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第四十六話 リアルハーレムは役所の各部署の意見を一致させようとする努力に近い。


 前世と今世ともに歌姫と呼ばれた世界的歌手の歌声をゆっくりと聞けるような精神状態でなかった。

 しかも天狐族の男の話を熟考する暇もなく、コンサートが終わればパーティーである。俺の婚約者候補との顔合わせも兼ねていたそのパーティーの一部をお見せしよう。


「これは逆ヒカルゲンジプロジェクト?」


 転生者の知識に毒されたエルダーエルフのお姉様(御年ン百歳)。真面目な顔で何言ってんだテメェ。


「あ、青い果実……。ねえ、同性愛もイケル口?」


 転生者の知識に侵された(偏見ではなく記録にちゃんと残ってる)エルダードワーフのお姉様。死ねよ。


「一生養ってあげるわ大丈夫大丈夫私お金持ちだから年齢なんか気にしちゃダメよ不老の術はあるし寿命だって伸ばせるからだから君は何もしなくていいし何だって私がお世話――(以降ヤバいセリフが数倍続く)」


 ジャンケンで先鋒を勝ち取ったヤベー魔翼族の超危険な奴。目に光どころかブラックホールみたいだったんだが。


「ははははははぢィ――」


 挨拶で盛大に噛んだあがり症の吸血鬼の姫。えーと、口から血出てますよ。ああっ、霧になって逃げた!?


「えっとねーケッコンしたらパパとママ、グランパとグランマがよろこぶってーいっててねー」


 種族特徴として成長の襲い竜族の少女(年齢聞いたらひゃくチャイとか言ってた)。精神が子供なら合法じゃないんだよなぁ、おう保護者呼んで来いや。


「モテモテだね」


 月猫族期待のニュービー。お前、早速かよ……待てこいつ非合法だぞ! どこだチョビ髭!


「ケッ……死ね」


 単刀直入過ぎていっそ清々しい銀狼族の姫。初対面の時のように殴られなかっただけでも良かったとしよう。

 以上、俺が会った連中の一部でしたとさ。


「何か大きな問題抱えてるのが条件なのか? 正直言うと悪意を感じ始めてる」

「だって全員力はあるのに絶滅危惧種だぞ。問題あるに決まってるだろ」


 なにこのクソエルフ。埋めてェ。


「誰か気に入った娘はいたか?」

「今の話の後にそれを聞くか普通?」

「ボーダーを下げて良いなと思う者数人は覚えとけ。妥協は大事だ」

「切実ゥ! ……世知辛い」

「問題は趣味嗜好や性格だけなんだ。他の男達と比べれば恵まれた方だろう」

「厄ネタを持ってなければな!」


 資産家や権力者一家へと婿入りした場合のプレッシャーを想像すると吐きそうになるわ。それ以上に、長く存在する分相応の闇を抱えているのが歴史ある家の定番だ。寧ろ叩いて埃が出ない方が怖い。


「まあ、今回はこんなものだろ。アーロンには何時行くんだ?」

「唐突だな。あっ、アーロンで思い出した! なんか天狐族から色々酷い話聞かされた上に紅蓮石なんて物貰ったんだけど!?」

「長老会が許可した。いざとなればそれで王都ごと敵を殺せ」

「怖いわっ!? 俺、勇者先輩にボコられるかもしれねえ!」


 あの人の性格だから殺しはしないと思うが、状況によっては問答無用の可能性がある。


「その前にアーロンの『矢』で消されるかもな」

「待って。超待って。その『矢』って単語に不吉な気配がしたぞ。それ隠語の類だろ絶対」


 中二的ネーミングではないただ質素で聞き流してしまいそうな単純な単語ほどガチで危険だ。読み取るコツはニュアンス。難しい!


