイを返却口に返してさっさと自室に戻る。二段ベッドの上では三毛猫が心地良さそうに寝ていてムカつく。というか鍵閉めて天井の板を固定したのに何故いる。
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