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第四十一話 エルダーエルフの庭


 研究塔での件から翌日、歌姫ヴァレリアのガイドを行う為に俺は賓客用の屋敷へと向かっていた。

 俺がヴァレリアのガイドをするとどこから聞いたのか、一人で勝手に盛り上がって着ていく服を選び始めたから困った。

 そりゃあ、国が呼んだお客様だ。学園なら兎も角変な格好はできない。ここがアーロンなら万能服である制服の出番なんだがなぁ。

 取り敢えず一ファンとして勝手に盛り上がるおかんを宥めて七五三みたいな馬子にも衣装状態を何とか回避して、フージレングによくある格好になった。

 よくあると言っても人間族やエルフ族など標準体型の種族が着る普通のシャツにジャケットとズボンだ。こんな地味でも手足の長い美形なエルフは芸能人みたいに似合うのだが。昔いた転生者達が新しい物好きのフージレングのせいで前世が現代人の俺でもあまり違和感なく着れる服が出回っている。ドワーフや獣人など大柄だったり割腹の良い、または体が刺々しい鱗に覆われているような種族には着物が人気だ。

 山のような公都の一般的な移動手段は徒歩だ。ただし兎や鹿以上の脚力でのジャンプだけどな! それか飛ぶ! 伊達に他種族国家やってねえよと言わんばかりの光景が当たり前のようにある。

 勿論、足の遅い種族もいるしゆっくり移動したいという呑気者もいる。それに観光客も。

 前者である俺はゴンドラに乗って移動する。環状線みたいな交通機関で公都中にゴンドラが稼働していて、主要な地区への移動はこれがあれば十分だ。

 ゴンドラで高級住宅街みたいなお屋敷ばかりが建っている場所へ移動し、そこから更に歩いて無駄に広い庭を持つ屋敷に到着する。まあ、ここら一帯はやたらとデカい庭(一部家庭菜園……と言うか畑)が多いので珍しくはないのだが。

 門の所には当たり前だが門番がいた。ガチガチの全身鎧に固めた三メートル強の巨人族のお二方だ。巨人族の大きさは個体差激しいからなー。偶に自分の意思で大きさ変えられるのもいるけど、防衛に関してはこの辺りのサイズの巨人族が人気だ。

 デッカイ盾にハルバート装備の全身鎧二人。もう近寄り難い雰囲気が装甲以上にバリバリである。


「お疲れ様でーす」

「あ、どうも」


 そんな極道よりも物騒な巨人を相手に軽く挨拶する。気さくな返事が来た。


「話は聞いておりますが、規則なので身分の確認をさせて貰いますねー」

「どうぞー」

「はい、確認取れましたー。ご協力ありがとうございます」


 魔力波形と指紋の照会を魔導具一つでパパッと済ませて通してもらう。地元だと面倒な手続きもそう緊張しなくて良い。

 ボス部屋前の中ボスみたいな二人の脇を通って屋敷前のロータリーにまで行くと執事のハイエルフが出迎えた。エルダーとかハイ、ノーマルの見分け方は勘だ。こればかりはフージレングで生まれ育った慣れと言える。ほらあれだ、白人から見たらアジア人の顔の区別がつかないのと一緒だ。逆に慣れた奴はだいだい分かる。

 見た目イケメン中身超老人のハイエルフに案内されて応接間に行くと既にヴァレリアが待っていた。


「いらっしゃい。待ってたわ」


 ヴァレリアは微笑を浮かべいちいち優美に座っていた。些細な所作一つだけで一々人の注意を引く人だ。

 ……俺より一つ上だから十三ぐらいだよな? えー、下手な上級貴族の女よりも雰囲気と言うか気品があんだけど。侯爵家の娘なんだから当然だと思えるがまだ十三だ。日本よりもこの世界の若者は早熟と言っても質が違う。

 これがかつて前世では一世を風靡し、世界的な歌手となった者の貫禄か。畜生、どうせ生きていくだけで精一杯だった社会の底辺の上に座ってた将来性の無い男だったよ俺は!