「アーロンの暗殺部隊の事だ」

「マジか」


 暗殺部隊なんてそれこそどこにでもある。だから別段おかしくはないが、わざわざオーメルが特別視しているというのが厄介な証だ。


「アーロンの王国の兵力についてどこまで知ってる?」

「ルシオさんがいるぐらい」


 アーロンの特記戦力と言えばあの人だ。それ以外だとぶっちゃけ思いつかない。だからって俺はアーロンが武力の弱い国とは思っていない。だって俺が録に知らないだけだし。


「あの勇者を隠れ蓑にして目立たないようにしているのも理由だが、元々アーロンは個人武勇に優れた人材は少ない」


 それって実はフージレング基準ではって前置きがつく奴だ。


「代わりに集団戦、特に防御が得意だ。独自の防御構築魔法陣を編み出していてな。単体では程々だが複数で行使すると範囲も効力も倍々になっていく」

「単純だけど強いな」

「複雑でない分穴も少ない。魔翼族の魔法も防ぐであろう防御力だ。決して侮って良い相手じゃない。そして肝心なのが、その防御陣で足踏みされている間に『矢』が来る」

「その『矢』ってどんだけ強いんだよ」

「強いと言うか……クッッッッッッソ厄介。まだドラゴンに単身喧嘩を売る方が精神的に良い」

「そこまで…………戦った事あんの?」

「無い。が、殺された他国の連中なら知ってる。『矢』のターゲットにされたら私はここにいない。死んだか大陸の外に逃げてる」

「えー…………」


 ハイエルフのトップにここまで言わせる『矢』とかドン引きだよ。


「『矢』は暗殺部隊だが、その手口は一言で言うと徹底的な弱点攻撃だ」

「いやそれ普通じゃないか?」


 弱点属性で攻めるのは基本。寧ろそうじゃないとダメージ与えられないどころか反射や吸収もありえる。


「そうだな、普通だな。そして弱点をカバーするのも普通だ。だが『矢』はそのカバーを剥がす行為を含めての弱点攻撃だ。それを読んだ上で対策をこちらで打っても更にその上を行き、堂々巡りになったところで何が何でも殺してくる」

「訳分からん。それって情報収集能力が半端ないって事か?」

「うーん……それもあるが、例えばここにエルフ絶対殺す剣があるとするだろ?」

「凄い例えだな」

「奴らはそんな剣が無くてもエルフ絶対殺す剣と同じ効果を持ったエルフ絶対殺すマンになる」


 『エルフ絶対殺す』がゲシュタルト崩壊しそうだったが、もっと意味不明な事をこのハイエルフは言い始めた。


「そういう特殊な魔法や技術があるんじゃない。対象を殺す手段があるならそれを習得し確実に殺すもっと根本的な技量や気概が『矢』の恐ろしさだ。短命な人間の中に時折いる――あっ、こいつヤベェ奴だ、とドン引きする奴が集まった集団だと思えばいい」


 勇者先輩に胡座かいてると思われたアーロンの戦力が一気に厄くなった。


「救いなのは数が少ないので戦争でも大将狙いしかして来ないとこか。あんなのが沢山いたらそれはそれでこの大陸は修羅に満ちているが」


 フージレングだって魔境なのに何言ってんだこいつとか思ったが言わない事にした。もう『矢』でお腹一杯だ。


「もう家に引き篭っていたい」

「婚約に前向きになったのならそれでもいいんだが……アーロンにいる転生者が気にならないのか? あの時自分がいれば何かできたかもとやらなかった後悔が襲って来ると思うんだが?」

「その言い方卑怯だぞ! いや待て、俺は国家を揺るがすような大事件を解決できるような人間じゃない。その手には乗らないぞ」


 後先考えなければ相応の戦闘能力を持ってはいるが、ぶっちゃけ物理的にも精神的にも死ぬのは怖いと思うのが人間だ。そもそも単純な武力で解決できるなら他にも適した人間はいるし、それでままならないのが世の中だ。

 そういうのはさぁ、もっと運命に愛された系のご都合主義な英雄様がやる事だろう。主人公補正とかホント人生舐めてるよな。


「同郷の人間が迷惑かけたら恥ずかしくならないか?」

「元な! 元、同郷な! だいたいアホのやらかしまで責任持てるかァ!」

「別に責任を持つ必要はない。何かあればこっちでやるから」


 それなら一層、俺必要ないですよねぇ?


