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第四十話 魔法以上に訳の分からん物は実在する


 研究塔には各分野のプロフェッショナル達が引き篭っている。外に出かけて社交的な生活をガン無視しせっせと自分のやりたい事だけをする技術と知識を持った社会不適合者の集団で、なんと言うか取り敢えず優秀だけど問題のある連中を一箇所に穴の中に放り込んだ感じだ。

 リーグの研究室から飛び出した俺はそんな変態の一人、エルダードワーフのドドラの鍛冶場へと向かっていた。

 ドワーフと言えば鍛冶というイメージだが、ぶっちゃけそうとは限らない。日本人から侍や忍者が消えたように山に篭っていた時代は終わり現代のドワーフはすっかり垢抜けて職業選択の自由で好きな職に就いている。

 だが俺が今から会うのはエルダードワーフ。ドワーフの始祖。皆がイメージするバリバリのドワーフだ。鍛冶馬鹿だけど。


「オラァ、開けろゴラァ! ドドラ様に面会を求めます!」


 勢いで鍛冶場の門を蹴り開けて、すわカチコミかと視線を向けてくるドドラの弟子達に気づいて途中で言葉を改める。

 ドドラはリーグと違って犯罪者でも無いし名家で人間国宝扱いされている偉人でもある。彼の元には人種問わず多くの家事職人達が集まっている。その内の知り合いの高弟である蜥蜴人が俺の対応に出てきた。


「種馬殿ではないですか。親方に何か御用で? とうとう内蔵武器を仕込むつもりなら喜んで致しますよ」

「まず種馬殿と呼ぶな。それとサイボーグ化するつもりはない」


 実は前から内蔵武器搭載の話はチラホラあった。だって俺、拒絶反応とか無いし面倒な神経のメンテとか調整を自前で出来る体だからいつまで経っても男の子な武器大好き野郎共からそんな要請を受けている。勿論全部断っている。

 生まれつき怪人みたいなのに改造人間要素まで加わったらもう自分が訳分からないよ。


「数百年喪女なウチの姫様を救って下さいよ種馬殿ォ!」

「向こうから縁談断って来るんですよ!?」

「どうでもいいから改造させてくだされ!」

「煩ぇよお前ら! ドドラのジー様はどこだよ!?」


 何時の間にか群がってきた連中を怒鳴る。ジー様バー様の近くにいる人間は遠慮を捨ててしまっている節がある。


「親方ならテリオン殿の素材で魔導具造ってますよ」

「おいコラテメェらァ! 最初から分かってやがったな!」


 ダメだこいつら、エルダーに毒されてやがる。

 俺は馬鹿共を無視して鍛冶場の奥へと走る。何度も着ているので普段どこで作業しているかは知っている。問題はそれが複数あるので虱潰しするしかないという点だ。

 研究塔はデフォで空間弄ってるから広すぎる。突然原因不明の自己で空間魔法が解けて潰れれば良いのに。どうせこいつら岩の中状態でも生還するような連中ばかりだし。

 取り敢えず近い順から片っ端に開けていく。いくつかハズレを引き、金属細工をする作業部屋にてドドラを発見する。

 作業の邪魔になるのではと思える程の髭モジャのエルダードワーフは黒い腕輪に金細工を施している所だった。


「って、それ俺の皮膚ゥ!?」


 見た目や色が変わっていても分かる。ドドラが手を加えている腕輪こそが俺の体の一部だった。


「ああああっ、体の一部が見るからに凄い効果持ってそうな超レアアクセサリーになってるとかスッゴイ複雑な気分なんだけど! クソがッ!」

「脱皮して捨てた物だから別にいいだろうが!」

「うるせェ! お前にこの形容し難い複雑な気持ちは理解できねえよ!」

「グラゴラスも似たような事叫んで殴りかかってきた事あったな、そういえば」


 この爺、竜人族の長まで素材だと思っているようだ。

 そもそも生モノで武器を作るというのがおかしい。ゲームだとモンスターの素材使って武器の強化とかやっているが、よく考えると生物の死骸だぞ? 骨とかならまだ分かるが、ドドラが素材にしたのは言ってしまうと皮膚や爪だ。そのまま使うような原始人スタイルじゃなくてハンマー振って鍛え上げるのだ。

