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第四十四話 特等席だけど死の十三階段っぽい


「孫に顔を忘れられた」


 そんなこと言ってざめざめと部屋の隅で泣くのは熊の獣人だ。立派な髭を持ち耳が毛むくじゃらで丸い。何よりデカイ。三メートル近い体躯に見合った広い肩幅。毛むくなくても熊だと言える男だった。

 結構ガチで殴ったんだが物理より精神の方が参っているらしい。


「ごめんねぇ。どうして来るって言ってきかなくって」

「いや、それはいいんだけど……」

「孫に顔忘れられた」


 一度も会った事ないんだから忘れる以前の問題である。

 三角座りして隅にいても邪魔なぐらいデカイ男の後ろには俺ともう一人、緑色の髪の植物っぽい、て言うか実際に植物の蔓が首筋から伸びている女性が頬に手を当てて立っている。

 俺の祖母である。

 母方の祖母で母と似ているのは年齢に似合わず若々しいという点だけで、身長は勿論種族的特徴がまったく合致しない。

 だが俺の母もまた混雑種――かっこ木精族かっことじ、である。俺ほどごちゃ混ぜではないが、ぶっちゃけ見た目で判断できない。

 で、母方の祖母とは何度か会っているのだが祖父には会った事がない。ただ獣人ではあると聞いた。そして目の前には俺の事を孫と呼ぶ泣き熊が一人。


「もしかしてさ……これが俺の祖父ちゃん?」

「そうよ」

「そっかー」


 そんな感想しかなかった。

 よく知らないが、母と祖父の仲はあまりよろしくないと察していた。詳しい話は知らないが、母の友人や父の曖昧な説明によれば、父との仲を認めない祖父に母がブチ切れて縁を切っているらしい。

 駆け落ちではない。現に祖母は偶に家に遊びに来ていたのだから。ただ当時について母は未だに許してないらしく祖父だけが会えていなかった。

 表でのあの母の慌てようはこれだったのだ。


「おかんにバレたらヤバくね?」

「お爺ちゃん、お髭毟られちゃうわね」


 怒ると凶暴になるからね、あのロリ母。


「で、おかんの目を盗んで俺に会いに来た理由は?」


 つっても既にバレてるから髭毟られるのは確定なんだが。


「孫の顔見に来たらいかんのか!?」


 泣くなよ。初対面なのに早速鬱陶しいぞこの爺さん。ほら、部屋にいる他のお客さんが困ってるだろ! チラホラ知り合いもいるんだから恥ずかしいだろうが!

 ゲッ、出会い頭に人を打ち上げた銀狼族の子もいるじゃん。やべえよ、メッチャ睨んでる。流石にまた吹っ飛ばされるのは勘弁なんだけど。

 俺の心情を察してくれたのか、婆さんが爺さんの肩を掴んで揺らす。熊が女の細い腕でぐらんぐらん揺らされている光景はシュールだった。


「ほら、いつまで拗ねてるんですか。人前なんですからそろそろ立ち直ってください」

「う、うむ……そうだな」


 長年連れ添った嫁の言葉はしっかり届くらしい。ゆっくりと起き上がって俺に向き直る。


「ごほん……あー、改めてお爺ちゃんだよ」

「ああ、はい。初めまして。で、何の用?」

「ハ…………ッ」


 何かショック受けた。


「いやさ、おかんの目を掻い潜る機会を狙ってたのは分かるけど、俺ってほら、アレだし。ちょっと今微妙な時期だから」


 いかん、総父母が俺の立ち位置についてどこまで把握しているのか知らん。ウチの両親もフワッとした感じの理解度で父は立場上把握しているべきだが上司のオーメルに丸投げだ。

 というか、ここ貴賓室なんだよなぁ。え? まさか母の実家って良いトコだったりする?


「テリオンの混雑種としての状況は分かっているつもりだ。でもなぁ、儂は純粋に孫に会いたかっただけでなぁ」

「お爺ちゃん、ほら拗ねてないでついでの用事を話しましょうよ。無駄に延ばすから不審がられるんですよ」

「そ、そうだな……」


 祖母のフォローで取り乱す寸前に落ち着きを取り戻す祖父。見た目は亭主関白だがこれは無自覚に妻の尻に敷かれているパターンだな。


「私の部族が仕える一族の長がお前に会いたいらしくてな。今回のコンサートは都合が良く、祖父である儂に仲介を命じられた」


 フージレングの名門と言うか歴史ある一族はだいたいどこかのグループに入っている。別にガチガチな上下関係に固められてる訳ではなく、明確な主従関係は宗家を中心とした一門ぐらいだ。

 例えば我が家だとエルフの血が流れている父は一応エルフ部族の枠内だ。その上にハイエルフ(例:オーメル)の一族がいて、更にその上にエルダーエルフがいると言った具合だ。

 獣人系の場合は必ずしも上が獣人とは限らない。デネディアのとこにいた有翼族のように、強力な種族の配下として属するパターンもある。寧ろ数ではそっちの方が多い。


「捕食者――嫁? 候補ならこの後のパーティーの時にして欲しいんだけど。というか、実は爺さんの家って結構偉い?」


 明確な役職についてないとフージレングの部族の力関係はイマイチ分からない。偉い人でも野性味溢れてたり庶民的だったりするからなぁ。


「外国で言うと辺境伯クラスかしら? お隣の国とも接しているし」

「そのぐらいだろうな」


 めっちゃ偉いやん! 母親、マジのお嬢様やん! これは駆け落ちさせた父がクソなのでは?


