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第四十三話 何で地元なのに胃を痛めるのか


「俺の子種を高く売りつけるにはどうすれば良いと思う?」

「ブホッ!? ――ごほっ、けほっ!」


 オーメルの執務室にアポ無しで突入に休憩のダシにさせられた俺は早速本題に入ったのだが、ハイエルフ様は紅茶を吹いて暫くの間噎せた。


「汚ぇ……」

「お前がっ、いきなり、ゲホッ、コホッ」


 どうやら気管に入ったようで回復するには時間が掛かりそうだった。

 こんなオーメルの姿を見るのは初めてで愉快だったのでハイエルフ様が落ち着くの満足した気持ちで待った。

 漸く落ち着いた頃、オーメルはティーカップを脇にどけて腕を組むと真っ直ぐに俺に視線を向ける。シリアスな空気を出そうとしているところ悪いが、胸元に紅茶の跡が残っていた。


「……どういう心境の変化だ?」

「言ったまんま。てか、あんたなら動揺せずに寧ろ不敵な笑みを浮かべるぐらいすると思ったんだけど」

「いや、私はお前が最後の最後まで粘って監禁ルートに行くと思っていたから」

「それをさせないようにするのがお前の役目だろオラァン!?」

「それでも限界はあるんだよヘタレ!」

「お前、魔翼族に迫られて逃げない自信あんのか!?」

「よし分かったこの話は止めだ」


 度々ネタにする魔翼族だがネタじゃないところがあの種族の恐ろしい点だ。


「真面目な話、俺も思うところが無い訳じゃないんだ。つかどうせ最終的には逃げれんし」

「……ヴァレリアか。歌姫は人を魅了するだけでなく、心を解きほぐす声を持っているようだな」

「なんでそこでヴァレリア?」

「前に会った時から今までそんな変化が起きそうな切っ掛けで思い当たるのは彼女ぐらいだろう」

「邪推の類だな」


 ぶっちゃけその通りだけど素直に肯定するのも悔しいし、下手に否定したり無言だったりするとそれはそれで勝手に肯定扱いするので無難な返事をする。


「何にしてもお前が多少なりとも前向きになってくれて助かる」

「つってもいきなりどこかにすぐ婿入りとかは嫌だ。それにただで行くのも何か勿体無い気がするから高く売りつけたい」

「大した小物っぷりだが、安心しろ。元々シーザーの息子を安く売るつもりはない。混雑種でなかろうとな」

「……前々から疑問に思ってたん、だが、おとんの評価高くない?」


 シーザーは俺の父親の名だ。一応、公主付きの兵士に当たるがそこまで目をかける程の地位じゃない。


「む……まあ別に話しても構わんか。お前の父親はエルフの血が流れてるのは知っているな?」

「うん」

「昔いた私の側近の子孫なんだよお前達は。五百年前の悪逆帝との戦争で多くの部下を死なせてしまってな。その子孫達をどうしても気にかけてしまう。感傷、というやつだ。お前が気にする事じゃない」

「…………」


 何でもないように言うオーメルの表情は窓からの逆光でよく見えなかった。


「話を戻すぞ。お前が前向きな態度を見せれば他の部族達が無理に接触してくるのも減るだろう。ある意味、焦らして自分の価値を高めた訳だから高く売りつけたいという希望の最初の一手は既にお前自身の手で打っていたようなものだ」

「まーじで?」

「ヴァレリアのコンサートがもうすぐあるな」

「いきなり何だ?」

「その後にパーティーが行われる。主賓はヴァレリアで多くの部族の著名人達が集まる。そこに出ろ」

「えー」


 ああいうパーティーって苦手だ。特にフージレング内では厄介だ。部族によって形式が違う。仮にも国として団結しているのでその辺りを摺り合わせた一般的なパーティーの形式はある。ぶっちゃけ他の国と大差無い。