「でも星詠みで転生者が関わるのが判明している以上、お前が欠けると何が起きるのか分からないのがネックだ」

「これだからファンタジー世界の未来予測はよォ!」


 朝の天気予報よりも信憑性高いから質悪い。占いとか鼻で笑ってた前世の価値観が懐かしい。


 ◆


 結局俺はアーロン王国への留学を続ける事にした。色々と聞かされてしまった以上、放置しても気になってしまうのはムカつく事にクソエルフの言うとおりだった。

 なんか転生者で重力操作と未来予知の二つの能力を持っているアクセルがま~た頓珍漢な事しないか心配だし、と言うかあいつ俺がリズベット王女を殺すとかいう予知してた筈だがアレはどうなったんだ?

 それになーあいつもなー。アナスタシアとかどうにかならんのか? ぶっちゃけ関わりたくないがヴァレリアもアーロンにいる以上謎の引力が発生して例え遠くにいても俺に飛び火しそうな予感がプンプンする。

 天狐族に言われた話も気になる。まさかとは思うが、あのサラサとか言う獣人は関わっていないと思うが、本人でなくとも繋がりが何かあるかもしれない。狐ってだけで疑うのも気が引ける話ではあるが。

 しかし、まさかまさかの悪逆帝大復活とかなったらどうしよう。その時はデネディアを放り込んで紅蓮石ポイして逃げるしかねえな。

 いざとなったら猫耳が固定されるの覚悟で月猫族の血をフル活性化させて空間の裏側に隠れて逃げよう。アイテムチートとか如何にもクッソ面倒臭い奴の相手なんかしてられない。お前、青い狸っぽいロボットを相手にしろとか言われたらどうよ? 逃げるだろ。


「行きの馬車も私と一緒よ、テリオン」

「お前ッ、世界でも有名な未来からやって来たロボット相手に戦えるのか!?」

「ええっ!? なに? 何の話!?」


 ねっとりとした声で耳に息を吹きかけてきたデネディアに向かって思わず怒鳴る。アーロンへ戻る為の移動手段だが、帰省の時と同じくデネディアの馬車に便乗する事になっていた。

 既に馬車は目の前にあり、既にヴァレリアが乗っている。あとはロータリーでうだうだやっている俺達が乗ればすぐに出発だ。


「ヴィターニア」

「………………」


 かつて悪逆帝に味方した魔翼族の名を口にする。するとデネディアの作った表情が凍りついた。明らかに地雷だが、言わせてもらおう。


「クソじゃんそいつ! しかも死んでなくて封印されてるだけって! ちゃんと殺しとけよ!」

「そのぐらい強かったのよぉ!」


 魔翼族の裏切り者で悪逆帝ジンに味方したヴィターニア。前にそいつに対するデネディアの恨み節を聞いたが、オーメルから聞いた話だと余計酷かった。

 魔翼族はリアルアマゾネスで男を誘拐しまくって嫌われているのがデフォだが、ヴィターニアは老若男女関係なく人体実験の為に人を誘拐し、その対象は同族にも及んだ。

 人体実験するマッドサイエンティストとか漫画だと悪辣極まりないというのがお決まりの悪役で、現実だと頭のイカレタ畜生だ。

 ただこのヴィターニアはガチで強い。ただでさえチートな魔翼族の中でも総出で相手しないと封印で精一杯だったバグ女。

 こいつだけでなく、例の天狐族だっている。


「五百年前どんだけ地獄だったんだよ!」

「大陸の中央部って平地とかへこみの多い丘が多いわよね? そういう事よ」


 怖いわ!


「アーロンが嫌になった? なら私のところにおいでなさいな。 オーメルの言う事なんか無視して」

「いや、憂さ晴らしに怒鳴りたかっただけ。アーロンには行くから」

「……テリオンって、亭主カンパクな気質があるわよね」


 ねーよ。そこまで本当に思い通り振る舞えたら前世であんな死に方してねえし。

 デネディアを無視し、俺は学園に戻る馬車の扉を開けて中に入ったのだった。

 あー、戦場に行く気分になってきた。


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