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第四十五話 偉い人間と言うのは下々の都合などお構いなしだガッデム!


「儂ら天狐族は死相を見るとか言われているが、実際は相手が運命をどう動くのか推測しているだけだ。星読み達が運命という大河の流れをまず観ているのなら、天狐族はその中に泳ぐモノを先に観る」


 大きな運命の流れから人を見るのではなく、その中にいる魚か木の葉を見てその進む先を見ている――ということだろうか? うぅん、分からん!


「世界史か人物史かの違いだ。ただその違いが……なんだったか? プライバシー? とにかく個人の人には知られたくない部分まで知ってしまうからな。それこそ本人が知らない事まで。だから嫌われているのさ」

「はぁ……」


 それって単純に口滑らせなきゃいいだけだろ。


「お前さんは心が鈍いのかもしれんな」


 俺の顔を見、心を読んだかのように天狐族は言う。嫌われる理由はそういうとこなのではなかろうか?

 天狐族の男が微苦笑を浮かべた。


「まあ、そんな訳で我ら一族は自重して山奥に普段は引き篭っているのだが、時に一人や二人は跳ねっ返りが誕生するものだ。その一人が、悪逆帝の配下になっていた」

「でもそれって五百年も前なんですよね?」

「五百年前でも、我らはしっかりと覚えている。フージレングには長寿な種族が沢山いるだろう」


 その通りだ。

 大きな戦争があったとして、経験した世代は当然覚えていて、次の世代は上から教えられた何かしらの感情を抱く。だがその次の世代は?

 世代を重ねるごとに当時の事はただの歴史となってその感情を共有する者はいない。日本なんて五百年前は未だに同じ民族で内ゲバ真っ最中で、いまや創作のネタにされまくってるというね。

 しかしフージレングは違う。当時から生きているのが大量にいるのだ。


「お前が留学しているアーロンが建国した時も話題に上がった。悪逆帝の城跡を王都にしたからな。五百年の間に幾つもの国が生まれては滅びを繰り返し偶々その立地になったのは分かるが、我らからすると不吉過ぎた」

「でしょうね。でも、俺に言われても困りますよ。城を壊せと言われても無理です」

「逸るな。そうではない。一族から離反した者がいると言っただろう。五百年前の戦で死亡が確認されていない」


 天狐族の寿命は知らないが、相当長いらしい。しっかし、魔翼族といい結構なエルダーが悪逆帝側についたようだった。一体何者だったんだろう?


「小者だ小者」

「…………」

「心を読んだ訳じゃないぞ。顔を見れば表層心理の上澄み程度は読める」


 顔色見ろば分かるとか止めろよ。無表情が多いとか言われていた日本人が前世のせいか今世も何もなければ無表情なのだが、こうも言い当てられると不気味だ。


「それよりもだ、こっちの話だ。一族の恥部がアーロン王国にいる可能性がいる」


 えー。厄いの追加かよ。


「と言うかいる。お前からあいつの縁がプンプンする。大丈夫か? いや、本気で」

「え? ……ええっ!?」

「アーロンで仲良くなった女とかいないか? 愛想良く近づいて色仕掛けてその気にさせながら、いざってタイミングで裏切るのがヤツの常套手段だ」

「ハニトラじゃん! 俺、まだ十三だぞ!」

「そうだな……ショタ好きそうなエロい女教師とかいないか?」

「いねえよ! てか何でちょっと期待してる感じ!?」


 何でフージレングの上層部は最後まで真面目にできねえんだよ! 初対面だから敬語使ってんのに早速突っ込みで剥がれただろ!

 ちなみに女教師はいてもエロいのはいない。当たり前だよな。保健室の白衣美女とか漫画の世界だけなのはこっちでも同じだ。


「ほんとに? 照れてたり後ろ暗くても正直に言った方が良いぞ。気づけば底なし沼なんだからな」

「ほんとだよ! そもそもそんな

ラブコメもどき…………」


 そういや、やたらとパンチラ(チラっつうかモロだったが)する狐の獣人女子がいた。

 まさかアレ? あれで色仕掛けなら俺は愛想笑いで女子から告白受けれるぞ。


「あるのか。どんな奴だ?」


 そこでシリアスな声出さないで貰えますかねぇ。説明するけど。


「零点だな。容姿が良ければ五点。天然なら十五点。だが色気のない下着で結局零点だ」


 パンツに厳しい採点だった。真面目な顔してこれだぞ。やっぱ上位種はクソだな。


「それで、探してる人ですか?」

「年齢は合ってないが、外見などどうにもなるからな。だが奴ならそんな犬も笑わないようなアピールはしない筈だ。加えて言うなら表面は大人しくしてても傲慢さが滲み出ているからな」