 違うのは、後半から酔っ払いどもの醜態が当たり前のように晒されるという点である。

 外賓がいるからそんな事態には流石にならないけど……ならないよな? やっべ、一般常識とフージレング常識を天秤にかけると圧倒的に後者が地下に落ちる。


「うん……やだ。俺は静かに生きたい」

「前言撤回するの早すぎるだろ。そんなんだから銀狼族が多少強引な手に出たんだろ」


 ベルを月猫族に届けた時に銀狼族もいた事を言っているのだろう。確かにあれは強引だった。


「こっちがそうしたとは言え、お前の血が欲しい連中がアピールチャンスが無くてヤキモキしている。ここらでガス抜きをしてやる必要があるんだ」

「それでパーティーに?」

「お前が出席すると知れば、接点を作ろうとこぞって有力者達が娘を連れて現れるだろう」

「余計がっついて来ないか?」

「予防線はこちらで張っておく。寧ろ、銀狼族の失敗を聞いて慎重に動くだろうよ」


 笑みを浮かべるハイエルフ様。まさか煽ったりしてないだろうな。


「はぁ……分かったよ。言い出したのはこっちだからな」


 座っていた椅子から立ち上がる。


「待て。帰る前にこれを持っていけ」


 白い封筒を差し出される。


「これは?」

「コンサートのプレミアムチケットだ。シーザーが細君の為に手に入れようと躍起になってたからな。渡してやってくれ」


 おとん…………。

 未だに夫婦仲が良いのを喜ぶべきなのか、新婚の熱がまだまだ冷えていないのにうんざりすれば良いのか、それとも熱意が足りずに上司の手を煩わせた父に呆れるべきなのか。

 何にしてもおとんダッセェ。

 封がされてなかったので封筒の中身を見ると、チケットは二枚入っていた。


「お前は貴賓室」

「何も言ってねえよ。ジー様バー様の近くは嫌だぞ。何かどっぷりとファンになててキモイ。てか五月蝿そう」

「その読みは当たってるが、親類も来る。パーティーの前哨戦だと思え」


 前世の故郷の者ども。貴族っていうのは大変だぞ。

 封筒を懐に入れて俺はオーメルの執務室を出た。


 ◆


「すっごい楽しみだね、テッちゃん!」


 ティーンエイジャーも怪しい見た目の少女が可愛らしくピョンピョン跳ねている。これ、俺の母親ね。微笑ましいとか言うレベルの明後日方向に突き進んでこの世の不条理さを呪いたくなってくる。自分でも何言ってんのか分かんねえな。


「ウチの嫁さんは可愛いなぁ」


 そして隣にはロリコンが一人。俺の父親だ。こいつが一番ヤバいな。

 ヴァレリアのコンサートが行われる会場前にはまだ開演前だと言うのに人が波のように押し寄せていた。

 公都内最大の会場はそりゃあもう大賑わいだ。プレミアムチケットを手に入れた母も年甲斐なく(見た目相応に)はしゃいでいる。

 多種多様な種族の連中が集まっているのハロウィンの仮装パーティーか百鬼夜行に見えなくもない。

 一般入場口とは別に有力者などの上流階級専用の入口がある。

 国際なんちゃらとかでニュースとかでもよく報道されるレッドカーペットのようなものだ。こっちのは白く時折青く色を反射しているが。


「まぁ、素敵ね!」


 現れる国の有力者達、普段は奥に引きこもり表舞台には現れないエルダークラスの面々がそれぞれの部族伝統の豪華な衣装に身を包み会場へと入って行く光景を見て、母が歓声を上げる。

 コンサートが始まる前からこんな調子だた、いざ始まれば血圧上がりすぎてぶっ倒れないか心配だ。


「おかん、ここで体力消耗してコンサート中に死んだりするなよ」

「平気よ。こう見えて頑丈なの!」


 割とマジでタフなので手に負えない。父の方を見れば、そんな母の姿を見て幸せそうにしている。うーん、前世の世界だったら通報間違いなしだ。


「そろそろ行くわ俺」

「えーっ、テッちゃんも一緒の席で見ようよぅ」

「俺はお仕事があんの」


 ブーたれる母をキモイ父に放り投げて俺はお仕事に向かう為に踵を返す。


「えっ!?」


 後ろから母の珍しい声が聞こえた。例えるならカエルの潰れたような音だ。

 思わず立ち止まって振り返ると、母は異世界レッドカーペットの方を見てさっきまでの興奮が嘘のように固まっている。父もまた同じ方向を見ており、気まずそうな微妙な顔をしていた。

 庶民タイプの癖にお偉いさんとのコネがある二人だ。知り合いの有名人でもいたのだろうか?

 気になって戻ろうとしたが、母がぐるりと振り返り両手の掌をこっちに向けて来んなジェスチャー。


「だ、大丈夫だから! テッちゃんはお仕事に行ってらっしゃい! 本当大丈夫だから!」


 お、おう……。こんなに狼狽える母を見るのは初めてかもしれない。隣の父も早く行けとアイコンタクトしてくる。

 気にはなるが、余計な詮索をする気もないので素直に言う通りにする。途中、背中に母の忠告が届く。


「髭もじゃの熊の獣人にあったら直ぐに殴るのよっ!」


 なんのこっちゃ。




 スタッフ専用の出入り口からコンサート会場の中に入る。なんちゃらドーム並の広さがある癖に様式が中世の城のような感じなので違和感がある。というか通路一つとってても横幅と天井の高さが半端ないので目眩がしそうだ。

 巡回している警備員や途中途中に立って出入り口を守っている者に身元証明書を提示しながらようやく貴賓室へと辿り着く。

 アーロン王国の学園でもコンサートはあったが――学生達が暮らす場所と国の文化の中心を比べる自体おかしいが――規模と警備の質が違った。

 なんたって各部族の有力者達が集まっているのだから相当だろう。どいつもこいつも護衛よりも強いのばっかだろうが、体裁と言うのはどこにでもあると言うものだ。

 そんな連中が集まってる場所に単騎で行かなきゃならないって言うね。これ、営業課の新入社員が外回りで取引先の会社に単身乗り込むようなものだ。経験した事ない仕事だけどな! でもそういう心境だという事だ!

 しかも貴賓室って他にもあるんだよなぁ。

 腹の奥底からこの世の不条理に怨嗟が溢れ出そうだったが、ドアの左右に彫像のように待機している警備の人らの視線がそろそろキツくなってきたので覚悟を決め貴賓室のドアを開ける。

 確かここは主に獣人系の部族が集まる部屋だったなと思いながら部屋の中に入る。


「会いたかったぞ、孫よ――ごぶふぅっ!?」


 取り敢えず髭もじゃの熊系獣人が飛びかかって来たので変化させた拳で殴っておいた。


テリオン狙ってる人らはルート一本の乙女ゲーやってるノリ。つまり妥協は無い。

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