 だがここは心の涙は呑んで職務を全うしよう。強制的な仕事だけどな!


「お待たせして申し訳ありません。改めて自己紹介させていただきますと、今回案内役を勤めるテリオンです。よろしくお願いします」


 前日の夜に練習した挨拶である。これ以降は特に考えてないのでアドリブだ。


「今更そう固いのは無しでいいわよ。行きの馬車でも言ったでしょう」

「そういう事ならまあお言葉に甘えて……」


 と言っても肩の力を抜いただけだ。でも助かった。正直言ってこの後の台詞とか考えてない。


「それじゃあ、来て早々に悪いけれど出発しましょう。最初はどこに連れて行ってくれるのかしら?」

「ワクドキエルフジャングルです」

「ワクドキエルフジャングル?」

「ワクドキエルフジャングル」


 首を傾げてリピートしたヴァレリアに俺は真面目な顔でオウム返し返しした。いやだって、マジで近所のガキ達からそう呼ばれてるんだもん。




 正式名称――宝樹翡翠庭園。

 翡翠のような結晶体の樹木を土台にして作られたエルダーエルフの森を再現した植物園。遠くから見ると本当に翡翠の巨大なドームであり、昔は太陽光を反射して眩しいと苦情があった為に光量を下げる結界が張ってあったりと無駄に金を使っている。まあ、税金対策と言うか無駄金で市井を潤しているので無駄遣いはエルダー(創作系趣味の連中は除く)にとって望むところらしいが。


「これ、木なの? 凄いわね」


 庭園の入口前、翡翠の木で作られたドームを見上げてヴァレリアは驚愕の表情を浮かべる。確かに形は木だが、宝石のように輝いているので驚くのは無理もない。ちなみに魔力を多く内包しているので本物の翡翠よりもお値段が高い。


「中に入る前にこれをどぞ」


 俺はヴァレリアに輪っかの紐を通した板を渡す。


「これは入場証かしら?」

「それも兼ねてるんですけど、本命は魔力を弾く機能ですね。この中、魔力が濃いんです。どのくらい濃いかと言うと、一回呼吸しただけで魔力酔いを起こすぐらい」


 許容量以上の魔力を溜め込むと魔力酔いという現象が起きて体調を崩す。食い過ぎは良くないのだ。寧ろメチャ濃い酸素を吸ったに近いんだが、そこまで致命傷ではないしな。


「貴方はいいの?」

「体質上平気なんで」


 素の状態は出力も魔力の産出量もそんなに高くないが保有量だけは無駄にある。魔力で肉体を変化させる混雑種としての特性だろう。何より胴体に溶かして流れている輝珠族の宝玉は化物みたいに魔力を貯められる。ディエゴの戦闘で消費した分は庭園に一時間もいれば補充できるだろう。

 ……この魔力をどれだけ吸っても平気な体質が種馬にされる(未定。未定つったら未定!)要因なんだろうな。一部の種族は魔力の過剰譲渡が発生して相手を殺しかねないからな。魔翼族とか、魔翼族とか!

 出してんのに与えられて(下ネタ)死ぬとかウケるーッ、ハハッ!


「どうしたの?」

「食肉処理工場に連れて行かれる家畜の気分になっただけです」

「ここってそんなに危険な場所なの?」

「庭園とは無関係なんで安心してください」


 隔離されてる食肉植物エリアに行かなければな! ゲームに出てくる植物系モンスターみたいなのが沢山いる所の境界線で度胸試しを同年代とした事あるが、鈍い鉱物族の子供が喰われた時は大変だった。ちゃんと助けたが、その子供の表面がちょっと溶けていたのにはビビって別の意味でも肝試しになってしまった。