 じゃあ、違うか。一応、心に留めておく程度はしておくが。


「心当たりはそれ以上無いか。まあ、そう簡単に見つかるとは思っていなかったから構わんが」

「力になれなくて申し訳ありません」


 社交辞令である。


「気にするな。お前はこれから大変だからな」

「はい?」

「星詠みの情報はこっちにも来ている。大変だなお前。何度も言うが大変だな」

「不吉な事言うの止めてくれません!?」

「いや、枉法徇私の中でも武闘派のディエゴやヴィルヘルムが現れたのだろう? 悪逆帝の配下には奴らの仲間が多くいた。悪逆帝の遺産が目的と考えるのが妥当で、きっとアーロンは目を覆いたくなるほどの惨事に見舞われるのは間違いないな」

「うわああああぁぁっ、マジで止めろよ! てか、そんな上層部が手を回して俺に忠告するぐらいならあんたらが行けよ!」

「儂らが行くと内政干渉になるだろ。魔翼族のデネディアを大使として送り込むだけでも問題なのに」

「そもそも俺が行く理由になるんですかねえ? クソエルフにも言ったけど」

「そりゃお前、いざとなればお前さんの重要性をバラしてフージレングの最高戦力で討ち入りよ。いつでもカチ込めるよう準備してあるの、オーメルから聞いておらんのか?」

「聞いてねぇーーーーっ!!」


 それ内政干渉どころか戦争じゃんか! あのクソエルフ、何だかんだ言いつつ俺を国内の餌にして他所に喧嘩売る材料に…………いや、違うな。

 エルフは縄張り意識が強い分、他所の出来事には無関心だ。挨拶とか礼儀弁えてる奴には縄張りに入れるなど寛容でもある。

 堪にはみ出しものも出てくるが、そんな奴が公王になれる訳もない。

 オーメル含む上層部がしたいのは戦争じゃない。落とし前だ。


「…………悪逆帝ってのはどういう奴だったんですか? 皆が皆、嫌ってるのは分かってるんですが」


 さっきも悪逆帝の遺産とか言っていた。フージレングの上位種が長生きで大昔の事を忘れていないにしても引きずり過ぎだと言える。

 ジー様バー様達は今では引退して思い思いに日常を送っているのに、悪逆帝に深い恨みを抱いたままだ。


「ふむ……悪逆帝にはどこまで知っている?」

「五百年前に大陸全土を支配しようとした覇王。己の欲望にのみ従い、非道の限りを尽くした魔王。このぐらいですかね。あとは当時生きてた人らにメッチャ嫌われてる」

「合ってるが八割の情報だな」


 これで八割言い表せられる人間って何だよ。


「先に言ったが、奴は小物だ。配下が多かったのは単に力に屈服したか煽てれば木に登る性格を利用していた連中ばっかで心から奴に忠誠を誓った者などおらんと断言できる」

「そんな王様がリアルにいたとは……」

「その通り。王らしい所など一つもなかった。ただ奴には厄介な力があった。ギフトかアウターアビリティかは知らないがな」


 思わず顔を覆った。転生者だね、うん、転生者。違ってても――いや、違ってて欲しい。

 俺とは赤の他人どころか大昔の話だが、転生者が迷惑をかけたとなると申し訳ないやら恥ずかしいやらの気持ちで一杯になる。だからどうか転生者でなく現地人であってくれ。


「奴の能力は道具の性能を無制限に最大限に引き出すというものだった」


 アイテムチートですね分かります。いや、そんな都合良く手に入るものか?


