第三十八話 八百万の神々とか便利な言葉だよな!
星詠みとは国の未来を占う(情報精査による高度な計算予測の面が強いが)連中の事で宗教連中の元締めだ。その星詠みの代表的なのが便利な便利な第三の目を持っている天眼族である。
「いやー、アーロンじゃあ大変な活躍だったみたいだねー」
「お前らのせいだぞ」
「まあまあ、男は度胸と冒険心だぞ」
「関係ないだろ」
俺の怒気などお構いなしに天眼族の女、ネルサは笑う。天眼族の中でも偉い地位にいる人物なんだが、性格が気さく――馴れ馴れしく一般受付にも簡単に姿を現し周囲に声をかける。
結果、信仰深い年寄りにありがたがれる。
「取り敢えずここじゃなんだから場所移そっか」
「そだなー」
周囲ではこっちが会話しているのに割り込んで来るのはいないが少し離れた場所でネルサに向かって手を合わせていた。
ご利益にあると話題の物を拝む田舎の人みたいな光景はシュールだった。
神殿内のロビーから奥の通路へと移動する。関係者か何かしら中の人間に用のある者しか使わない通路なので一気に人の気配がなくなり、時折すれ違う人も黙って会釈して通り過ぎて行く。
「チラッと見たけど疲労残ってるねー。飴ちゃん舐める? ウチで作った新製品」
「ゲテモノじゃなかったら良い」
「はい、サボテン飴」
「それ、幻覚見える奴じゃねえか! 知ってんぞ!」
ペヨーテモドキなんぞ食えるか。
「神様と交信しやすくなるのになー。じゃあ、甘さだけを控え目にしたブドウ糖」
袖の下から取り出された白い糖の塊を貰い、ボリボリと噛み砕く。
天眼族は脳を酷使する種族だ。その為に色々と薬や補給できる物を開発している。脳の使用領域が広いからなのか医者じゃないから知らないが、普通ならアブナイ薬でも平気で常用していたりする。
だからこいつらから貰う食べ物には注意を払う必要があった。
あっ、でも額に付けてるのは少し欲しいかも。第三の目を使うと頭痛がするので普段は眠らせてる俺だが、そのせいで使用するのに少し間が出来てしまう。ネルサが額に付けているのは魔導具で、第三の目用の穴は蓋をしておく事ができる。そうしておくと瞼閉じてても情報を入力する目の情報収集を遮断して休める事ができるのだそうだ。
「欲しいなら作ってあげるよー?」
「俺が付けてたら天眼族の肝いり広告になるだろうが。あとナチュラルに思考を読むな」
俺程度では『視る』事に関して便利な目だが、本職はそれだけじゃなくて人の思考まで視れる。普通にヤバい種族である。
雑談しながら歩けば目的の場所まで到着した。
そこは天眼族管轄の祭壇がある場所だった。
「ステータス、見るつもりだったんでしょ。捧げるついでに視てあげるわよー」
「そうだな。それは良いんだが……アレは何だ?」
既に準備が整えられているらしく祭壇の上には果物や金銀財宝がサラッと簡単に置かれている。神の存在が知覚されているこの世界では食べ物や物品を捧げるのはよくある事で、儀式自体はさほど畏まったものじゃない。その気になれば祭りの熱気がそのまま供物になる。
それは良いんだが、捧げ物の一つに非常に見覚えのある物があった。果物一つ、一見石ころ一つとっても貴重な品な中で場違いなカーキ色の物体。
何かの鉄板のようにも見えるし竜の鱗や虫の外殻にも見える謎の物体。
ぶっちゃけると俺がディエゴと戦った際に全身変化した時の装甲だった。
「欲しいって言われたからくれてやったが、供物にするなんて聞いてねえよ!」
「ドラゴンの髭より希少かなって」
「ざけんな!」