 中に入ると、濃い緑の匂いが叩きつけられる――が、すぐに薄まり透き通った心地良い空気となる。


「まぁ……っ」


 ヴァレリアが感嘆の声を上げた。

 目の前に広がるのは自然豊かなこの世界でもお目にかかれない森の神秘だった。

 木々のサイズは普通だが、その普通の木一本に森が丸ごと凝縮したような存在感がある。それがズラリと目の前に広がっているのだ。

 生物の本能として危機察知能力はあるが、植物に対してもそれを受けるらしい。

 この宝樹翡翠庭園に初めて来る者は必ずたった一つの木が宿す生命力に圧倒されるのだ。


「――はぁ……凄いのね」



「辛くなったら言って下さい」

「大丈夫よ。圧倒されただけだから」


 極々自然体でヴァレリアは笑顔を向けてくる。くっ、これがかつて厳しい業界でトップに登り詰めた人間のカリスマ。いや、よく知らんけど。

 何となく生まれ持った人間力の格の違いを感じつつ、庭園内を案内する。この奥に談話スペースみたいな開けた場所があって、偉くてお上品な人らが茶をしばいているのだ。

 他では見られない色鮮やかな花々も咲き乱れており、ゆっくりと歩くだけでも飽きないだろう。俺には無理だが。

 ヴァレリアの足取りは遅い。周りの植物に目を奪われているようだが、キョロキョロしたりする訳でもなく貴人と言うに相応しい上品で優美な動きだ。

 挨拶よりも、ヴァレリアが自分の歩みが遅いと気を使わせないような速度で先導する方に気を使ってしまう。


「こちらです」


 ひまわり畑とかバラ園とか、とにかく植物で出来た道を通った先の談話スペースにようやく到着した。

 まず最初はここでエルダーエルフとのお茶会があるのだ。オーメルから貰った予定表にはそうあった。


「――は?」


 ――あったのだが、そこにいたのは幼女が一人だけ。ウェーブのかかった長い金髪に青い瞳、日焼けなどとは無縁の白磁のような白い肌、何よりも特徴的なのは背中から生える半透明の七色に光を反射する翅だ。

 この世の物とは思えない幻想的な美しさを備えた少女であった。いやマジでこの世のモンじゃねえ!


「テメェ、このイタズラ虫が!」


 手首から某蜘蛛男のように糸を網状にして射出する。糸がクソ虫を覆った瞬間、空間が歪んで一瞬で幼女の姿が消えた。

 網は標的を見失い、食い荒らされたテーブルの上に落ちた。

 あーっ、もう、何でこんな時にここでアレが出て来るんだよ。


「テリオン、今の子は?」

「……妖精女王です」

「妖精女王って、童話で出て来るあの? でも子供の姿だったわ」


 妖精女王と言えば童話などこの世界のフィクションにも舞台装置のような立ち位置でよく登場する存在だ。敵でドラゴンとかが出て来るのと似たようなものだ。

 一般的な妖精女王への認識は大きな運命を背負った物語の主人公に試練やらを課しつつ協力な武具を与えたり、妖精達を取りまとめる上位存在というものだろう


「外見年齢は気分次第なんですよ。コロコロ見た目が変わって、でも中身はガキのままで。さっきみたいに菓子を食い散らかしては消えるんです」

「エルダーエルフの人達は?」

「邪魔だから無理やり転移させられたんでしょう」

「転移魔法ってそんな簡単に使えたものかしら?」


 そう、それが普通の感性なんだよなぁ。うちの上位陣は散歩するみたいなノリで使うからな。ここにいると感覚狂っちまう。

 結局、その後少しするとエルダーエルフ達は自ら転移魔法で戻ってきた。焼けてたり水浸しになってたり、生物の物と思われる謎の液体まみれだったりしてとてもこれからお茶会という感じでは無かった――が、そこは急いで着替えと後片付けを行って無理矢理に歌姫との茶会を再開した辺り権力握ってんなこのジジババ共と思った。その力の一部でもオーメルに使ってやれよ。


<妖精女王>

超レアなドロップ品を出す激レアモンスター。ただし甘味を奪われるだけのこともある。

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