「そして運も良かった。当時、強力な魔導具が発掘または開発が盛んで奴は尽くを盗んだ。鍵も道具であるから、無意味だったからな」


 わぁ、チートだクッソ羨ましいなオイ。こちとらオンリーワンでも自我崩壊とのチキンレースなのに巫山戯やがって。


「奴はアーティファクトをかき集める過程で仲間を集めた。その中には我が一族の裏切り者もいる」


 何かゲームやアニメのどうやって集めたのか分からない敵幹部の連中みたいだな。


「悪逆帝はそうやって力を蓄えた後、自分が住んでいた国を占領した。王族全てを殺してな。その後は人質、恐喝、洗脳と駒を増やして軍事力を拡大。魔獣召喚なんてアーティファクトも使い周辺国を攻め滅ぼした」

「何でまたそんな覇王っぽい行動を。不毛の土地だったとか?」

「美女は全て自分の物、俺に歯向かう奴は殺す。そう言って憚らなかった畜生だぞ」


 言葉も出なかった。そんな典型的なクズい奴が現実にいるなんて信じられない。現実は小説より奇なりとか言うが、マジかよ。


「信じられないだろうが、実在したんだ。当然周囲は敵対したが、歴史に名を残し悪逆帝などと呼ばれる程の領土を手にするだけの力があった。大陸中の残存する国々が連合を組まなければ本当に大陸は奴に支配されていた」

「最悪っすね」

「最悪だ。小物に力があった典型的な例だ。だからこそ笑い話にもならん。そういう訳で儂らは悪逆帝の再来を警戒しておる」

「復活でもしそうな言い方ですね」

「奴は多数のアーティファクトを所持していた。その中にはそんな効果を持つ物があってもおかしくはない」


 復活とか続編で性懲りもなく出てくるしつこいボスじゃん。取り敢えず敵キャラ少ないから出しとこみたいな、こいつのせいにしとけば良いよ的な。恥ずかしげもなくラスボス張り続けていいのは古き良きアクションゲーだけだぞ。

 あれ、そういえばこの世界での死者蘇生って……。


「復活って……それってつまりリビングデッド化ですよね」


 死者蘇生と言うには語弊はあるが、死んで肉体を離れた魂を輪廻に囚われる前に回収して戻す方法はある。だが、一度死んだ事に変わりはない。

 要はゾンビだ。肉体を新鮮に保っても生き返った者は動く死体扱いで、それに加えて詳しくは知らないがいくら肉体を補填しても死んだ魂の影響が出るらしい。

 そもそも魂を引き戻す方法は禁呪だ。術の難易度が高く人生の一生をかけても凡人では不可能と言われつつも死者蘇生の術を所持、研究をした者は問答無用で投獄されるのが各国共通の常識だ。


「そう。そして天狐族は禁呪を幾つも管理している」

「で、一族の中から悪逆帝に味方してた奴がいて、加えて言うなら現在進行形で元悪逆帝城跡地のアーロンで暗躍している可能性があると」


 天狐族の男は晴れやかな笑顔を浮かべた。いっそ開き直ったような清々しさがあった。


「ふっざけんなよ俺の人生! これもう婚約云々とか言ってる場合じゃねえ!」


 種馬になるのが嫌で誰もいない山奥に引き篭りたいとか思ってたけど、今は世界の滅亡的に引き篭りたい。


「そんな前途多難な若者に選別をやろう」


 そう言ってお手玉みたいにひょいっと何か石を投げ渡される。

 それは鈍い青色の親指ほどの大きさの鉱物だった。何かの結晶か、魔法を封じた魔石の類か。


「これはなんですか?」

「紅蓮石」

「へー、紅蓮石……グレンセキ……はぁ!?」


 ビビって体が跳ねる。それで思わず石を落としそうになるが慌ててキャッチしようとして指先で弾いてしまい、慌ててそれを拾おうとして何度か同じ事を繰り返してしまう。

 だってしょうがねえだろ! だってコレ、コレってアレだろ!


「ぐ、ぐぐぐぐ紅蓮石って、あの紅蓮石!?」

「オーメルの許可はあるが、見せびらかさないようにな」

「そんな事したら即座に殺されるわ! あんた、なんつー物渡してきやがる! か、返す!」

「持っていれば良い、若いの。お守り代わりだ。何もなかった時に返してくれればいい」

「いや要らないから! こんなの使う日は来ないから!」

「こんな事もあろうかと、と言えるチャンスだぞ良かったな」

「良くねぇ! 話聞けよ!」

「話が長くなってしまったな。コンサートも佳境に入ったぞ。せっかくの歌姫の歌なのだからこの特等席で最後まで聞こうではないか」

「聞けやクソ狐ェッ!」


 俺の切なる叫びはコンサート会場から聞こえるヴァレリアの歌と観客達の歓声によってかき消される。これだから上位種はよォ!


<天狐族>

人相見によって相手の運命を推し量り、独自の魔法理論によって行使される呪術によって敵を呪い殺す。

フージレングの目立たないけどヤベー種族そのX。

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