 ……おかしくね? 何で爪を熱して叩いたらより頑丈になるんだよ。


「何をどうやったら人が皮膚で黒鉄色の腕輪ができるんだよ。どんな突然変異があったんだよ!」

「錬金術じゃよ」

「クッソ、魔法の言葉使いやがって!」

「だいたいお前さんの皮膚……殻は鉱物に近かったぞ。何をどうやったらあんなのが生まれるのかこっちが知りたいわい」


 それは俺も知りたい。


「ったく、どいつもこいつも人の体を何だと思ってるのか」


 一頻り叫んだおかげである程度落ち着く。


「お前さん、文句言いに来ただけなのか?」

「寧ろ何で文句言われないと思ったのか。ネルサも供物にしやがるし」

「神に捧げられる程のものとして認められたって事だろ。良かったじゃないか」

「良くねえ!」


 どいつもこいつも……。


「てーか、こんなの造って誰が持つんだ?」


 造りたかったから造ったんだろうが、造った物を死蔵するような職人でもない。


「ヴァレリア・イシュタナが来るじゃろ? プレゼントだ。儂、ファンなんよ」

「あんたもかよ! 何!? エルダーは揃ってヴァレリアの虜かよ!」


 ヤバくね? 真面目にフージレングの超上位陣取り込まれてね?


「ファンクラブもあるぞ。ちなみに儂はフージレング支部ファンクラブの会員な」


 そう言われ見せられるファンクラブカード。ナンバーが二桁だった。……まさかエルダー達が揃いも揃って上位ナンバーじゃねえだろうな?


「頭痛くなってきた」

「医者呼ぶか?」

「呼んで来るのはリーグだろ。つかさっき行って来たから」

「いや、儂の孫。癒者の資格を取ったらしい」

「あの人、資格好きだよな」


 前世でも資格ばっかり取ってる資格コレクターみたいな人はいたが、正にそれだ。


「……孫に看病されれば流石に靡くかな?」

「ぼそっと言ったつもりだが聞こえたぞオイ!」

「だってしょうがないだろ。曾孫の顔がみたいんじゃ」

「孫がいるだけマシと思えよ! 他の連中は子供いないのだっているんだぞ」

「そう言われてもな……弟子達が孫自慢してるの見ると対抗したくなる」

「すんなよ、いい歳だろうが。ミシェーラで我慢しろよ」

「あいつの場合は孫自慢と言うか愚痴になっちまうから。見た目は良いのに恐れられてるからな」

「怖ぇよ……はぁ、もういいや。というか本題がズレてる。スゲー明後日の方向に。俺の外殻使って勝手に武器作るなよ」

「新素材を見るとつい色々造ってみたくなるんじゃ。勘弁しろ」

「勘弁しろって言いたいのはこっちだ。よくもまあ何百年も造っていられるな。どっかで飽きたりしないのか?」


 金に困っていないし地位や名声とて既に引退した身で研究塔に天下りしているドドラだ。そもそもエルダーという時点で特権階級だ羨ましい。

 だからドドラは働く必要がなく、もう完全に趣味だけで生きているようなものだ。それは他のエルダークラスの連中にも言えるが、趣味だからって永遠と続けられるものなのだろうか。途中で飽きると言うか、疲れたりはしないのだろうか? 俺が飽きっぽいからそう思うだけかもしれないが。


「偶に手を休めて数年何もしない時はあるさ。で、久しぶりにハンマーを握ってまた始める。その繰り返しだ。特に理由はなく、もう生態と言っても良いぐらいだな」


 ある意味悟りを開いている状態なのかもしれない。


「それにやっぱこういうのに完成はないんじゃよ。事実、儂はまだ最高の武器を造っていない」

「伝説の武器とか造りまくってんじゃねえか」


 ゲームだとクリア後の隠し武器のようなものを幾つも造っているエルダードワーフだ。この鍛冶場に無造作に置かれている物だって外の国で売り払えば一生遊んで暮らせる。


「フッフッフ、最高の武器とは何だと思う」


 不意にドララが不敵な笑みを浮かべて楽しそうに話し始める。あっ、これは自分じゃないのに自分の事のように他所様を自慢して悦に入る年寄りの長話のパターンだ。


「スゲェビーム出る系」

「そんなもん飽きた。だいたいビーム出すなら大砲だろ。俺らがよく造ってるのとは違うだろ」

「光る剣造れねえの? ルシオさんはビュンビュン飛ばしてるけど」

「ルシオって勇者(ブレイブハート)|のルシオか? アレは過剰な魔力でブッパしてるだけだろ。だいたい、ビーム撃つなら剣よりも大砲にした方が安定性も威力もダンチじゃろ」