「話を戻すが、他所のように混雑種云々の話じゃない。詳しい事は私も知らされていないが、御当主が是非とも会いたいそうだ」

「どこの部族?」

「天狐族」

「………………」


 またレアな種族で。

 俺は種族がアレなせいもあって立場や年齢に反して多くの種族と面識はあるが、天狐族を一度も見た事はなかった。


「今すぐに会いたいと言っている」

「今って、もうすぐコンサートが始まるんだけど」

「すまない。せっかくの歌姫のコンサートだが、そういう時でもないと会えないのだ」

「……分かったよ。会う。御当主はどこに?」


 貴賓室を見回してみるがそれらしい種族の者はいない。どこか別の部屋で待っているのだろう。


「部屋を出ればわかる」


 雑ゥ! だがフージレングでは割とある。伝達ミスとかの懸念は起きそうなものだが、本人らが意識していないこんな演出をできるのは実はこっそりこっちを見てるのだ。

 ストーカーと手法は変わらん。本人を前にして――いや、過去に何度か言った事あるわ。そしたら暗黙の了解云々と反論された覚えがある。知らんがな。

 まあ、言われたからには行くしかない。


「じゃあ、行ってくる。あと、おかんにはバレてるから」

「――え?」


 何故バレていないと思っていたのか。隣で祖母が呆れている。

 蜂蜜取ろうとして蜂にボロクソにやられた熊のような情けない顔をした祖父を放置して貴賓室を出る。

 お? ……お、おおっ。

 途端に特定の通路がメッチャ気になる。視線誘導的な何かをされているようで、気になる方向へと進めば目的地に到着できる仕組みのようだ。

 …………これ、効果はショボく思えるが呪いの類だよな? サラッと怖い事すんなよ! これだから上位種はよォ!

 呪いの誘導にホイホイ従って行き着いた先はコンサートホールの屋根だった。平然と空を飛べるこの世界ではもっとも厳しい警備場所の定番なんだが、それらしい姿は見えない。

 えー……素直に怖い。

 伝説の殺し屋でなくとも狙いたい放題だぞ。


「警戒するのも分かるが、周囲から見えぬようになっている。安心しろ」


 声が聞こえたのでその姿を探す。すると正面の方にこっちに背を向けて座っている男がいた。

 ドアを開ければすぐ見えた筈なのに気づけなかった。言い訳じゃないが、俺が注意力散漫だった訳じゃない。


「もう少しこっちに来るといい。ちょうど始まったぞ。ここからの眺めは絶景だ」


 コンサートが始まったらしく、ヴァレリアの歌声が聞こえてきた。アーロンの学園でお行われたアイドル的なものと違い、本格的な歌手のコンサートな感じだ。両者の違いを正確に述べよとか言われたら無理だが。……よく考えたら学園と元からのコンサート会場じゃあ施設がダンチだったな。

 そんなどうでもいい考えをしながら平静を保ちつつその男の場所に近づく。

 種族名に『狐』と付くだけあって狐の耳と尻尾が生えている。

 一見すると普通の獣人族に見えるが、特殊な力を持っている点は月猫族と同じと言える。ただし天狐族の方がもっと希少――と言うか表に出ない。

 普段は自分らの隠れ里に引き篭っていて、フージレング全土の行事でもその姿を見ることはない。


「大した歌声だ。重い腰を上げてやっては来たが、これだけで釣りが来るな」

「だったらちゃんとした部屋で聞きません?」


 屋根の上からはステージがよく見下ろせ、ある意味特等席ではあるが不審者である。それに手摺なくて危ねえよ。


「儂ら天狐族は疎まれとるからな。祭りに水を差す訳にもいかん」


 そう言いながら振り向く天狐族の男の目は銀色に輝いていた。

 天狐族は畏れられているところがある。特異な魔法と言える呪術を扱う種族だがそんなの他の種族だって使えるのいるし魔翼族が物騒なの筆頭で加えて嫌われ者一位なので気にするレベルではない。

 ただ天狐族は死相を見る。第三者から聞いた話でどこまで信憑性があるのか不明だが、相手の死期と死に様が見えるのだと言われている。


「ふむ……もう死んでるなお前」

「そりゃあ、転生者だから」


 そうなんだよなぁ。死相が見える? 一回死んでるのに何を今更。そりゃ今世の死期だって見えるのかもしれないが、一度死んだ人間とか寧ろ遅すぎるくらいだ。

 俺だって死ぬのは嫌だし痛いのも怖いのも嫌だ。だけどまあ、冷静に考えれば死んでない方がおかしいのだし。


「転生者は前世の死臭が強く残っとるせいでよく見えん」


 死臭とか言わないでほしい。


「ん? お前、コンサート中に死んだのか……んん? なんだ、歌姫とは前世から知り合いだったのか?」

「そんなのまで分かるんですか?」

「そういう縁が見える。そこから糸を手繰るように引っ張っていくとな。参照できるのがあれば推測も簡単だ」


 ほぼ確実だった訳ながら可能性が高い程度に留めていたのに、天狐族にそう言われてしまったらもう言い逃れは出来ない。ああ、鬱だ。


「そんな顔をするな。こんな所に呼び出した理由は、身内の恥を他に聞かせたくないからだ」

「身内の恥ですか?」


 はて、天狐族と会うのはこれが初めてのはずだが。


「事の起こりは五百年前、悪逆帝が大陸を支配しようした時に遡る」


 また悪逆帝かよ!


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