普段なら変化し直して元に戻すのだが、あの時はそんな余裕が無かった。だから脱ぎ捨てる形で無理やり剥がしたのだ。剥がした後は変化させられないし、そのまま放置しておけなかったのでベルに全て回収させた上でこっそりとデネディアの屋敷に運び入れた。アーロンの兵にでも発見され、未知過ぎる生物の一部とか話題になられても困るからな。
その後は帰省の際に密輸のノリで馬車に積み込んでフージレングまで運んだ。そこからは事前に手紙を送ったオーメルの私兵が各所に配ったのだ。
「一部だからって自分の体が供物にされる身にもなれよ! これって生贄じゃね!?」
「切り離した一部だし良いかなって。それに研究塔から植物と無機物の中間っぽい物って判定来たよー」
「人の存在証明を揺るがしかねない発言をサラッと言うの止めろや」
確かに鉱物族と木精族、デミファクト族の血も流れてるけどさァ! そんな中間の新種扱いされると複雑なんだけど。
「だいじょーぶだいじょーぶ。巫女が長くなり始めた髪をカットしてそのまま供物にする事ってよくあるから」
「それはそれで雑い」
髪は女の命と言うが、それって単に不要な部分を神様に放り投げてるだけだろ。極論、切った爪でも良い訳だ。
「そういう訳で着火ー」
「ちょっと待てや不良巫女!」
止めても無駄で、ネルサが供物に火を付ける。ただの放火ではない。すっごい雑だが神へ供物を送る神聖な儀式だ。火種こそはただの蝋燭の火なのだが、燃え広がるにつれて普通の火でなくなっていく。
供物以外を燃やさないのだ。不自然な燃え広がり方は炎そのものに意思があるかのように動き、祭壇の上だけの供物だけを燃やす。
火力も派手ではなく供物を覆う程度なのに確実に燃やし灰にしていく。
供物が完全に燃え尽き跡形もなく消えると同時に火もまた消えていた。
「はい出ましたー、テリオンのステータスですー」
「相変わらずお前らがやると簡単に出るよな」
信仰深い者でなければ使えないとか言われるとは何だったのか。
ネルサの第三の目がペカーと光って中空に俺のステータスを表示させる。レーザー出す原理でアレやってると思うと引きつった笑みが顔に出る。俺にはあんな繊細な事はできない。目からレーザーや魔力ビーム撃つ時だって大分負担を強いる。パソコンの前に長時間いた時に倍以上の疲れが一気に来るのだ。あと焼けるように熱い。某Sマークのスーパーヒーローとか目は大丈夫なのだろうか?
さて、俺のステータスだが――
・種族:混雑種
・スキル:<杖術:下位><投擲術:下位><レンジャー:下位><魔術基礎:下位><自己改造>
・アビリティ:<キマイラVer.1.2.0>
「変わって――いやバージョンいちにぜろって何だよ!?」
「死闘を乗り越えた男の子は成長するものだけど、技量関係が全然ねー」
「クソがッ! 他の連中は前より何かレベルアップしてやがったのに何で俺だけ!」
別に授業はサボってない。それなのにフージレングの同い年連中だけが強くなっていた。
キャンプ場で再開した同郷どものパワーアップした姿を見た時の俺の嫉妬パワーは絶大なものになったのは間違いない。だがそのパワーが俺をパワーアップさせる事はなかった。
蜥蜴族のミドリムシめ。いつの間に水の上を走れるようになりやがった。鬼族のなんちゃってガキ大将は拳で遠当て出来るようになっていた。エルフのカマ野郎は射った矢を曲げ、獣人エロ双子は口から炎と氷を吐いた。
どんなサーカス団だよ。ムカついたから四肢変化で殴りかかってやった。その直後で熊と猪の怪獣決戦が始まってしまった訳だけど。なんだイジメか? イジメなのか? 靴に黒いアレな生物ブッ込むぞゴラァ!