「前、実体の無い光る剣造ってなかったか?」


 某SF映画のライトなセイバーな感じの。


「あれは熱を剣状に固めた奴だからな。熱で斬るのを目的にしたからビームは出ん」

「というかあんな物騒な物誰が使うんだ? 触れただけで蒸発して怖ぇじゃん」

「お前の父親」

「オトンンンンッ!?」


 いつの間にそんなアレな武器を手に入れてたんだ!? そんな話聞いた事ねえぞ! クソッ、秘密兵器としていつの日か出すタイミングを探しているのだろう。絶対、『こんな事もあろうかと!』なんてドヤ顔で言うだろうな。


「チィ、探し出して落書きしたろ。で、最高の武器って何?」

「うむ。儂がまだハンマーも持たせて貰えなかったガキの頃、フージレングも無かった程昔の話だ。一人の人間が儂の父に弟子入りしていてな。そいつは完全な素人でしかも既に年を重ねた中年だった。後から聞いたのだが、元は代官の仕事をしていた男らしくて、どうした事か仕事を辞めてわざわざドワーフの里を探し当てまで来たのじゃ」

「へー」

「人間の寿命は短い。千年前なら尚更な。歳取った素人が今更鍛冶師を志そうなんて無理な話で親父は最初断ったんだが、最終的に根負けして弟子入りした。周りの心配や不安に反してあいつはメキメキと腕を磨き、僅か十年で親父に一人前として認められた」

「マジか」


 鍛冶に限らず職人というのは生半可な道じゃない。何十年と仕事を続け終わりなく技を磨き続ける生き方だ。前世では言葉でしか分からなかったが、今世のように良くも悪くも色んな人と接していればその過酷さの一端程度は理解できるようになる。

 エルダークラスの職人の弟子となればそれこそ寿命の短い種族は一生かかっても認められないだろう。


「一人の鍛冶師として独り立ちした後、あいつは故郷に戻った。それから数々の名剣を造り上げたと聞いている。そして、死ぬ間際に最後に打ったのが――」

「最高の剣か」

「そうじゃ。名はフラヴラガラ」


 へー……フェイリスが持ってた剣と同じ名前だな…………え?


「折れず曲がらず欠けず、決して傷付く事はなくあらゆる物を切断する魔剣。それがフラヴラガラ。剣としての性能を突き詰めた正しく究極の武器じゃ」


 そういや、ディエゴでさえも魔剣を警戒して直撃を避けてたな。


「何が凄いのかと言うと、その頑丈さ。もう凄ぇの。魔術的な防護もないのにドラゴンブレスや空間断裂喰らっても壊れねぇの」

「何それ意味が分からん」


 本当に意味が分からない。てっきり特殊な鋳造で錬金術や魔術を組み合わせた故の非破壊かと思っていたら、魔術の防護がない? それってつまり普通に金属を鍛えただけって事だよな。


「それな。物質的な頑丈さだけで何故か物理干渉系の力も効かない。正確に言うなら耐える」

「いやいや、ありえないだろ」

「それが有り得たんじゃよなぁ。あやつが死んだ後、フラヴラガラは親父の手に渡ったんだが、試しに様々な種族に協力を頼んで耐久実験した結果『あっ、これ壊すの無理だわ』という総意となった」

「弟子の形見に何してんだオイ!」

「親父には確信があったんだろう。これは絶対に壊れないとな。弟子の最後の作品を自慢したかった訳だ。悪逆帝に奪われた時もそれはもう凄い怒りようだった」

「それはまた……」

「その親父も五百年前の戦争で死んでしまった。結局、フラヴラガラは見つからず仕舞い。誰かの手に渡っていたとしても、せめて親父の墓の前で見せて欲しいもんじゃ」

「………………」


 どうしよう、教えてやるべき何だろうが持ち主は王女であるリズベットの付き人をしているフェイリスだ。外交的に問題なくないか? いや、別にすぐにどうこうって訳じゃないし、向こうの立場を知ればドララでも自重するだろう。せめて誰の手にあるのかだけでも教えてやるか。


「儂も何時何があって死ぬかも分からん。だから早いうちに曾孫の顔が見たいのぅ」

「帰るわ」


 やっぱ止ーめーた。


この世界のドワーフの女はロリ系でもなければ髭生えてる系でもありません。

ドワーフの男が男らしさを現す渋顔アンドマッチョなら、ドワーフの女は女らしいを体で表現してるタイプ。今後出るかは未定だけど!

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