「テリオンの場合は色んな種族の良いとこ取りが出来る分、肉体の習熟に取られちゃうからー」
言い訳っぽいが、確かに変化させた肉体を使いこなす方に注力せざる負えないのだ。腕一つでも伸びたり重くなったり関節の位置が変わる。
子供の頃、ある程度変化できるようになった頃はよくコケた。猫背にもなりがちだったし、元の体に戻した際にも違和感があったりした。
「でも連中のあの成長率は異常だろ! ケェッ、天才様か! 転生者のスゲーの法則無視して周りがアレか! 才能の塊か! というこれって小学生の時麒麟児とか言われてたけど中学上がって問題が難しくなった途端馬脚現す奴じゃん! 所詮は負け組か!」
「久々に聞いたわねー、テリオンの妬みー。何でそんなに各方面に唾飛ばしてるの?」
「性分だ」
前世では親しい人間(いたっけ?)の前でもこんな風にギャアギャア騒がなかったのだが、転生してからこの辺りはっきり言うようになった。びっくり人間博覧会のような世界に染まったせいだな。
「あっ、そうだ。アーロンにいた転生者で未来予知できる奴がいたんだけどさ」
危うく忘れかけていたここに来た目的の一つを思い出す。アクセルは重力操作だけでなく未来を予知する能力がある。ただでさえ強力な能力である筈の重力だけじゃなく未来予知とか人様舐めとんのか。
しかもブーメルの情報が確かなら奴はそれで自分ン家の領地を豊かにしたとか。内政チートか! なんちゃって専門知識の代わりにチートか! おめでとう領民! 死に腐れアクセル!
「うーん……それってアウターアビリティ? それともギフト?」
「さあ? どっちだろうな?」
てっきり二つともアウターアビリティとも思ったが、前世の世界の記憶とか未練やらの結果が能力として顕現している訳だから二つあるのはおかしい。例え多重人格だろうと魂がいくつあろうとそれら引っ括めてアウターアビリティとなる。
「この目で直接見たら分かるんだけどねー」
自分の第三の目を指差してネルサは言った。レーザーや予知だけでなく、天眼族の目は凄い。俺の目が高性能カメラならスパコン解析能力付きの超高性能観測機だ。ごめんテキトー言った。要はダンチなのだ。
「そいつ、俺がアーロンの王女様を殺す予知をしたらしいぞ」
「外れるでしょー」
「簡単に言うな」
「アウターであろうがギフトであろうが、星詠みの私達がそんな国際問題が起きる未来の欠片も知れないなんてありえない。特にテリオンに関する事ならね」
「じゃあ、デタラメか?」
「んー、予知の形態によるわね。私達にみたいに識るならともかく、目で見るタイプだと映像しか分からないから因果関係が分からず誤解を生むし、それを逆手にとる魔術師もいるわー」
「つまり奴は雑なのか。ザマァ……そういやぁ、あいつ最近散々だったな」
ちょっと同情する。今だけで次の瞬間には指差して笑う心算だが。
「じゃあもういいや。顔も出したし、俺ぁ行く。ステータスは見なかった事にする」
「現実から目を逸らしたら駄目よー? それでどこ行くの?」
「研究塔」
「駄目よテリオン! そんな自分の身を切り売るような真似をしちゃ駄目!」
「人の一部を神様に捧げやがった奴が言うセリフじゃねえ!」
半泣きで抱きつこうとしてきたネルサを避けて、俺は小走りで神殿を抜け出した。
さあて、日本の八百万精神が表に出まくったような神殿の次は大国の技術力の闇に尻を乗せて屁をこいているようなマッド連中が生息する研究施設だ。
フフッ、震えてくるぜ。いや、マジで怖い。
<天眼族>
目からビーム、が通常攻撃の種族。額の瞳はもう一つの脳であり、膨大な情報も処理できる。
目以外の身体的特徴として黒髪で褐色の肌を持つ。ハーフもいるが、その場合の多くは第三の目が開かない。




